「THE FIRST TAKE」で示した、いきものがかりが見据える未来
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「THE FIRST TAKE」で示した、いきものがかりが見据える未来

いきものがかり
大胆なアレンジの「気まぐれロマンティック」、2人だけで向き合う「今⽇から、ここから」。
YouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」で披露した2曲は、今現在のいきものがかりのマインドを表すとともに、これから目指す新たな形のひとつを示すものだった。
あらためてスタートラインに立った水野と吉岡に、今の想いを聞いた。


-2人編成になってから、「ライブ・エール2021」「ミュージック・ステーション SUMMER FES」といった音楽番組に出演したり、「JFA100周年セレブレーション」にサプライズ出演したりしていましたよね。

吉岡:最初に2人でメディア出演したのが「ライブ・エール2021」だったんですよね。バンドはいつものメンバーだったし、内村(光良)さんも心をこめて演奏してくださって。そういう温かさに励まされた感じがありました。「Mステ」はずっと出演させていただいていますし、JFAの方々も、「心の花を咲かせよう」を第87回全国高校サッカー選手権大会応援歌に使っていただいて以来、10年以上にわたって私たちのことを信頼してくださっていて。そう考えると、周りとの繋がりを感じられるような瞬間の連続でした。恵まれたグループだなと改めて実感しながら、「あ、仲間がいっぱいいる!」と励まされながら、新しい環境に飛び出していけていますね。


-おふたりはどのタイミングで「あ、2人になったんだ」と実感したんですか?

水野:新しいアーティスト写真を撮影しているときに実感しました。吉岡に冗談半分で「立ち位置を変えてみたら気分も変わるかな?」と提案していたんですよ。それで写真も新しい立ち位置で撮ることになったんですけど、フィッティングを終えて、衣装を着て、逆側に立ってみると……やっぱり雰囲気が違うなあと。

吉岡:衣装のトーンを揃えたのも新鮮でしたね。今までだったら、メンバーが揃って同じトーンの衣装を着るのってコスプレをするときくらいしかなかったんですよ。


-飼育員とか、宇宙服とか、牛の着ぐるみとか。

吉岡:そうそう。オールホワイトは『ハジマリノウタ』以来だったんじゃないかな? そのチョイスも新鮮味がありました。

水野:撮影日がちょうど「THE FIRST TAKE」を収録する1カ月前くらいだったんですよ。今回写真を撮ってくださった濱田(英明)さんと話し合って、「音楽現場での普段の僕らを撮ってもらおう」というコンセプトに決まったので、せっかくだったら「THE FIRST TAKE」のリハーサルをしている様子にカメラを向けてもらおうということになって。使われていないカットの中には、2人で実際に演奏しているというシーンもあったし、譜面を確認しているシーンもありました。

吉岡:なんでこんなに笑っているのかは分からないですけど……多分撮ってもらっているときにちょっと失敗したのかな?(笑) 濱田さんから「○○して」というオーダーは全くなかったので、本当に作業しているところを撮ってもらったという感じで。

水野:そういう意味では、普段と変わらないような……むしろ2人でのリハーサルはその日が初めてだったので、楽しんでいるような雰囲気が写真にも出ているんじゃないかなと思います。

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-新アー写が公開されたのが8月14日だったので、つまり夏頃には「THE FIRST TAKE」のリハが始まっていたということですよね。

水野:そうですね。


―「THE FIRST TAKE」にはいつか出たいと思っていましたか?

水野:いきものは路上出身のグループなので、僕は3人のときから「チャンスがあったら出れたらいいなあ」とぼんやり思っていました。ただ、最初のうちは若い世代のアーティストのみなさんが出ていたし、3人で出るにしても、2人でアコギを弾いて、聖恵に唄ってもらって……というスタイルしかイメージできなくて。それっていろいろな音楽番組でもやってきていることだし、僕らにとっては新鮮味がなかったので、「やりたいです」と積極的には提案できなかったんですよね。そんなわけで、こちらからアクションをするでもなく、あちらからお話が来るわけでもなく……という時間が長く続いていたんですけど、今回、たまたまスタッフさん経由でお話が繋がって。2人になったこのタイミングであれば新しいことが見せられるので、自然とイメージが湧きました。


-吉岡さんは「THE FIRST TAKE」に対してどんなイメージを抱いていましたか?

吉岡:「うわ~、ストイックだなあ」「ド緊張するだろうなあ」と。あと、「あの真っ白い部屋、どこにあるんだろう?」とも思ってました(笑)。

水野:(笑)

吉岡:スタッフさんがすごく緊張感を持って番組を作られているという話を聞いたこともありましたね。

水野:でも、それをどう外すかを考えていたよね。

吉岡:そうそう。


-「外す」とは?

水野:「THE FIRST TAKE」特有の演出された緊張感ってあるじゃないですか。これまで出演された方たちのパフォーマンスはどれも素晴らしいんですけど、みんな緊張するのは当たり前だし、視聴者の方も見慣れてきているのかなあ、という気持ちがどこかにあって。


-なるほど。

水野:僕らも当然緊張はするし、唄う前に深呼吸したくなる気持ちもよく分かります。だけど、ここはあえて普通の感じを出したいなあと思って、あのマイクの前に立ったときに何を話そうか、前日からずっと考えていて……。で、当日、聖恵に「今日は朝ごはん何食べた?」って聞いたんですよ。そこから「鍋を食べたよ」「え、鍋!?」「唄うときは毎朝身体を温めるために鍋を食べてるんだ」「そうなんだ~」というふうに普段と変わらないテンションで喋って。

吉岡:パーカッションの朝倉(真司)さんは「あっはっはー!」と笑ってくださったし、エンジニアの甲斐(俊郎)さんは、唄い終わったあとに「聖恵ちゃんいいよ! 鍋食べただけあるよ!」と言ってくれました。

水野:映像ではバッサリカットされていましたね(笑)。


-カットされてしまったのは残念でしたが、「気まぐれロマンティック」で吉岡さんが「それじゃあ元気にいってみましょう」と言ってから唄い始めたのが印象的でした。

吉岡:あれ? そうでした?


-無意識でしたか。

水野:でも、普段通りだったということかもしれないです。「気まぐれ~」はライブでも盛り上がるところでやる曲だし、「元気にいきましょう」というのは聖恵がよく言っている言葉なので。

吉岡:そうかも! でも私、リーダーから「『THE FIRST TAKE』では『気まぐれ~』をやろうと思う」と言われて「え? 『気まぐれ~』をやるの?」と思ったんですよ。


-確かに意外性はありました。水野さん、どういう経緯で「気まぐれ~」を選んだんですか?

水野:まず、2曲やらせていただけると事前に聞いていたので、1曲は吉岡と水野が向き合っているスタイルでやりたいなと思ったんですよ。そうなると、バラード2曲だとちょっと重いし、自分たちはバラードをやりそうなイメージもあるだろうから、小編成でできる明るい曲がいいかなと思って。そこでふと浮かんだのが「気まぐれ~」だったんです。

吉岡:「俺、イメージがあるからいけると思う。いい感じになると思う」って自信を持って言っていたよね。

水野:うん。テンポを少し落として、弦カル(弦楽四重奏)を入れて、浮遊感のあるコードにしたら、みずみずしく聴こえるかなと思って。ただ、そういうイメージが頭の中にあったものの、さすがに今回は説明だけでは伝わりづらいなあと思ったので、デモを作りました。弦のアレンジは室屋(光一郎)さんに整えてもらっています。

吉岡:デモを2パターン持ってきてくれたんですけど、それを聴いて私は……いや~、ちょっとビックリしましたね! ここまで弦のアレンジが際立った「気まぐれ~」は初めてだったので「すごーい! こんなことができるんだ!」と思って。このすごさをもっとみんなに知らせたいと思ったし、もしかしたらこの曲、おばあちゃんになっても唄えるかもしれないですよね。「気まぐれ~」はやっぱり夢のある曲だから。元気なだけじゃない、この曲の可能性をすごく感じました。


-せっかく「THE FIRST TAKE」に出演するんだから、ファン以外にも届けられるチャンスだし、吉岡さんの歌唱力を分かりやすく押し出すような、壮大なバラードを選ぼうという発想はありませんでしたか?

水野:それもさっきの話に近いですけど、そういうことはみんながすでにやっているから、あんまり新鮮に見えないんじゃないかなと。やり過ぎると押しつけがましくなっちゃうし。それに、実は「気まぐれ~」の方がバラードより難しいんですよね。BPMをかなり落としているので、歌のちょっとしたニュアンスが目立っちゃうというか。だから聖恵も今回、唄い方をかなり細かく調整していて。例えば、語尾の伸ばし方だったり――

吉岡:(手で顔を覆いながら)きゃー! 言わないで!

水野:(笑)。メンバーの僕が言うのも恥ずかしいですけど、聖恵は多分、結構上手いんですよ。だけど「上手いね」と言われても、僕らにとってはあんまりよくなくて。

吉岡:そうだね。

水野:「すごい」と言ってもらうことが目的のグループではなくて、「楽しかった」とか「この曲を聴いて幸せな気分になれた」というふうになってほしいから、2人でやっているので。今回の「気まぐれ~」もそういうふうになれたのかなとは思いますね。


-ちなみにSNSでは、朝倉さんが鍵を鳴らしていたのが話題になっていました。

吉岡:え、知らなかった! 鍵を鳴らしてたの?

水野:ウィンドチャイムがあって、その下に鍵も並んでたんだよ。朝倉さん、普段から楽器じゃないものをパーカッションに使っているんですよ。子ども用のおもちゃとか。

吉岡:ウォータードラムとか、珍しい楽器を使うこともあるよね。

水野:そうそう。多分、鍵も普段から持っているんじゃないかな? 音がいいんでしょうね。

吉岡:間違い探しみたいで面白いですね。私もあとで観てみよう!


-そして、9月29日には「今日から、ここから」のパフォーマンス映像が公開されましたね。

水野:「今日から、ここから」は今年リリースした一番最近の曲で、亀田(誠治)さんに関わっていただいたんですけど、山下と一緒に作った曲であることに意味があると思っていて。吉岡・水野の2人だけのまっさらな状態ではなく、山下の意思もちゃんと入っている曲が、僕ら2人のスタートラインにある。そういう意味でこの曲がぴったりハマったんじゃないかなと思います。


-この曲は他の楽器も入れず、吉岡さんの歌と水野さんのピアノのみのアレンジでした。

水野:クリックも鳴らしていないので、本当に2人の呼吸感だけでやるという。

吉岡:私としては、「あれ? リーダーの鍵盤、唄いやすいぞ?」「なんならギターよりも……」という感じがあって。ライブでは、アリーナのおへそ(センターステージ)で山下がギターを弾いて、水野が鍵盤を弾いて、私が唄う編成で「月とあたしと冷蔵庫」などを演奏したことがあったんですけど、前からずっとそう言ってたんですよね。「リーダー、鍵盤好きでしょ?」「うん」という話もしたくらいでした。

水野:見え方的には真新しさがあると思うし、実際「変わったな」「2人になったんだな」と一目見て分かるようにしたいという意図もあったんですけど、僕としては、デモではピアノを弾いていたし、ピアノで曲を作ることもあるので、(ピアノを弾くのは)わりと自然なことで。要するに、「今までもやっていたけど表には出してこなかったこと」をちょっとずつやっていくということなんだと思います。例えば、いきなりドラムを叩き始めるみたいなことは今後もしないと思うし。

吉岡:そうだね。ファンの方にしか見せていなかったことを自然とやれたのは嬉しかったです。


-「今日から、ここから」の原曲は、バンドサウンドにコーラスやストリングスも加わった華やかなサウンドでしたが、「THE FIRST TAKE」では伴奏がピアノだけでした。サウンドの変化に伴い、ボーカルのアプローチもかなり変えていますよね。

吉岡:そうですね。よりごまかしの効かない編成なので、同じ「La」でも大きくしたり、中くらいにしたり、小さくしたり……というのを結構細かく決めていて。「ここは強く」みたいなことを考えながら設計図を作って、だけど、できるだけ考えないようにして唄っています。

水野:同じメロディが繰り返される曲だからなおさらそうだよね。クレッシェンドやデクレッシェンドなどのダイナミズムを吉岡なりに考えてきたんだろうなあということは、リハの時点から伝わってきていて。そうすると、ピアノも歌に引っ張られるというか。当たり前ですけど、吉岡が押さえているところで僕がガンと弾くのはおかしいから、「あ、ここはこうしたいんだな」というのを合わせていくなかで、だんだん2人の呼吸が合っていくんですよね。

吉岡:そうだね。

水野:ツアーが終わったあとのインタビューで、「コイスルオトメ」について、「吉岡の歌がバンドを引っ張ってくれた」という話をしましたけど、やっぱり、吉岡の中で「歌をどうストーリーづけるか」「歌の中でどうダイナミクスをつけるか」ということを試しているんだと思います。それは自分で考えた戦略的な部分も、もちろん感覚的な部分もあると思うんですけど、「あ、ここでこう来るんだ」というのは一緒に演奏しているメンバーにも伝わるし、(ライブのサポートメンバーは)実際にそこに反応できるメンバーだったから、どんどん反応していくということがすごく面白かったんです。僕はバンドメンバーのみなさんのようにピアノを上手に弾けないけど、ダイナミクスについていこう、上手く反応していこう、というモードは引き続きあるので。だから、僕としては、吉岡の歌に引っ張られて弾いているという感じでした。


-「気まぐれ~」のパフォーマンス映像が公開されてから2週間が経ちましたが、再生回数は300万回を超えたそうですね。

水野:ありがたいことに、いきものを応援してくださっているみなさんは一様に喜んでくださって、「2人が楽しそうにやっているのが嬉しかった」といった感想もたくさんいただきました。山下がいなくなったことを寂しく思ってくださっている方々に向けて、2人が前向きにやれていることをお伝えできたのもよかったです。

吉岡:みなさんの言葉一つひとつがすごく励みになってます!

水野:あと、久しぶりにいきものを見たという人もいると思うんです。「気まぐれ~」なんて2008年の曲だから、「中学・高校時代に聴いていた」「大人になった今はあんまり聴いていないけど、久しぶりに聴いたら楽しかった」というコメントもあって。そういうふうに戻ってきてくれるのも嬉しいです。

吉岡:(手元にあるドリンクを指しながら)そういえばさっきこれを買いに行ったら、「『THE FIRST TAKE』見ました!」って言われましたよ。たまに行くカフェの店員さんなんですけど、都会のカフェの店員さんってそんなに積極的に話しかけてこないじゃないですか。なので、すごく嬉しかったですね。それこそ、若い層の人たちが見ているYouTubeチャンネルなので……って、歳重ねてるね~。あはははは!

水野:そうなんだよね~(笑)。「大人っぽくなったね」っていまだに言われるの、ちょっと面白いなあと思っていて。

吉岡:そうだよね(笑)。

水野:僕らもう40近いんですよ(笑)。一般的にはおじちゃん・おばちゃんと自称する類の年代に入ってきているんですけど――

吉岡:自分たちからは決して言わないけどね。

水野:そう、自虐的には言いたくないけど、まあまあいい歳で。だけどいまだに「新しいですね」「ちょっと大人っぽい感じで」みたいなことを言われるから、「大人だよ!」って思います(笑)。

吉岡:そういうこそばゆさはあるけど、「THE FIRST TAKE」に出演して大注目されている人たちは、私たちより10歳以上年下だったりするので。でも、こういう場で反響があるのは嬉しいですね。


-今回の出演を経て、「この曲も別のアレンジで見せられたら面白そうだよね」というアイデアがいろいろと浮かんできているのでは?

水野:そうですね。今回の「気まぐれ~」のように、これまで何度も唄ってきた曲を、今の自分たちの状態で改めて再解釈していく機会はどんどん増えていくと思うので。「いきものがかりでこういう試みをしたら、音楽的に新しいものが生まれるんだろうなあ」ということはいくつかあるし、そういうことを積極的にやっていこうというモードになっていると思います。でも、バランスよくやれたらいいですよね。今回こういう機会があって、自分たちの今の状況に上手くハマって、みなさんにも喜んでいただけたのでよかったですけど、過去のアレンジの「気まぐれ~」にももちろん自信があるし、「CDと同じ感じで聴きたい」と言ってくださる方もいるので。だからライブでちゃんとやり続けていきたいなあと思います。一方で、それだけだと飽きちゃうから、どう新鮮味を持たせていくかというのは大事なところで。その手段が増えた感じがしますね。例えば、今回だったら、配信ライブにせよ、こじんまりとした会場でやる企画ライブにせよ、「2人を中心とした小編成でライブをやる」というアイデアに繋がるわけで。そういうふうに、アイデア自体はどんどん生まれていくと思うので、実際にやるかどうかを都度都度ちゃんと判断して、自分たちが気持ちを一つにしてできることを丁寧にやっていきたいです。

吉岡:本当に可能性が広がっているなあと思いますし、そういうアイデアがゴロゴロあるのは、リーダーがいろいろな世界を見てきて、それだけ経験をしてきたからだと思います。だから私は「これをやってみよう」となったときに、すぐ対応できるような状態に常にしておきたいですよね。あと、自分ももっと意見を出せるようになれたらいいなあと思います。

水野:3人から2人になったことで、「歌を唄う人」「曲を書く人」というふうに関係性がよりすっきりしてきました。だから僕は「この唄い手さんにどう唄ってもらおう?」という考え方にどんどんなっていっているし、吉岡も、いい意味でよりストイックになってきていて。

吉岡:そうですね。歌手は肉体を鳴らしているから、歳を重ねるとともに楽器も変わっていくんですけど、そのなかで、よりよく楽器を使っていきたいと思っていて。リーダーが書く曲を唄ったり、ソロ活動をやらせていただいたりするなかで、引き続き技能を上げていけたらいいなと思っています。あらゆる曲の良さを活かせるような唄い手になりたいです。


-そうして技能を上げた先にあるのが、「シンプルでいい歌」の追求ということですよね。

水野:そうですね。シンプルだけど強度のある歌をちゃんと作っていきたいです。どんな文化圏にいるどんな価値観を持った人も、ふとイメージがわいたり、「いいなあ」と思えたりするようなメロディって、必ずどこかにあるはずだから。お互いに山を登りながら、頑張ってそこを目指そうという感じです。

取材日  : 2021年09月
取材/文 : 蜂須賀ちなみ (@_8suka)
編集   : 龍輪剛
企画   : MOAI inc.
ありがとうございます♡
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