池尻大橋ワタル

池尻大橋を叩いて渡る架空のシンガーソングライター

池尻大橋ワタル

池尻大橋を叩いて渡る架空のシンガーソングライター

最近の記事

動けない棒ナス

源三郎が「こちら」に来てから初めてのお盆がやってきた。 彼の畑は息子夫婦が継いだそうで、立派な棒キュウリを送ってくれたお陰で源三郎は「あちら」まで快適に移動することができた。 源三郎は家族に迎えられお盆を幸せに過ごした。 しかし楽しかった時間も束の間、お盆も終わりが近づき帰る支度をしていた源三郎は迎えの精霊馬を見て愕然とした。 ナスの牛は痩せて、しなしなになっているではないか。 生前、ナス栽培に情熱を燃やしていた源三郎は神様に向かって叫んだ。 「こんな痩せた棒ナスじ

    • 純情少女J

      速い車でスピンかけられたり 怒鳴り声が聞こえたら普通に怖い 落ち着いた女に見られがちだけど 本当はとても初心なのよ私 車酔いしやすいから ゆっくり走ってね だから純情じゃなきゃイヤなのよ 遊びの恋なら声かけないで だから純情じゃなきゃダメなのよ 私夢見る純情少女J どれだけ派手な格好してたとしても結構 心の化粧(メイク)は簡単に落ちる 慣れない口紅をつけてみたけれど 鏡の笑顔はひきつっているわ スカートが短過ぎるから タイツも履いてくわ だから純情じゃなきゃイヤなの

      • Rainbow Road

        金春色の車で 風を切って走るのさ Rainbow road バナナの皮を投げ捨てて 後ろの車はもうSlippin’ Slippin’ いいじゃない たまには そんなオカタイコト言わないで そう tonight今夜は もっとイケナイコトしてみよう 真夏の夜にかかる虹の橋 君を乗せて駆け抜けたい 七色に輝く床を踏み越えたら 加速した心はもう止まらない 金春色の車は 闇を駆けてもう Final lap 飛んできた亀の甲羅は 華麗に避けてほらDancin’ Dancin’ い

        • HOTEL MIRAGE

          灼熱 ビル群 人混みの中 名前も知らぬ人を待つ 5分遅れて来たその人は 写真とは少し違う 形だけの挨拶済ませ 適当に街をゆらゆら 大型ビジョンが言うことには 今年一の熱帯夜 うだるような暑さにヤラれ 僕らは壊れてしまった 逃げ込んだネオンの街角には 妖しく浮かぶミラージュ 火照る身体を切り裂いて 僕らは闇に溶け出した 夜が明け目覚めたその時には 消えてしまった蜃気楼

          うたかたのララバイ

          高田馬場の古ぼけた アパート中逃げ込んで 身体と身体寄せ合った 裸の馬鹿二人 宝の山のてっぺんで カラーの淡い夢を見て あなたとただこの空の 彼方を漂ようシャボン玉 音も立てずに フワッと消えていく 青くて生臭いこの街で 自転車押しながら 歩いたこの道は あの日の面影を残して 高田馬場の居酒屋で サワーの泡に溶け出した 頭の中は夢だらけ まだあのままでいられたら あの頃住んでいた オンボロアパートは 今では跡形も無くなって 仕方ないけれど なんだか寂しいな この街

          うたかたのララバイ

          君の笑顔は白い消しゴム (毎週ショートショート)

          彼が居なくなってからもう一年が経つ。 私はふと、あの日以来開かずの間になっていた彼の部屋に足を踏み入れてみることにした。 うっすらと埃が積もった壁の本棚には、彼の好きだった本がぎっしりと並んでいる。 その中の一冊を手に取りパラパラとめくってみると、彼の筆跡で書かれた一枚の便箋が挟まっているのを見つけた。 文房具が好きな彼らしい詩だった。 読み終えた私はひとり、彼の部屋の中で無理に笑顔を作ってみたが、堪えきれずにボロボロと涙があふれ出した。 すると涙で文字が滲み、ぐちゃぐ

          君の笑顔は白い消しゴム (毎週ショートショート)

          コンビニガール

          満員電車抜け出して いつものコンビニ飛び込んで 「いらっしゃいませ」と君が言う その青と白の縦縞が 妙に似合っている 名前も知らない君を デートに連れ出す術を かれこれずっと探してるけど 臆病で弱虫なこの僕は 何にもできない でも思い切って君に 手紙をしたためよう この熱い想い どうにか伝えたい 『拝啓、名も知らぬ君へ 仕事には慣れたかな? 2ヶ月前からほとんど毎日 近くで見てました 僕の大好きなタバコを 覚えてくれていて嬉しいな だから今度は君の好きなもの 僕にだけ

          コンビニガール

          雨の日暮里

          何年か前に別れた あの人も今ではどこか 知らない街で知らない誰かと 幸せそうに暮らしてる 僕はただタバコをふかし 毎日を塗りつぶしては いつまでたっても大人になれな いで 塞ぎこむちっぽけなこの部屋で あの頃の二人に 戻れたのなら なんてこと考えても 虚しいだけなのに やっぱり今でも君が好きだなあ すっぱり忘れられればいいのに ぽっかり心に空いたこの穴に ぴったりハマるピースを探してる 何年も君と過ごした この部屋の窓を開けたら 楽しそうな男女の声と 吹きすさぶ北風が

          HIGH VOLTAGE GIRL

          眠い目こすった月曜の朝 転校してきたあの娘は 電圧かなり高め ショートの黒髪やたらよく似合う ひと目見ただけでもう僕は ショートしてしまいそう 君は HIGH VOLTAGE GIRL 痺れるその瞳で 僕のこの胸が感電しそうだ! 教科書に載ってないこの恋の法則 二人なら解き明かせそうさ 愛=君x僕 都会の街から越してきたらしい 大人びたその雰囲気は 周りと少し違う グラウンド歩けば稲妻が落ちる 僕の心のボルテージ グランドには落とせない 君は HIGH VOLTA

          みのり

          今日はいつもと変わらない朝だ 野良猫もこの街も道行く知らない人も 少しだけ肌寒い秋の風に吹かれて 雲一つない空の下で だけど今日はいつもと違う ずっと待っていた君に会える気がするよ これから始まる君の人生が たくさんの幸せと笑顔に溢れた みのりあるものになりますように

          さらば東京の街よ

          右も左も分からない 18の夏の日 東京に出てきて あれからもう10年も経った 色んな事があったなあ 色んな人にも会った その全ての出来事が 今につながっているんだ 大学を出てから 暮らしてきたこの街で 僕は君と出会って 同じ時を過ごした それから数年後 僕らは一緒になって また新しい街へ 二人で旅に出よう 出会いと別れを繰り返した この東京の街に たくさんのありがとうと さようならを告げるよ 不安がないわけじゃないけど まあなんとかなるだろう そう笑って手を振るよ

          さらば東京の街よ

          日向のワルツ

          君は日向で本を読んでる 僕はキッチンでコーヒーを淹れる 春の日差しが眩しいから 僕はくしゃみが止まらなくなる 君はそれを見て笑う 洗濯物がくるくる回り まるでワルツを踊っているよう 君は日向でうとうとしてる 僕はそれを見て笑う

          君に贈るランキング 【毎週ショートショートnote】

          ユカは今朝も情報番組を観ていた。 この番組の占いコーナーはよく当たるらしい。 『あなたに贈る星座ランキング! 今日の最下位はヌラポイ座のあなた! とんでもなく良くないことが起きそう! ラッキーアイテムはチョコレートです!』 ヌラ?聞き間違いかな?それより急がなきゃ。 駅へ向かう途中ユカは自転車に轢かれそうになったり、カラスに追いかけられたりと散々な目にあった。 おまけに乗った電車もトラブルでしばらく運転見合わせとのアナウンス。 「朝からついてないな、あれ、もしや?」 ユカ

          君に贈るランキング 【毎週ショートショートnote】

          スタンドバイミー

          多摩川のほとりをのんびり歩く 澄んだ空気の日曜日の朝 カラフルな服のランナー達が 次々と僕らを追い抜いていくよ ずっとこのまま歩いていたら 一体どこにたどり着くのだろう お昼を食べたらもう少し歩こう 線路を辿ってあの街へ行こう 大きな犬を連れている人と すれ違い様に挨拶するよ 君のあくびが空に溶けて 白い雲が流れてくよ 何にもないようなこの街で 何もかも満ち足りた世界で 何でもないようなこの日々を 何度も何度も繰り返していこう

          スタンドバイミー

          Tomato

          幼い頃から一緒に過ごした 君は今愛する人と結ばれる 振り向かないで手を取り合って 前だけ見つめて歩いていけばいい これから先何があってもその手だけ離さないで 病めるときも健やかなるときも 誓った言葉を忘れないで 二人に芽生えた小さなその蕾を 枯らさないように無くさないように 未熟な果実が真っ赤に熟れるまで

          ありふれた歌

          C F C F 僕達のこの日々が いつまでも続けばと ありふれた言葉だけ つらつらと重ねては Dm G Em Am いつもの他愛のない会話も あの夜の泣き顔も 不細工なその寝顔も全部 いつになくなんとなく愛おしい