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レーター期全体像

アルー株式会社の起業・経営の経験に基づく「スタートアップ営業組織作りの教科書」の記事を連載しています。

本連載は、企業向け研修サービスを提供する当社の創業から東証マザーズ上場までの15年間を事業ステージ毎に「シード期」「アーリー期」「ミドル期」「レーター期」「プレIPO期」と5つに分け、それぞれの段階で起きた当社の出来事と、課題、それに対する対応策や私自身の学びを紹介していきます。

各事業ステージ毎の構成は、最初に「期」の全体像を解説し、次の記事から各期で起きた出来事や課題を具体的にご説明していきます。

本記事は、事業が安定継続成長に入りIPOが視野に入ってくる段階の「レーター期」の全体像をご紹介します。

<「スタートアップ営業組織づくり」まとめて読まれる際はこちら↓>

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①アルー株式会社のレーター期

私が考えるアルー株式会社のレーター期は2013年~2015年末までの約3年間に渡ります。

企業の成長ステージとして「ミドル期」は6年間程掛かって乗り越えることができましたが、レーター期に関してはその半分の期間でした。その次のプレIPO期というのは、私の造語ですので、一般的な定義からするとレーター期も6年間掛かったと見ることもできます

当社にとってのレーター期は「成長スピードの加速につながる営業組織化が進んだ」期間でした。次のプレIPO期は「特定市場で№1を実現するとともに、社内の管理体制が確立した時期」ですので、少し様子は異なりますね。

売上グラフ期別

◆業績面
2013年度売上:12.0億円(2013年12月期決算)
2014年度売上:14.5億円(2014年12月期決算)
2015年度売上:17.0億円(2015年12月期決算)

3年間の売上の推移はこのようになります。
レーター期を通じて売上は1.4倍に成長しました。CAGR(年平均成長率)は19%程度でした。この値はミドル期の成長率が引き続き継続した水準です。

(参考)
・アーリー期CAGR:121%(2005年~2006年:2年間)
・ミドル期CAGR:18%(2007年~2012年:6年間)

ミドル期では途中リーマンショックの影響を受けた減収という出来事がありましたが、レーター期では毎年増収を重ねていました。
2011年の東日本大震災の影響も限定的であり、企業研修市場は緩やかではありましたが順調に拡大をしていたタイミングでした。市場拡大の流れに乗り、営業活動は結果として順調に推移していました。

当社の事業モデルとしては、既存顧客のリピート+既存顧客の新規案件を含めて、前年売上の100%をカバーし、それに加えて新規開拓顧客のからの売上を積みまして成長をしてます。毎年およそ2~2.5億円の新規開拓を行うことができていたということになります。

新規開拓活動の強化は、ミドル期の最後の年である2012年前半から取り組んでおりましたので、その成果が順調に出たと言えます。


★社員数
ミドル期末(2012年末)の時点で、日本本社の在籍社員数は80名程度。
海外子会社を含む連結従業員数は、100名程度の状態です。

レーター期末(2015年末)の時点では、日本本社の在籍社員数は100名程度。海外子会社を含む連結従業員数は150名程度の状態です。

海外の従業員数が一気に増えているのは、2013年にフィリピン現地法人を設立し、語学サービスを開始したためです。英語研修講師を正社員を中心に40名ほどの増員を行いました。他の海外現地法人については増員はあまり行っておりません。


レーター期の間で、日本本社の売上が1.4倍になっていますが、在籍社員数は1.25倍と、社員1名あたりの生産性が高まっております

海外まで入れると生産性が悪化しているように見えます。給与水準が異なるフィリピン現地法人の方が多いため、日本本社社員の水準で換算しなおすと海外連結ベースでも生産性は上がっています。

レーター期全体を通じて取り組んだことが「生産性の向上」でした。その成果が出ていることがわかります。


また当社の日本本社では、新卒採用・中途採用の両方を積極的に行っています。新卒採用については2007年より毎年継続をしています。
会社の文化を継承をするという大きな目的で取り組んでおりますが、採用人数は時期によって増減していました。

このレーター期の頃は、新卒採用人数が少なめだった時期でした。
(2007年~2009年頃は8-10人程度、2013年~2015年は4~6人程度)
その分、中途採用人数を比率を高めていた時期でした。

理由は複合的ではありますが、
・育成体制が不十分であり、短期戦力化をしやすい中途採用を多くした
・当社の採用基準を高め、厳選採用方針にした
・日本全体での新卒採用市場が売り手であり、採用に苦戦をした
等が挙げられます。


★オフィス
2012年2月~2016年2月:有楽町オフィス(1フロア220坪)
ミドル期の最後の年2012年から4年間、有楽町オフィスで過ごしました。
レーター期の間は丸々、有楽町オフィスを本社としていたことになります。

JR有楽町駅を交通会館の方に出て、左に行くとロフトがあります。
ロフトと山手線の高架線の間に細い道があり、そこを鍛冶橋駐車場の方向に進んでいくと奥まったところに建っている住友不動産丸の内ビルの3階に入居をしていました。
こちらには上層階には、リクルート様の一部門が入っていたり、同階には大手モバイルゲーム会社様が入居されていました。
(現在こちらのビルには、丸の内警察署が入居しているそうです)

最寄りの駅は、有楽町駅でしたが、東京駅も近く、当社の顧客である大手企業の本社が集積する丸の内エリアに徒歩ですぐ行くことができるとても便利な立地でした。
営業生産性向上という意味では、意外と重要な要素の一つです。

また、日本国内では名古屋に支社を設立しました。
2010年に設立をした大阪支社に続く、国内3番目の拠点となります。
名古屋支社は当初、名古屋駅の近くの2‐3畳程の広さのサービスオフィスを借りていましたが、その後伏見駅近くのビルの1室に移転をいたしました。

海外については、引き続き、
中国(上海)インド(グルガオン)シンガポールフィリピン(マニラ)インドネシア(ジャカルタ)の5か国に展開をしていました。
インドネシアについては、2014年末をもって撤退をいたしました。


◆大きなトピックス
レーター期は3年間と短いながらも、当社のその後の成長に繋がる意思決定が数多くなされました。特に重要なトピックスは以下の3点です。

(1)間接マネジメントの実現(経営陣が現場から離れる)
ミドル期の最後に、当社として最初の営業部長が誕生しました。
その後、営業部長クラスの方が増え、現場のマネジメントが経営陣の手からほぼ離れました。
単純に権限移譲を進めたのではなく、営業部門の目標管理制度を中核としたマネジメントシステムを作り、その運用を営業部長の方々に担っていただきました。マネジメントシステム全体の企画・改善については、経営陣と営業部長陣で議論をして行っていきました。

(2)特定分野の№1の実現を目指す戦略方針の意思決定
レーター期初期の2013年の時点では、企業研修サービス事業は業績的に拡大をしていたものの、戦略の焦点が定まらず様々な分野に手を広げているところでした。
当社が強みである「新入社員研修」分野については、市場の限界を感じていたところもあり「脱新入社員」というキーワードも掲げていました。
しかし、新入社員研修で勝ち切れていない=№1となっていない中、他の分野に手を広げてもリソースの分散につながるだけであり、「まずは新入社員研修№1を目指す」という戦略目標を定めました。(その後、この目標が実現したことで、他分野への拡大も可能となりました)

(3)IPOを目指す意思決定
当社創業時から株式公開(上場)を目指していました。創業当初は「2010年までに上場をする」と目標を掲げていたものの、リーマンショックによりIPOマーケットが低迷したこと、および2010年頃のミドル期の当社は事業面・組織面ともIPOに耐えうる会社ではなかったことから、上場時期の目標をいつしか語らなくなっていました。2015年後半になり、改めてIPOについて当社として目指す意思決定を行いました。


上記3点の経営トピックスは、どれも当社経営陣の中で議論を重ねて辿り着いた意思決定でした。上記以外の様々なトピックスもありましたが、企業規模が大きくなってきたことで、議論の複雑性が増し、各経営メンバーが見える視界も異なるため、意見の衝突も多く、激論を交わしたことを記憶しています。

2013年初に副社長として参画いただいた江田さんには、経営のご経験の多さ、多面的な視点、徹底した合理的な意思決定等、多くのことを学ばせていただきました。


また私個人の話となってしまいますが、レーター期の時期は、私自身がビジネスパーソンとして乗り越えるべき課題と向き合い続けた苦しい期間でもありました。

詳しくは別途ご紹介する機会を作りますが、
●マネジメントとして、人として、「脱皮」をしなければ組織に悪影響をもたらす状態であったこと
●新規事業に挑戦するも、失敗に終わらせてしまったこと
ということがありました。


②レーター期の全体像について

スタートアップ関連の用語として「レーター期」「レーターステージ」という表現は良く使われます。一般的には「事業が安定し継続成長が実現しIPOが視野に入る段階」と言われます。

創業初期のシード期・アーリー期、事業拡大をするも組織的に不安定になりがちなミドル期を乗り越えて、経営が安定化して黒字が続き、売上が拡大傾向となる状態です。

スタートアップ企業について、WEB等で様々な経営ノウハウが語られていますが、レーター期についてはあまり語られることが少ない印象です。事業成長が一定段階まで達しているため、ビジネスの成功という意味では個別性が強いことが語られない一つの理由かと思います。また、レーター期よりも初期の方が様々な問題を抱えるため、そちらに話がフォーカスされがちということも理由かと考えられます。

私が考えるレーター期で実現するべきポイントは3点です。
①間接マネジメントの完成(経営陣が直接現場を見ない体制)
②生産性の継続的向上
③特定の事業領域での№1の実現


以下にレーター期の全体像の概略図を示し、具体ポイントに触れていきます。

レーター期全体像スライド

図上段左側はレーター期開始時(2013年初)の当社の状態を示しています。
図上段右側はレーター期が終わるころに到達した状態(2015年末)を示しています。


③レーター期の初期段階

ミドル期の最後で、間接マネジメントの初期形態として、営業部門の上流マネジメントを任せることができる「営業部長」が誕生しました。
営業部長に求められる要件は、営業部門全体の上流の企画を構想し、仕組みに落とすことです。内容については経営陣との議論によって決定されますが、経営陣は直接営業部門の企画や現場運用に携わらなくなりました。

こうした間接マネジメントができることで、社長を始めとした経営陣は、新規事業開発や重要なサービス開発、経営システムの強化にフォーカスをすることができました。

一方でこの時点では、営業部長は「一人」であり、その方の属人的な強みによって支えられていた状態でもあります。このままでは経営陣が一人増えただけ、とも言えます。

属人的な強みに依存せず、マネジメントシステムにより営業部門の業績を最大化し、継続成長をさせていくことを目指していく必要がありました。

また営業生産性という観点では、当社は業界の後発企業であったこともあり、業界トップクラスの企業との差は大きな状態でした。(もっと言えば、把握すらできていませんでした)
生産性を業界トップクラスを目指して高めていく必要がありました。


④レーター期の活動プロセス

レーター期の活動として、大きなものは以下の2点となります。

(1)企画機能の設立
間接マネジメントの担い手である営業部長を支援する「企画機能」を充実させていくことが大切です。具体的には営業企画部門を設立し、専任で人材をアサインすることが大切です。
営業企画部門と営業部長、更には経営陣が連携をして、「営業マネジメントシステム」の作り込みを行っていきます。

この営業企画機能は極めて重要なものですので、レーター期以前から専任を置いて行うべきなのですが、組織規模的にミドル期までの状態ではこうしたスタッフの配置ができるほど余裕がない事が多いのではないでしょうか。

営業企画機能が担うもう一つの重要な役割が、生産性向上施策の企画と遂行です。
・競合ベンチマーキングによる生産性ギャップの把握
・生産性向上のための情報システム投資、業務プロセス改善等
こうした生産性向上施策は、その後も終わりなく続いていきます。


(2)バリューチェーン連携
組織規模が大きくなっていきますので、だんだんと部門間の壁・溝が高くなっていました。
組織の壁が高くなるほど、事業のスピードダウンにつながります。
如何に連携スピードを高めるかが重要です。

一つの方法が、管理者の兼務でした。営業部門と開発部門を両方の観点を持った管理者を配置すれば、部門の個別最適には陥りづらくなります。

しかし管理者の兼務にはデメリットも大きくあります。兼務管理者が各業務に専念できないことからスピードや業務品質の低下、本人の負荷の高まりという問題がありました。
(2013年頃は、私が営業部門以外の開発系機能の管理者を全て兼務していましたが、あまりの業務量の多さに疲弊をしていました)


⑤レーター期を通じて到達する状態

レーター期の到達点としては、間接マネジメントの完成させ、生産性を業界トップクラスに引き上げること、そして特定の事業領域で№1を実現することです。

レーター期を通じて間接マネジメントを一旦完成させました。
「目標管理制度を中核としたマネジメントシステム」によるマネジメントです。これにより複数の営業部長による間接マネジメント体制を作ることができました。当然、このマネジメントシステムは、その後も継続的に改善を続けて行く必要があります。

また、各種施策の実施により営業生産性が高まりました。
特にバリューチェーンの連携面においては、ソリューション部門に専任の部長をアサインすることができました。ソリューション部門の初代部長は、西新橋時代からの営業メンバー・マネジャーとして活躍をしてこられた中村俊介さん(現アルーエグゼクティブコンサルタント)に担っていただきました。営業の観点を持ったベテラン人材がソリューション部門を見ることで連携のスピードアップにつながり、業務生産性が大きく向上しました。

そしてプレIPOにて語る内容ですが、当社は2015年頃に特定の事業分野(大手企業向け新入社員研修)で市場№1(※当社調べ)を実現するに至りました。


⑥レーター期の課題と具体的な取組み

次の記事以降、レーター期において直面した具体的な課題とその対応について紹介していきます。

(20)目標設定次第で、業績はアクセラレートする(レーター期)

(21)インセンティブは、高すぎる金額にしない(レーター期)

(22)営業生産性をベンチマークし限界突破する(レーター期)

(23)管理者をなるべく兼任させない(レーター期)

(24)育成機能に特化した組織を作る(レーター期)

(25)新規開拓活動が止まらない工夫をする(レーター期)

(26)営業企画機能を確立し、生産性向上を加速させる(レーター期)

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本noteでは別途アルーの「研修プログラム開発のストーリーとノウハウ」を公開しています。ぜひご覧ください。

<アルーのすごい研修開発バイブルを読まれる際はこちら↓>

すごい開発バイブル

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