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番組プロデューサーが語るいきものがかりの魅力〜「BSいきものがかり」と「デジタルフェス」の舞台裏〜

2019年4月にスタートしたレギュラー番組「BSいきものがかり」。
番組プロデューサーを務める河本晃典氏は「FNS歌謡祭」を手掛けるなど、数多くのアーティストと仕事をしてきた人物だ。そんな河本氏の目には、いきものがかりはどのように映っているのだろうか。9月に開催された「デジタルフェス」の舞台裏も交えて語ってもらった。

-まず、河本さんご自身がこれまでどんなお仕事をされてきたのか、教えていただけますか。

基本は音楽番組をベースにやっています。地上波にいたときは、「笑っていいとも!」や「キスマイBUSAIKU!?」を制作したり、「FNS歌謡祭」でプロデューサーをしていたりしていました。2018年にBSに移ってからは、東京03の「東京03 in UNDERDOGS -今日は負けたけど、明日は絶対勝つ- 」や、サカナクションの山口一郎さんと藤原ヒロシさんの「FUJI-YAMA MID-NIGHT-FISHING」を。単発で言うと、King Gnuやフジファブリックのドキュメンタリーや、忌野清志郎さんの特番「輝き続けるキヨシロー」を制作しました。その他に、外での仕事として、Apple Musicで小沢健二さんの番組「Tokyo, Music & Us 2017-2018」を作ったりしていました。


-様々なアーティストと一緒に番組を作ってきたということですね。いきものがかりがホストの番組を制作するにあたって、どんな内容にしたいと考えましたか?

メンバーとは「FNS歌謡祭」などでもご一緒しているんですけど、がっつりお仕事をしたのは、2016年にデビュー10周年の特番を地上波で作ったときでした。そのときは、3人に居酒屋で12時間ぐらいトークしてもらったり、ライブハウスの店長やいきものがかりの原点を作った友達に「ありがとう」を伝えに行ったり、聖恵ちゃんに渋谷で占い師をやってもらったり……本当にいろいろなことをしてもらったんですけど、こちらとしても、本人たちにとっても熱のあるものを結構面白く作れた手応えがあったんですね。なので、「BSいきものがかり」もまず、本人たちが興味と好奇心を持てるものにしたいという想いがあり、「会いたい人に会う」というコンセプトで立ち上げました。


-渋谷で占い師になるって、かなり冒険的な企画ですね。

結構きわきわですよね。10周年特番のときは、フリーの中嶋氏がディレクターをやっていて。彼は「キスマイBUSAIKU!?」の演出も担当していて、優秀だけど、相当ドSなんですよ(笑)。実は「BSいきものがかり」でも、山下くんのロケだけは中嶋氏に参加してもらっているんです。


-なるほど。だから山下さんのロケだけ普段の回と温度感が違うんですね。河本さんはいきものがかりの3人に対してどのような印象を抱いていますか?

水野さんはやっぱりしっかりしていますし、音楽に対しても、ゲストに対しても真面目だと思います。人見知りだけど、オンになればちゃんと対応してくれますし(笑)、たまに「この人の欠点なんだろう?」とも思っちゃうぐらいですね。

僕は水野さんと同じく人見知りなので、普段演者さんとはあまり話さないんですけど、山下くんは、近い距離感で話しかけてくれる人というイメージです。唯一ごはんにも行く人ですし、すごく懐の深い人という印象ですね。

聖恵ちゃんは、いい意味で変態だなと(笑)。それこそ2016年に占い師をやってくれたときも「よくやるなあ」と思いましたし、興味のあるゲストに対するアンテナの張り方がすごい。特に、ゆりやんレトリィバァさんがゲストだった回は聖恵ちゃんの良さが出ていたと思います。だけど、唄うときにはスイッチが入るので、やっぱりアーティストなんだなと。すごく魅力のある人だし、だからこそいきものがかりのボーカルをやっているんでしょうね。


-いきものがかりは普段音楽番組などに招かれる側ですが、「BSいきものがかり」はゲストを招く側で、3人にとっても新鮮な体験だったんじゃないかと思います。ゲストと話しているときの3人の姿を見て、河本さんはどう感じましたか。

3人はやっぱりやさしくて、愛情があるなと思いました。以前、職人さんっぽい、コミュニケーションが不器用な方がゲストに来たことがあったんですよ。スタッフ側もちょっと心配していたんですが、結果、3人は愛ある対応をしてくれていて。普段はアーティストなのに、よくこういう対応ができるなと思いましたし、そのときのことは結構印象に残っています。
逆に言うと、3人に愛があるからこそ、「マツコの知らない世界」や「水曜日のダウンタウン」のような、尖った演出を当てるのはちょっと違うのかなと思っていますね。「BSいきものがかり」は、よりやさしく、丁寧に伝えていきたいという想いがあります。


☆「BSいきものがかり」は
 「いきものがかりOfficial YouTube Channel」でもご覧いただけます。



-直近では9月19日に「いきものがかり結成20周年・BSフジ開局20周年記念 BSいきものがかり DIGITAL FES 2020 結成20周年だよ!! 〜リモートでモットお祝いしまSHOW!!!〜」という一大イベントがありましたが、改めて、実現までの経緯について聞かせていただけますか。

「BSいきものがかり」は来年の4月でスタートしてから2年が経つんですよ。今年の頭ぐらいから「せっかくだから夏に向けて何かやりたいよね」とは言っていたんですけど、そこで、まさかのコロナが来て……。元々、いきもののツアーが4月から始まる予定だったじゃないですか。それがどうなるかが分からないと、こちらの話も進められないよねということで一旦止まっていたんですけど、結果、ツアーができなくなってしまったので。「じゃあ、『デジタルフェス』という形にしようか」ということに決まりました。


-「そろそろ大きな企画をやろう」という話はコロナ以前からあったけど、「デジタルフェス」に着地したのは、コロナがあり、ツアーができなくなってしまったからこそ。

そうですね。そこから、せっかく番組を通じてフェスをやるならば、アーティストだけではなく、今まで来ていただいたバラエティタレントの人たちも入れてやっていこうかという話になり。番組のコンセプトである「会いたい人に会う」に沿いながらキャスティングしていくなかで、あのラインナップが実現しました。あとは僕たち制作からの提案で、秦基博さんやゆずのお二人からコメントをいただいてVTRを制作しました。そこに関しては、せっかく20周年なので、番組を華やかにしていきたいという想いがありましたね。
中身に関しては……僕と(森山)直太朗さんとは「深夜喫茶スジガネーゼ」という番組を5年間一緒にやっていた仲なので、打ち合わせの際に「河本くんがスタッフなら、せっかくだし、演出面一緒に考えてもらっていい?」と声を掛けてもらったんですよ。それをきっかけに、オープニングでのドリフのオマージュ演出や、いきものがかりとのコラボも決まっていったのは面白かったですね。


-コラボは直太朗さんからの提案だったんですか。

そうなんですよ。「デジタルフェス」のチームは半数近くが「FNS歌謡祭」や「MUSIC FAIR」の制作もやっている人たちなので、直太朗さんの方から、「それならコラボもどう?」と言ってくださって。いきものがかりってあまりコラボをやるイメージがなかったし、実は「FNS歌謡祭」でもコラボは一度もやったことがないんですよ。だからちょっとハードル高いのかなって思っていたんですけど、3人に「直太朗さんからこんな話が来ているんですけど」と伝えたら、「だったら、こういうのはどうですか?」というふうに、前のめりに返してくれて。その様子を見て、「これだったら、もしかしたら他のアーティストとのコラボもできるのかな?」と思ったので、今度は僕らから、緑黄色社会とのコラボを提案しました。そしたら「ぜひ」ということで、実現する流れになりましたね。いきものがかりのコラボはテレビでもあまり見ないし、新鮮でよかったですよね。


-はい、とてもよかったです!「デジタルフェス」の演出面におけるポイントは、普段テレビの音楽番組を制作している人たちが作っていることで、そこが他の配信ライブとの差別化に繫がったんじゃないかと思います。

サカナクションの配信ライブを観て、僕は素晴らしいなと思ったんですよ。元々偏差値の高い音楽をやっている人たちだし、PVみたいな作り込み方をして、演出の偏差値も高いのに、あれをよく生でやっているなと。だけど、あれはサカナクションの生きざまというか、チーム・サカナクションが今できるすべてを出したからこそ実現できたものだと思ったんです。


-チームとしてこれまで積み重ねてきた経験、バンドと演出スタッフの関係値があったからこそ実現したものだと。

はい。だけど僕たちは、いきものがかりのみなさんとライブを作るのは今回が初めてで、サカナクションと同じやり方をするのは違うだろうし、できないだろうという想いはありました。
そこから考えていったときに、さっきも言ったように、いきものがかりは、やさしさと愛情のあるアーティストなので、そこを大事にしながら丁寧に届けたいなと。照明やカメラ、スイッチングは、普段フジテレビの音楽番組に入っているチームにお願いして、力を入れてやりましたし、そのおかげでライブ感をちゃんと届けられたかなと思います。


-生でやるからこそのアーティスト・スタッフの熱量は画面越しでも伝わってくるものだなと、観ながら思っていました。

生でやると、出演者もスタッフもみんな緊張するし、人の極限が出るじゃないですか。収録でやると、例えばCGを足したり、映像をより作り込むことができるというメリットがあるんですけど、それでも生でやることの良さは、やっぱり臨場感・緊張感なんだと思います。
ステージセットも、テレビだからこその大きなセットということで、2階建てにしました。結果、それが聖恵ちゃんにとっていいステージングになったんじゃないかと。


-吉岡さんがステージの2階部分に上っていって、「ほっち~!」と手を振る場面には、特に彼女らしさが出ていました。

僕が印象に残っているいきもののライブは、2016年にやっていた海老名・厚木のライブで。あのときにステージングを広く使っていたことがすごく印象に残っていたんです。なので、「じょいふる」のようなハイテンションな曲で聖恵ちゃんが動き回れるように、まるでお客さんがそこにいるみたいに煽れるように、デザイナーと話し合ってステージングを決めていきましたね。

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-そういえば「デジタルフェス」をテレビでやるという選択肢を採らなかったのには何か理由があるんですか? フジテレビとしては、ライブを生中継できた方が視聴率にもつながるし、メリットが大きい気がするのですが。

いきものがかりが独立してから初めてやるフェスだし、彼らがいいと思う形でやるのがベストかなと思ったんですよね。それならば、最初は配信で、いきものがかりを大切に思っているファンを中心に届けた方がいいんじゃないかと。もちろん社内ではいろいろな意見が出ましたが、そこは関係性の話だし、こちらが欲張りすぎるのも違うんじゃないかと。それで、僕たちは事後で放送できれば問題ないということになりました。
実際僕も現場にいたんですけど、ライブが終わった後の3人のテンションが非常によかったんですよ。「久々のライブで楽しかった」と言っていましたし、終わったあとも、興奮してなかなか帰らなかったですし。そういう様子を見ていたら、やってよかったなと思いました。
あと、フェスの良さを少しは体現できたんじゃないかと。僕、今回初めて緑黄色社会のパフォーマンスを生で観たんですよ。それで、長屋(晴子)さんって、120%の熱量でパフォーマンスをする人なんだなと、グッときて。僕はあれから緑黄色社会をすごく好きになったし、同じように配信を観ている人のなかにも、「直太朗さんのライブってこういう感じなんだ」「どぶろっくって面白いな」と思ってくれた人はいたんじゃないかと思います。
フェスのいいところって、知らないアーティストも観られることじゃないですか。目当てのアーティストを観る前にちょっと時間が空いていたから違うステージに行ってみたら、たまたま知らなかったアーティストを観られて、それをきっかけに好きになる、みたいな。「デジタルフェス」では、そういうフェスの醍醐味を多少再現できた手応えがありましたし、こういう空間が配信ライブでも増えていってほしいなと思いました。

12月2日(水)フジテレビ「BSいきものがかり DIGITAL FES 2020」地上波放送決定!



-その真ん中にあったのが、いきものがかりのやさしさ・愛情だったということですよね。

そうですね。僕、やりながら思ったんですよ。どうしてこの人たちは、今までフェスをやってこなかったんだろう?って(笑)。いつか、いきものだからこそできる神奈川フェスをやってほしいですね。サザンオールスターズやゆず、Suchmosなど、神奈川出身のアーティストってたくさんいるじゃないですか。横浜のアーティストもいれば、湘南のアーティストもいるし、茅ヶ崎のアーティストもいる。いきものがかりは地域に密着しているアーティストだから、海老名・厚木代表としてそういうフェスをいつかやってほしい。彼ら(いきものがかり)ぐらいの年代のアーティストが、いろいろな先輩・後輩に声を掛けながら、そういう挑戦をしてみてほしい、しなければならないと思うんですよ。

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-河本さんから見て、いきものがかりは今後どういう存在になっていくと感じていますか?

やっぱりいきものがかりは、老若男女に愛される、メディアに愛されるタイプのアーティストだと思います。もしかしたらテレビを嫌いになっちゃう時期もあるかもしれないけど、これからもずっとテレビを好きでいてほしいし、お茶の間に愛される人でいてほしいなとは思いますね。楽曲もどの年代の人にも伝わるものだと思うので、そこをずっと突き詰めてほしいです。マイノリティに対してコアな音楽を作っていくアーティストもいると思うんですけど、いきものがかりは、J-POPの真ん中を行くアーティスト、マジョリティに対して音楽を作れるアーティストの代表だと思うので。


-「BSいきものがかり」としては、今後どういうことをやっていけたら面白そうだなと考えていますか?

コロナの状況もあるのでいつ実現できるか分かりませんが、聖恵ちゃんのロケを見たいなって思いますね。さっき言ったみたいに、いい意味でちょっと変なところがある人じゃないですか(笑)。そういう人間味の出た映像を外でも撮ってみたいですし、中嶋氏の、ちょっとドSな演出ともぶつかってほしいです。

-そうなると、吉岡さんと山下さんがロケに出かけることになりますね。水野さんはどうしましょう?

水野さんは器用だからなあ……。頭がいいし、リーダーだからすべてを俯瞰して見ていると思うんですよ。もちろんそこが水野さんの良さなんですけど、あの人がちょっとテンパるところを見てみたいです(笑)。


【PROFILE】
株式会社BSフジ
プロデューサー
河本晃典(こうもとこうすけ)

フジテレビで「笑っていいとも!」や「キスマイBUSAIKU!?」などのバラエティ番組を制作するほか、「FNS歌謡祭」でプロデューサーを務める。2018年からはBSフジで東京03の「東京03 in UNDERDOGS -今日は負けたけど、明日は絶対勝つ- 」や「FUJI-YAMA MID-NIGHT-FISHING」などを制作。現在は「BSいきものがかり」のプロデューサーとして企画・制作を担当。


取材日  : 202011月
取材/文 : 蜂須賀ちなみ (@_8suka)
編集   : 龍輪剛
企画   : MOAI inc.​​


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