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マイナンバーカードで一体なにが便利になる?マイナンバーカードが切り開く未来【日下光さん・後編】

マイナンバーとマイナンバーカード施策によって行政のデジタル化が進むと、財政コストと管理コスト圧縮に繋がり、為政者が嬉しいのは想像できる。

しかし、マイナンバーカードのような、オンライン上で個人を証明できる「デジタル ID」が普及したら、わたしたちの生活は、どのように豊かで便利になっていくのだろうか。
いち消費者であるわたしたちだが、実際にはあまりイメージを持てていないかもしれない。

前編に引き続き、マイナンバーカードを活用したデジタル身分証アプリ「xID(クロスID)」を日本国内で展開する blockhive の代表・日下光さんにお話を伺った。

(聞き手・編集: 池澤 あやか)

前編はこちら。

デジタル ID の未来の糸口はエストニアにあり

池澤: 日下さんが代表を務めていらっしゃる blockhive は、日本だけではななく、エストニアにも拠点を構えていらっしゃいます。そんなエストニアは、日本のマイナンバーカードにあたる「ID カード」の普及率が99%を超えています。

デジタル身分証アプリ「xID」を日本国内で展開しようと思ったことに、エストニアからの影響はありましたか。

日下さん: まさに、エストニアでデジタル ID の利便性を実感したことが原体験となり、「xID」が生まれました。

エストニアでは、ID カードを使って、ほぼすべての行政手続きがオンラインで完結します。例えば、現住所の変更や保険の申請も、ブログの基本情報を更新するような感覚で行うことができます。

行政だけではなくて民間企業も、サービスへのログインに ID カードを利用できるようになっていて、銀行アプリへ、病院の電子カルテへ、教育のオンラインサービスへも、ID カードを利用してログインできます。つまり、ID カードさえ持っていれば、国内のさまざまな便利なサービスにアクセスできるんです。当時、このような世界観にとても感動を覚えました。

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日下さん: 日本でも同じような世界観を実現できないかと考えたときに、よく考えたら日本にも似たようなものがあるなと。それが、マイナンバーとマイナンバーカードです。

また、エストニアのように、ID カードに連動するサービスが多くなればなるほど、ID カードをいちいち取り出すのはめんどくさいですよね。そこで、生まれたサービスが「xID」です。xID は、一度マイナンバーカードを認証させておけば、認証が必要なたびにマイナンバーカードを取り出してスキャンしなくても、さまざまなサービス上で認証情報を使えるアプリです。

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日下さん: エストニアには「Smart-ID」という類似サービスがあり、多くの国民に利用されています。

それの日本版を、今後、デジタル ID が日本で普及することを見越してつくりました。

行政のデジタル化がもたらす「役所に行かなくていい」の先にある便利さ

池澤: エストニアでは、行政だけではなく、民間でもデジタル ID の活用が盛んですが、こうした取り組みでわたしたちの生活はどのように便利になるのでしょうか……?

日下さん: 例えば、エストニアの確定申告はとても楽なことで有名です。自動で課税額が計算されて、国民は自分のスマートフォンなどの端末から納税額を承認するだけ。わずか3分ほどで完了します。

こうした便利さは、行政の扱うデータだけでは実現できなくて、民間が管理する銀行口座の情報と紐付くからできることなんです。

エストニアでは、X-Road と呼ばれるシステム間連携基盤を通じて、それぞれの事業者が管理しているデータ同士の連携がセキュアに行えるんです。

池澤: 確かに。今の日本ではデータの紐付けを自分でやらなくちゃいけないので、大変なんですね。毎年確定申告の時期がくると憂鬱なので、日本もそうなったらめちゃくちゃ便利だなあ。

日下さん: 少し抽象的な話になりますが、今、行政とか金融とかお堅いイメージがあった機関が、どんどん「機能」に分解されてる動きが世界的に起きているんですよ。

金融機関は金融機能に分解されて、決済や融資、与信などの機能が API としてオープンされるようになってきています。これによって、他の民間のサービスが、本来銀行しか提供できなかった機能をユーザーに提供できるようになります。例えば、家計簿アプリを日々つけているだけで、最適な融資が提案されるみたいな機能だって、銀行の融資の API が公開されれば可能です。

同じように行政も機能分解されていっていて、例えば、行政から「会社を設立するための機能」がAPIとして提供されるようになると、民間企業が法人登記から会計、法務をワンストップで提供する便利なサービスを構築したり、行政サービスDXを民間企業の手で行うことが可能になります。実際エストニアではそれがすでに実現可能で、弊社で開発しているSetGoというサービスでは、最短10分で完全オンラインで法人登記が可能です。

日下さん: さらに行政のさまざまな機能が API として開放されて、民間のサービスと紐付ければ、書類が沢山必要でめんどくさい法人向けの給付金の申請だってあっという間です。

例えば、行政が API から法人の設立日とか法人の事業内容を取得して、銀行の API から前期の売上や取引記録を取得できれば、一瞬で融資に必要な情報を集約させることができて、困っている事業者になるべく早く給付金を振込するシステムが構築できますよね。

このように、行政や金融サービスと民間のサービスが結びつくことで、ぼくたちの生活はどんどん便利になっていくはずなんです。

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デジタル化を加速する上で必要なもの

池澤: 例えば、行政書類や会社書類のはんこ不要論って、ずっと言われてきたと思うのですが、コロナ禍で対面での難しくなるまで「変えよう」っていうムーブメントが生まれなかったじゃないですか。

うまくデジタル化を促進する上で、必要なものってなんでしょうか。

日下さん: デジタルを推進していきたい人たちって、「はんこよりも電子署名のほうがずっとセキュアで、オンライン上でやりとりが完結するので、利便性が高い」みたいに利便性を訴えることが多いですよね。でも、便利さって実は三者三様で、アナログでやってきた人たちにとっては、業務オペレーションを変えるほうが不便だったりするわけです。
なので、実は「利便性を訴える」って、デジタル原理主義の押し付けになってしまいがちなんですよね。

実際には、世論をつくっていくとか、いろんな人を巻き込んでいくとか、カルチャーを作っていくとか、そういうのが足りていないんだと思います。

その機能によって、それぞれの人が自分の生活がどう変わっていくのかイメージを持てることが大切なんです。そうしてさまざまな境遇の人をみんな巻き込んでいくことが、社会を変えることに繋がります。

池澤: う、「〇〇を使わないなんてありえない、遅れてる」といった主張をしてしまいがちだったので、めちゃくちゃ反省しています……。

日下さん: (笑)。なので、人々が「これが解決すると生活が変わる」と自分ごととしてイメージを持てる共通課題があると、改革を進めていきやすいんですよ。

すべてのひとが便利になった生活をイメージできる改革を

池澤: そうは言っても、日本社会の抱える共通課題ってなんだろう。あんまり「コレだ!」っていうのが思い浮かばないですねえ。

日下さん: 日本社会よりもミクロに、地域社会までブレイクダウンして考えると、共通の課題が見えてきます。子育て世代が多い世田谷区では、子育てにまつわる課題が見えてきたり。地域社会のほうが共通の課題の元に改革が行いやすいです。

ぼくたちもいま、石川県加賀市と一緒に、デジタル ID を使った行政サービスの100%デジタル化に向けた取り組みをしています。

「窓口はもう必要ない」とするのではなく、あくまで「窓口に来なくてもいい」という新しい選択肢を市民に与えることで、いろんな人にとって住みやすい街をつくることを目標に掲げています。

これはあくまでアイデアベースですが、例えば、加賀市はお年寄りの方も多いので、市民の方であれば、乗り合いタクシーとか乗り合いバスを無料で使えるようなサービスを提供するときに、マイナンバーカードを使って、加賀市民かそうでないかの判別を簡単におこなえるシステムをつくるなども可能だと思います。

こうして市民一人ひとりに最適なサービスを提供する時にデジタル ID が役立ちます。

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加賀市の職員と一緒に行った課題抽出ワークショップの様子。地域や役所内での困り事をみんなで出し合っていく。

池澤: デジタル先行ではなくて、意識しなくても誰でも自然にテクノロジーの恩恵を受けれるような、そんな改革をめざされているんですね。

日下さん: 一部の人が置いてけぼりになってしまうような、自動運転、パーソナルモビリティー、ロボット、スマートホーム、人工知能みたいなテクノロジー盛り盛りのアーバンな取り組みは、トヨタの「Woven City」とかでやればいいんです(笑)

コロナの影響でみんなが共通課題を抱えている今のタイミングは、みんなで団結して、いい街をつくっていくチャンスでもあるのかもしれません。

■ xIDの公式サイト

■ 前編

本記事は、日経MJでの連載『デジもじゃ通信』での取材インタビューを基に執筆しています。

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