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「バランス派」から「社会制度の変革へ」Vol.2

今回お話を伺ったのは、一橋大学社会学部の佐藤圭一先生です。
現在は、気候変動政策について、ネットワーク分析を使った比較研究などをされています。
20年9月より一橋大学社会学部の講師も務められ、今年度の学部向け授業では「社会ネットワーク分析」を担当されています。
ご出身も一橋大学である佐藤先生。
Vol.1・Vol.2の前後編に分けてお届けしています。
前編では、学生時代のご経験や、研究者の道に進まれた理由を伺いました。
後編では、先生の現在の研究内容や、一橋生におすすめの本、国立のおすすめランチについてです。


1:現在の研究内容〜気候変動政策の構造比較〜

Q.現在、気候変動政策ネットワークの構造比較について、研究をされています。このテーマにたどりついたきっかけなどはあったのでしょうか?

もともと環境問題にとても関心がありました。修士課程の時、ある学会の「環境に関する国際比較プロジェクト」に参加しました。そのつながりで、現在も気候変動政策の比較研究をしています。

Q.気候変動政策の比較研究について、どのように研究を進められているのですか?

手法としては、ネットワーク分析を使っています。ネットワーク分析は、修士課程時に参加していた研究プロジェクトを通じて、扱い始めました。

Q.ネットワーク分析を扱うようになった経緯について、教えていただけますか?

当時の日本では、ネットワーク分析はまだメジャーではありませんでした。僕は、比較研究について独学をする中でネットワーク分析に出会いました。そして、「こんなに面白い学問があるのか!」と感激したのです。
そこから、ネットワーク分析について詳しく勉強するようになり、研究の手法として使うようになりました。

2:現在の研究内容〜3/11後の社会運動〜


Q.「気候変動政策の比較研究」の他に、「原発事故後の、日本における社会運動」についても、研究されていると伺いました。どうして、原発事故をテーマにされているのでしょうか?

東日本大震災のとき、僕は博士課程に入学する直前でした。
原発事故には、気候変動政策を研究する立場としても、かなり衝撃をうけました。原発への意見は様々であることは理解した上で、僕の考えをお伝えします。
震災前の僕は、原発に対していわゆる「バランス派」でした。その危険性は理解しつつ、原発は気候変動対策の1つでもある。「気候変動政策とエネルギー政策をうまくバランスさせることが重要だ」と考えていたのです。
ところが、原発事故を機にそこへの認識が変わりました。


Q.どうして変化したのでしょうか?
事故をきっかけに、原発についてもう一度勉強し直しました。
すると、僕が先ほどの「バランス派」の考えの根拠の1つとしていた、「原発が、気候変動対策になっている」というのは、少なくとも僕がデータ分析した範囲では全く根拠の無い話でした。

Q.そこについて、もう少し詳しく教えていただけますか?「原発は火力発電などに比べると温室効果ガス排出量は少ない」と言われていると思うのですが、、

技術的には、その通りです。本来であれば、原発の稼働数を増やせば、その分温室効果ガス排出量が減っていくはずです。つまり、1997年の京都議定書以降、原発稼働数を増やしている国は、温室効果ガス排出量は「微減」か、少なくとも「現状維持」になっているはずですよね。
しかし日本では、「原発稼働数が増えるにつれ、温室効果ガス排出量は増え続けている」という結果が得られました。
科学技術の理論上では、「原発稼働数を増やせば温室効果ガス排出量を削減できる」はずなのに、なぜか逆の結果になっているということです。

Q.いったいその原因は何なのでしょうか?

これは、科学技術そのものだけでは説明できない現象です。政策や企業行動など、様々な要素が組み合わさった結果なので、非常に複雑です。
世界の気候変動政策は、「社会制度を変革する」「技術のイノベーションで解決する」の2つが対立しています。「社会制度を変革する」とは、炭素税や排出権取引(エミッション トレード)などですね。しかし、こうした変革は、企業には負担となることが多い。そこで、こうした「社会制度の変革」に反対の人たちは、「それよりも、技術で解決するべきだ」と主張するわけです。「新しい技術で解決できるから、社会制度を変える必要はない」というわけです。
当時、この「技術」にあたるものが、原発でした。

しかし日本では、反対の声が多く、原発の稼働が思うように進まなかった。そのため、火力発電も同時に維持せざるを得なかった。
このように、現状は何も改善されていないにも関わらず、当時の日本には、「いつかは原発が稼働するから、どうにかなる」と、現状を楽観視するような風潮がありました。
こうして、「社会制度の変革」を先送りしていた結果、どんどん温室効果ガス排出量が増えていってしまったのです。
一方、「原発頼みではなく、社会の仕組みを変えよう」と試みた他国では、結果的には排出量削減を実現できていました。省エネを実現し、代替エネルギーへの移行も進んでいます。


Q.「社会制度の変革」をすると、どうして省エネや代替エネルギーへの移行が進むのでしょうか?

社会制度の改革として、炭素税を例にあげましょう。電力会社や企業は、二酸化炭素を排出するとその分課税され、自社への負担が増えますよね。そのため、省エネや代替エネルギーへの移行を進めようという気運が高まるわけです。


Q.技術頼みにするのではなく、炭素税などの「社会制度の変革」から始めるべきということですか?
そうですね。社会の仕組みを改善し、電力消費量を減らし、原発以外の代替エネルギーへの移行を進めることが優先されるべきです。その上で、「再生可能エネルギー技術が安定するまで」の中期的なスパンで、既存の原発を利用するのならば、上手くいく可能性が高いといえます。
その点で成功した国の1つが、スウェーデンですね。


Q.詳しくお聞かせくださり、ありがとうございます。事故をきっかけに、原発に対する意識が変化したのですね
そうですね。この他にも、最終処分場問題など、様々なことを調べていく過程で、「この問題を放置するのはまずい」と、改めて認識し、原発に対する意識が変わりました。こうして、原発事故へ関心をもつようになりました。


Q.現在は、どういった部分に焦点をあてて研究されているのでしょうか?
今は、「原発事故後の社会運動」に注目しています。
原発事故を機に、日本において「社会運動」が広まったというデータがあります。これは、学術的にも非常に興味深い。その要因に関して、現在も研究を続けています。


私自身、原発の問題点について初めて知ることが多く、大変勉強になりました。
新しい技術を過信するのではなく、まずは社会制度の変革を着実に進める必要があるということを、再認識しました。

3:学生におすすめの本3選!


Q.一橋生へのおすすめの本を教えていただきたいです。

今日は、3冊ご紹介します。

まずは、『時間の比較社会学』(真木 悠介)です。色々な時代・国・文化の時間意識の変遷について書かれています。とにかく、アイデアが面白い。僕は学部生のときに、初めて読んで、非常に感銘を受けました。今考えると、僕が社会変動に興味を持ったきっかけでもあるかもしれません。

次に、『サピエンス全史』(ユヴァル・ノア・ハラリ 、 柴田裕之・訳)。僕はドイツ語版を読んで、とても印象に残っています。当時は日本語版が無かったですが、今は日本語版も出版され、学生の皆さんも手に取りやすくなったのではないでしょうか。

最後に、『Social Network Analysis: Methods and Applications』(Stanley Wasserman 、 Katherine Faust)です。これは、社会ネットワーク分析の聖書とも言われる専門書です。内容的に少し古い部分もありますが、社会ネットワーク分析の基礎的な発想は全て入っています。
僕はアメリカ留学時に、毎週1章ずつ読み進めていました。留学時の思い出としても、印象深い本です。


教えていただき、ありがとうございます。先生が学生時代に読まれていた本は、皆さん気になっていると思います。特に1・2冊目は、低学年でも比較的読みやすそうですね。3冊目はかなり分厚いですが、社会ネットワーク分析に興味がある学生は、挑戦してみましょう!

4:佐藤先生おすすめ!国立周辺の飲食店


Q.最後に、国立周辺のおすすめランチを教えていただけますか?

まずは、「国分寺 甚五郎(こくぶんじ じんごろう)」ですね。武蔵野うどんのお店です。かみ応えのある太い麺が特徴で、非常に美味しいです。
「国分寺 甚五郎」のホームページ:http://www.jingo6.com/


国分寺駅から徒歩5分なのですね。「国立のお店に行き尽くした!」という上級生にもおすすめですね。

次は、MAGNET coffee roaster (マグネット コーヒー ロースター)です。立川市若葉町にあるカフェですね。比較的新しい店で、マスターの年齢も僕と同じくらいの若さです。マスター自身がこだわりをもって、非常に丁寧にコーヒーを淹れてくれる。
とても魅力的なカフェで、普段からよく通っています。
「MAGNET coffee roaster」のインスタグラムhttps://www.instagram.com/magnet_coffee_roaster/


本日は、お忙しい中インタビューに快く応じてくださり、ありがとうございました。
1時間もの長いインタビューとなってしまいましたが、佐藤先生は終始にこやかで気さくにお話してくださいました。
大変貴重で有益なお話をたくさん聞くことができ、とても実りの多い時間でした。
佐藤圭一先生、本当にありがとうございました。


一橋名鑑では、これから一橋大学の先生へのインタビュー記事もどんどん企画中です!
お楽しみに!


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