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【登場人物】
李志完(28)会社員
鈴木信一(28)会社員
田中沢子(25)韓国語教室の生徒
米林明子(28)会社員
山井静(28)会社員


○四星商事・全景
巨大なオフィスビルが立ち並んでいる
その一角に四星商事と書かれた古びたビル

○同・オフィス・中
社員たちがせわしなく働いている。
李志完(28)がパソコンに向かっている。
隣の席の鈴木信一(28)が李に声をかける。
鈴木「李さん、メシ行こうぜ」
李「良いですよ」

○同・社員食堂・中
大勢の社員で賑わっている。
カレーライスを食べている李と鈴木。
鈴木「李さんって、日本に来てどれくらい?」
李「大体5年くらいですかね」
鈴木「たった5年でこんなに日本語上手くなれるもんなの?」
李「いやあ、まだまだじぇんじぇんですよ 」
鈴木「確かに」
李「え? 」
鈴木「いや。でも何で日本に来たの?」
李「韓国はもうずっと不景気で就職も難しいです。日本の方が景気が良いですね」
鈴木「へ〜そうなんだ」
李「ですからまず働くために来ました。それからもう一つ」
ズボンの後ろのポケットから紺色のハンカチを取り出す李。
ハンカチは所々ほつれている。 
鈴木「ハンカチ?」
李「はい。このハンカチをプレゼントしてくれたのは日本人の女性です。僕に初めて日本語を教えてくれたのも彼女です」
鈴木「韓国で出会ったの?」
李「そうです。でも、彼女が日本に帰ることになって。そのあと次第に疎遠になって、結局それっきりなんですが」
ため息をつく李。
鈴木「まあ遠距離は難しいよね」
李「でも彼女のおかげで日本人が好きになりました。それも理由の一つですね」
チャイムが鳴る。
席を立つ社員たち。
鈴木「あ、やべ」
急いでカレーをかきこむ鈴木と李。

○公民館・全景
木々に囲まれた公園の一角に、古く大きな公民館がある

○同・韓国語教室・中
高齢の女性たちで賑わっている。
その中に田中沢子(25)の姿。
李が韓国語の講義をしている。
李「韓国語でお疲れ様、は何と言うか。皆さんご存知ですよね?いつも講義の終わりに私が言っている言葉です」
女性たち、声を揃えて、
女性たち「(韓国語で)お疲れ様でした」
李「そうです!素晴らしい。皆さん上達が早いですよ」
嬉しそうに笑う女性たち。
李、腕時計を見て、
李「それでは時間になりましたので、今日の講義はここまで。(韓国語で)皆さんお疲れ様でした」
女性たち「(韓国語で)お疲れ様でした」
女性たちが教室から出ていく。
ホワイトボードの字を消す李。
後ろから沢子が李に声をかける。
沢子「先生」
李「ああ、田中さん。お疲れ様でした」
沢子「(韓国語で)お疲れ様でした」
李「おお、いいですね。発音も素晴らしい」
沢子「先生こそ、日本語お上手ですよね」
李「いえいえ。まだまだじぇんじぇんです」
沢子「本当だ」
李「え?」
沢子「ああ、いえ。ねえ先生、これよかったら使ってください。貰い物ですけど」
沢子がグレーのハンカチを取り出す。
李「ハンカチですか」
沢子「でも男性ってあんまり使わないですよね?」
李「いえいえ、ありがとうございます」
ハンカチを受け取る李。
沢子「良かった。それじゃあまた来週」
嬉しそうに教室を出る沢子。
ハンカチを見つめる李。

○四星商事・男子トイレ・洗面所
歯を磨いている李。
後ろから鈴木がやってくる。
鈴木、手を洗いながら、
鈴木「李さんって潔癖だよね」
李「普通ですよ。日本の男性はどうしてご飯を食べた後歯を磨かないんですか?」
鈴木「そりゃ朝と夜は磨くけど。昼に歯を磨く男は少数だと思うよ」
歯を磨き終わり、ほつれた紺色のハンカチを取り出す李。
鈴木「それまだ使ってるの?」
李「ええ」
顎に手を当てる鈴木。
李「どうかしましたか?」
鈴木「…李さんてさ、日本人に対してどういうイメージがある?」
李「イメージですか?」
鈴木「そう。あ、政治的な話は抜きね」
苦笑いする李。
李「やはり親切で優しいというイメージですね。韓国人は気の強い人が多いので」
鈴木「それは主に女性のことだよね?」
李「まあ、そうですね」
鈴木「李さん。今週金曜は空いてる?」

○居酒屋なべ・店内(夜)
大勢のサラリーマンで賑わっている。
四人がけのテーブルに座る李と鈴木。   
向かい側に米林明子(28)と山井静(28)が座っている。
鈴木「紹介するよ。学生時代の同級生の明子と静」
明子「初めまして」
静「よろしくお願いします」
李「初めまして。あの、今日はどういった会ですか?」
鈴木「別に。楽しく飲めばいいよ」
李「そうですか。じゃあ飲み物はどうしますか?」
明子「私日本酒のロック」
静「私は焼酎のお湯割で」
李「二人ともお酒飲めるんですか?」
鈴木「すぐにわかるよ」
笑う鈴木
お酒が運ばれてくる。乾杯するやいなや一気にお酒を飲み干す明子と静。
明子「あれ?李さんまだ飲んでないの?韓国人なんだから当然お酒強いよね?早く早く」
静「店員さ〜ん、おかわりくださ〜い」
唖然とする李。
李を見つめる鈴木。

○李のアパート・部屋・中(朝)
生活感の無いシンプルな部屋である。
ソファに横になって寝ている李。
李「う〜」
李、寝返りを打ちソファから落ちる。
目を開ける李。
起き上がり、ソファに座る李。
李「(韓国語で)いててて」
頭を抑える李。
テーブルの上に「これが現実」と書かれたメモがある。
メモを見つめる李。

○三つ星公園
木漏れ日が差している園内。
楽しそうに歩く李と沢子。
沢子「何かあったんですか?先生から誘ってくれるなんて」
李「ああ、この前のハンカチのお礼です」
沢子「ちゃんと使ってくれてますか?」
李「え、ええ。もちろん」
沢子「実はあれ、貰い物じゃないんですよ」
李「そうなんですか?どうして?」
沢子「そんなこと言わせないでください」
恥ずかしそうな沢子。
李、足を止めて、
李「…あの、ちょっとお伺いしたいのですが」
沢子「なんですか?」
李「田中さんは、韓国人の男性をどう思いますか?」
沢子「えー。先生の前で言うのも何ですけど、強くて優しい、かな。いいですよね、韓国の男性って」
李「…なるほど」
呟く李。

○四星商事・男子トイレ・洗面所
歯を磨いている李。
後ろから鈴木がやってくる。
鈴木、手を洗いながら、
鈴木「よ」
李「お疲れ様です」
鈴木「この前は大丈夫だった?」
李「ええ、なんとか。部屋まで連れて行ってくれんたんですか?」
鈴木「まあね」
李「お手数かけてすいません」
鈴木「別にいいって。あの二人化け物でしょ?」
李「ええ、すごかったです」
笑う李と鈴木。
歯を磨き終わり、グレーのハンカチを
取り出す李。
ハンカチを見つめる鈴木。
李、手を拭いて、
李「それじゃあお先に」
鈴木「おう」
トイレを出る李。
微笑む鈴木。

(終)

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映画監督、脚本家、プロデューサー。 映像製作会社に勤める傍自ら短編を製作し、海外の国際映画祭に多数ノミネート。 現在連作短編映画「BarreChords」がRakutenTV他で好評配信中。 webサイト→http://ataccanti.com
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