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インドのインチキおじさん

 南インドのゴアは、想像していたインドとは少し違った。ビーチ沿いには、ヤシの木が生い茂っていて、観光化していないバリ島みたいな雰囲気だった。着古した服にビーチサンダル、ドレッドヘアや、坊主頭のヒッピーみたいな西洋人がたくさんいた。という私も、当時坊主頭だったので、日本にいるよりも、この場所にいる方が、なんだか馴染んでいるような気がして、ほっとした。

一緒に泊まっていた人たちは、ライター、DJ、ヨガの先生、経営者の人たちと様々で、ビーチのそばのコテージでのんびりと思い思いに時を過ごしていた。朝夕に行われるヨガのクラスに参加したり、海で泳いだり、椰子の木のしたで読書をしたり、執筆活動をしたり、夜になると音楽を奏でたり.... 「心と体を休めるリゾート」という感じの場所だった。

ゴアでは、いたるところで ”グル” と呼ばれる師匠みたいな人を囲んで、様々なセッションが行われていた。「自己を解放する修行」みたいなものらしい。わたしが参加したたひとつは、グルを囲んで輪になり、ありがたいお話を聞く、というものだった。頭にターバンを巻いた、アリババみたいなおじさんが、誰もが一度は聞いたことがあるような道徳的な話しを、インドなまりの英語で、いかにも、という感じで話す。気に入った女の子にウィンクをしたり、ボディタッチをする、”うさんくさいおっさん” というのが、このグルの印象だった。

わたしが参加したもうひとつは、メディテーションダンス。昔は国王の前でも、ベリーダンサーとして活躍していたという先生が、最高の笑顔でお出迎えしてくれた。当時の写真からは想像もつかないほど太っていたけれど、ほがらかで素敵な女性だった。メディテーションダンスは、目をつぶってダンスを踊ることで、心を解放して自己表現する、というもの。プロとして長年活動を続け、人に見せるための踊りに飽きてしまった先生が、「自分の心を素直に表現するには目を閉じて自分とつながり、人の目を気にせずに、音楽と一体となるのが一番」だと気づき、このセッションをスタートしたのだという。

みんながどんな踊りを踊っているのか気になったので、うす目を開けて隣の人をのぞいてみた。自己陶酔した女性が、クネクネへびみたいに動いているのが見えて、ちょっと気持ち悪くなってしまった。踊りはその人のセクシャリティーを表す、とあるダンスの先生が言っていたけれど、たしかにそうかもしれないな、と納得してして笑ってしまった。

 そのほかにも、「砂場でジャンプをし続ける」「片手を上げ続ける修行」(ときに体の一部が、壊死することもあるらしい...)「無言で数週間過ごす」など種類は沢山あるらしい。人生に迷った人たち、自分探しをしたい人たちが、スピリチュアルな体験を求めてやってくる。わたしの辿り着いたゴアはそんな場所だった。

 ある日メディテーションダンスにもう一度行こうと、海岸沿いを歩いていたら、なにやら声がする。どうやら数メートル先にいる、白い服をきたインド人のおじさんが、わたしに話しかけている。

 「海水と太陽の光が原因で、おぬしの耳の中に石ができているぞい...」


おじさんとわたしの距離は約2mほど。どうやったらわたしの耳の中が見えるのだろうか....。

 「おぬしの耳の中にある石を取り除いて差し上げよう...」

詐欺かなにかだろう、と思いながらも、好奇心がうずいてしまい、話しを聞きこうと、おじさんに近づいた。白衣を着て、首からはネームタグのようなものをぶら下げている。あやしいものではない、という仕草で自己紹介をはじめた。ネームタグの表には ”メディカルドクター”と書かれていた。お医者さんなんだろうか。


「もっと近づいてくるのじゃ〜。わしに耳を見せなさい。耳から石ころをと取り出して差し上げよう...」

うさんくささが面白すぎて、この怪しさ100パーセントのおじさんに石をとってもらうことを決めてしまった。

 坊主頭に大きな丸いイヤリングをつけていたので、「イヤリングが狙いかもしれない」と警戒し、まずはイヤリングをはずした。それからおじさんに近づいた。おじさんは、手際よく、耳かきみたいな棒で、わたしの耳から、大きな鼻くそのようなネバネバした物体を取り出した。

そして、おじさんの手の中で、その棒で取り出したネバネバを潰したら、なんと... 中から石がでてきたのだ!

「海水と太陽の光でで、耳の中に石ができるなんて知らなかった...」と感心している場合ではない。おじさんは、もう一個石を取り出してあげようと提案してきた。

 今度は、「このトリックを暴いてやろう」と目を凝らして、しっかり見届けた。ははぁ〜ん。わかったぞ。右手に耳かき棒、グーにした左手の中には、すでに石が入ったネバネバを隠し持っている。わたしの耳から棒を取り出したとみせかけて、そのネバネバを棒の先につけるという早業を行っていたのだ。

2つ目の石を取り出したところで、おじさんはネームタグを裏返した。裏面にはこう書いてある。

「2ストーン = 500ルピー」

すごい!!こんなインチキで、お金を取ろうというビジネスを思いつき、実践するなんて。このおじさんのアイディア・行動力・演技力に、いたく感動して、おかしくて笑いが止まらなくなってしまった。インドのインチキマジシャン、Dr. Stone。南インドの海岸沿いで、白衣を着たおじさんに声をかけられたらご用心を。

 その後、わたしは、「今、お金を持っていないから、3時にここに戻ってくるね!」というデタラメを言って、その場を切り抜けた。歩きながらわたしは笑いが止まらなかった。「人生楽しんだもん勝ちだな〜」

〜つづく〜

《 井の中の蛙、大海に飛び出そう 》

ときにわたしたちは、世界が小さな箱であると錯覚し、その小さな箱の中だけで、生きようとします。そして、その中だけで物事を解決しようとしたときに解決策が見出せなかったり、自分が大きくなりすぎて息苦しくなったり、その小さな箱の中に長い間滞在したために、居心地がよくなりすぎて、箱から飛び出す勇気がもてなくなってしまったりします。

自分の作り出した小さな箱の中で身動きが取れなくなったときは、思い切って、箱の外に飛び出してみましょう。

世界に飛び出すと、本当に様々な生き方をしている人がいて、あなたの中の「こうじゃなきゃいけない」という考え方をとっぱらってくれます。

わたしは、インドのインチキおじさんから、「想像力を発揮して、お金を生み出すこともできるよ」「人生楽しんだもん勝ちだよ」と教えてもらったような気がしました。

そして自然の中で、音楽やダンスを楽しみ、自分の心や体と向き合い、人生のストーリーをシェアしながら、ゆったりと時間を過ごしているヒッピースタイルの人たちから「今、このとき」に向き合う大切さを教えてもらったのでした。

「井の中の蛙、大海に飛び出そう」

部屋を飛び出してみる。自然の中に出かけてみる。やったことのないことに挑戦してみる。他人の人生のストーリーに耳を傾けてみる。

飛び出すところはたくさんありますね。さぁ、あなたは、どこに飛び出してみますか?



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