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小説 朝陽のむこうには サバトラ猫のノア

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小学生だった僕が猫になっちゃったお話です。牧場で猫として生まれた僕には、人間だった記憶がある……。全8話をマガジンにまとめました。
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2023年2月の記事一覧

【連載小説】朝陽のむこうには ~サバトラ猫のノア~ 8 最終話〈全8話〉

ある日の午後。 おかあさんと弟は学校の行事があると言って出かけていた。 家の中には仕事が休みのおとうさんと僕だけ。 おとうさんはリビングの床に座って、僕のおなかやしっぽの付け根をなでたり、額のあたりを指でこちょこちょしたりする。 おとうさん、よく分かってる!  そこは気持ちいいんだよ。 夕方はいつも弟が僕を独占しているから気づかなかったけど、おとうさんって猫好きなんだ。 「気持ちいいかー。そっかー。ここか? よしよし。いい子だー」 声もいつもより柔らかい。 今日のおと

【連載小説】朝陽のむこうには ~サバトラ猫のノア~ 6〈全8話〉

僕はおかあさんの運転する車の中で車窓から外を眺めていた。 次々と街路樹が流れていく。 車が角を曲がってから、それは家々が見える景色に変わった。 住宅街に入ってきたみたい。 弟は僕をひざに乗せて後部座席に座っている。ほとんど身動きをしないで、タオルの上から僕の背中をそっとなでている。 僕が眠っていると思って起こさないようにしてくれているんだ。 しばらくして、車は速度を落として停車した。 「おかあさん、先に家に入っていい?」 弟が小さな声で訊いた。 「いいわよ。大輝は猫さん

【連載小説】朝陽のむこうには ~サバトラ猫のノア~ 7〈全8話〉

僕はどうしてこの家族と離れてしまったのかな。 その話を誰もしない。 でも、みんなはかつての僕、カズヤのことを忘れてはいない。 リビングの壁には家族でキャンプに行った時の写真が飾ってある。写真を引きのばしてパネルにしたものだ。 大きな、すごく大きなパネル。 小学生だったカズヤとまだ小さかった弟、そしておとうさんとおかあさん。四人そろってこちらを見て笑っている。 部屋に余計な置物がない分、その大きなパネル写真は部屋の中ですごく存在感がある。 おかあさんは笑顔でいること