マガジンのカバー画像

小説 朝陽のむこうには サバトラ猫のノア

8
小学生だった僕が猫になっちゃったお話です。牧場で猫として生まれた僕には、人間だった記憶がある……。全8話をマガジンにまとめました。
運営しているクリエイター

2023年1月の記事一覧

【連載小説】朝陽のむこうには ~サバトラ猫のノア~ 3〈全8話〉

「午前の部、完了! 今日もヤギちゃんたち、元気でしたー」 いつものように明るい声でかえでさんがハウスに戻ってきた。 そしてソファに並んで座るパパさんとママさをちらりと見る。 かえでさんの表情が少し変化した。 普段と違う空気を感じたみたい。 「どうしたの? なんか元気なさげ。何かあった?」 堅苦しい雰囲気のパパさんとママさんに、かえでさんは笑顔を残しつつ訊いた。 僕はそっと体を立ち上げのびをする。 三人の様子が気になってしかたない。 僕は五感をフル活動させている。 「

【連載小説】朝陽のむこうには ~サバトラ猫のノア~ 4〈全8話〉

「人間だった時に住んでいた家に行ってみようと思うんだ」 僕はママ猫のミイと兄弟猫のトムにそう告げた。 「行ってみたらいいよ」 ミイは特に驚いた様子もない。 「だけど、ちゃんと準備をしてからにしないといけないよ」 「ノアはさ、一度も牧場の外に出たことないよね」 トムはそう言ってあれこれと僕のおっちょこちょいのエピソードを話し始めた。 そして、こんなノアでもしっかり準備をすれば大丈夫だよねとミイに訊く。 僕のことを心配しているんだね。 「物事を始める時はしっかり準備すること

【連載小説】朝陽のむこうには ~サバトラ猫のノア~ 5〈全8話〉

それから僕は何日も何日も歩き続けた。方向は間違っていないはずだ。 ある朝、見覚えのある街にたどり着いた。 ここ、覚えている。見覚えのある公園、見覚えのある家並み。 どんどん足早になっていく。 僕の家は、そう、この角を曲がったところ。 あった!僕が住んでいた家! 僕の家に向かって駆け出した。たどり着きドアを見上げる。 かつてのように自分でドアを開けて入っていくことはできない。 しかたなく僕はドアの前で長い時間待ち続けた。 突然、カチャリと音がしてドアが開いた。誰かが出てく