eumo(共感資本社会)と『古事記』の世界観について【eumo book map project】


「eumo」的な世界観を、書籍を通して紡いでいくプロジェクト、【eumo book map project】の、おそらく、これが第1号の投稿です。今後、このハッシュタグが、何百、何千となることを祈って・・・。

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みなさんは、人類のもっとも古い記憶、生命の根源にある英知と言われたら何を思い浮かべますか?

今回、『古事記』の内容を扱いますが、書籍としては中沢新一の『人類最古の哲学』の記述を基に進めていきます。

中沢いわく、我々が呼ぶ「知識」について、学校教育が扱うのがせいぜい150年から100年前。「哲学」と呼ばれるものが2500年くらい。人類が記号など意味のある手段を用いてコミュニケーションを初めて3万年と言われる、その2500年から3万年までの間に我々人類が経験したり考えたりしたことは、すべて「神話」の中に収められているのだそうです。

例えば、グリム童話の『シンデレラ』は、その亜流が世界各地に450ものパターンとして残っていると言われます。イヌイットの神話に、人間と動物が一緒に暮らしていた時代のことが書いてあるのですが、以前読んだ『荘子』(※)にもほとんど同じ表現があるので、今回この本を読んで、改めてびっくりさせられました。

さて、稗田阿礼の口伝により奈良時代に編纂された、皇室の歴史を綴った『古事記』も、古代ヨーロッパやメソポタミアの影響があることは知られています。その中で、皇室の先祖神、としてホノニニギノミコトが登場します。土着の神であるオオヤマツミの娘、サクヤヒメを見初めたニニギノミコトはヒメに結婚を申し出ます。サクヤヒメから相談を受けたオオヤマツミは、ニニギノミコトに、サクヤヒメの姉であるイワナガヒメもセットで嫁がせようとします。当時の風習では結婚は贈与(Gift)の一環で、姉妹がいた場合は、一緒に娶るのが一般的とされたといいます。しかし、花のように美しいサクヤヒメに比べ、まるで岩石のような顔をしたイワナガヒメを見て、ニニギノミコトはサクヤヒメだけ残して、イワナガヒメをオオヤマツミの元に戻してしまいます。それを見て、オオヤマツミは嘆きます。「せっかく、美しい花のような、しかし、はらはらと散る限りある命と、岩のように朽ち果てることのない永遠の命を与えたのに、永遠の命を突き返してくるなんて!」

こうして、「永遠」(持続)を奪われた人間には、「死」(終焉)が与えられたといいます。オオヤマツミは日本列島に昔からいた土着の神です。そして、もう一方の、ニニギノミコトは稲作を持ち込んだ渡来の神です。あたかも、「共生」と「贈与」の時代であった縄文時代が終わり、稲作による「蓄財」と「交換」の時代である弥生時代がここから始まったかのようにも読み取れます。

よく言われるのは、「資産」を表す“finance”という単語の語源は“finish”、つまり、「終わり」であるということです。物とお金などの等価交換が始まれば、Gift(贈与)という行為とともに、それまでつちかってきた「信頼関係」も終焉を迎えます。言い換えれば、そこから、ドライな関係が始まる、とも言えます。ニニギノミコトのGiftされたものを「突き返す」という行為からも、「関係性の終了」を感じ取ることができます。

少し脱線しかかりましたが、つまり、この神話の一部分は、富が偏在することによる貧富の差の出現のきっかけを示しているような気がします。また、永遠には続かない刹那的な享楽は、資本主義経済の原型として、古代の豊かな精神性を持つ、持続可能な社会の対極として位置づけられたことを指すように思います。

私は、この後者の世界を、「共感資本社会」の姿と重ね合わせて感じています。大金を手に入れたとしてもその歓びは一時のものです。次には、それがなくなることの不安や恐怖を相手に戦わなくてはならなくなります。それが分った人は、「共感」を媒介した人と人とのつながりによって、安心に幸せに暮らせる社会を望むようになります。


しかし、気をつけてください。『古事記』は、必ずしも、「交換」を媒体とした「経済活動」は自体は否定していません。持続可能な「共感」社会においても、「贈与」と「交換」とは、互いに反目せず、並び立つということです。正確には、包括的な「共感資本社会」とは、「贈与」と「交換」から成り立つとみなすことができると思うのです。「共感資本社会」とは、「資本主義」という服を完全に脱ぎ捨てた社会と思っている人も多いように思います。私は、そうではなく、入れ子の構造になって、その二つを包含するものと考えています。

循環モデル

※『荘子』は中国の神話であると言ったのは白川静
【eumo book map project登録図書】中沢新一『人類最古の哲学 カイエ・ソバージュ(1)』

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