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墓参りの詩

あれほどあくせくと
いろいろなことに動き回った僕たちが
死んだあとに
たったこれっぽっちの石にしか
残らないでいることが
悔しいのか悔しくないのか
わかりません

立派な石だけでも残っていることが奇跡なのか
いかにも貧相な石塔を見ると
真新しい石の下で眠る人たちは
まだいくらか嬉しいのだろうか とも思う

最中と柑橘系の果物の切り身だけが
墓石の前に置かれていると
死んでいく前にはもっと
沢山のものを食べていたのにと
思う
小さなコップに一杯の水がなみなみに
注がれているその水面が
綺麗に揺れている
それっぽっちの水じゃ
喉が渇く

人が
死んでいったことを確実に
これ以上ないやり方で
思い知る

夏の朝の陽光が体内を侵食するように
肌に熱を帯びさせる
山全体で蝉が鳴いていた

さるすべりが綺麗に咲いていると
祖母が言った
赤色のさるすべりが風に揺られている