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【令和版】魔女の寄り道

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魔女が健康のためにウォーキングを始めた小説を書きました。
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【令和版】魔女の寄り道(1)

「あなた、魔女ですよね?」 あなたは魔女ですかと質問されて、はいそうですと答える人間は存在しないだろう。 「仰る意味がよく分からないのだけれど……」 沼森 美智子は緊張を悟られないよう、平静を装って答えた。 ――確かに美智子は魔女である。 今まで魔女ということを隠して生きてきた。 人前で魔法を使ったことはないし、自分が魔女であることを誰かに言いふらしたこともない。 しかし、目の前にいる20代くらいと思わしき女は、面識がないはずの美智子のことを魔女だと見抜いた。 只者で

【令和版】魔女の寄り道(9)最終話

前回の話はこちら。 公園での悪霊事件が起こってから一週間が経過した後、 美智子、由衣、明里の3人は近所のファミレスに集合した。 由衣は神主に公園のお祓いをした方がいいと訴えた。 神主は由衣の主張に一定の理解を示しつつも、実現は難しいようだった。 市の許可も無く勝手に公園でお祓いをするわけにはいかないし、 神社だってボランティアで運営しているわけではないのだ。 「あの公園のあたりは、昔から霊が多いことで有名なんですよ。  神主だってそのことは知ってるはずなのに、見て見ぬふ

【令和版】魔女の寄り道(8)

前回の話はこちら。 「いました、あれがきっと悪霊の親玉です!」 神矢 由衣は、公園の広場に設置されたベンチのあたりを指さした。 沼森 美智子は悪霊が視えないが、それでも体感温度が僅かに下がったような、嫌な空気を感じた。 「先手必勝ね。驚かしてやりましょう」 悪霊に爆発魔法をお見舞いしてやろうと、美智子が前に進んだその瞬間―― 沼地に足を取られてしまったかのように、足が動かなくなった。 「あらっ?」 体に思うように力が入らない。 美智子はその場にしゃがみこんだ。 由

【令和版】魔女の寄り道(7)

前回の話はこちら。 「多分これ、悪霊の仕業だと思いますよ」 巫女の神矢 由衣は、悪霊を視ることができる。 周囲が真夜中のように真っ暗になってしまった怪奇現象の原因は、 悪霊の仕業であると考えていた。 「悪霊がいるなんて信じられないのだけれど」 魔女の沼森 美智子は悪霊の存在を疑っていた。 しかし、他に思い当たる節もなく、美智子は悪霊の存在を受け入れるしかなさそうだった。 「もしかして私が透明人間になったのも、悪霊が原因なのかな」 透明人間の白風 明里は不安げに呟いた。

【令和版】魔女の寄り道(6)

前回の話はこちら。 白風 明里は神社でお守りを受け取り、家に帰る途中だった。 今日は体が透明化していない。 身につけているブレスレットや数珠、もしくは先ほど頂いたお守りのどれかが効いているのかもしれない。 こんなに多種多様な宗教の法具やアクセサリーを身に付けていいのかどうか分からなかったが、何が透明化に効果があるのか分からないので、色々試して様子を見るしかなかった。 もうすぐ11月も終わりだ。今日は特に寒く感じた。 季節の変わり目だからだろうか、風邪を引いた時のような

【令和版】魔女の寄り道(5)

前回の話はこちら。 「あなた今、何かとんでもないトラブルを抱えているでしょう?」 ショッピングモールの片隅で、占い師の女性は問いかけた。 「別に何もトラブルなんて抱えてないわよ」と、沼森 美智子は少し退屈そうに答えた。 多くの人は大なり小なりトラブルを抱えているものだ。 誰にでも当てはまりそうなことを言って『当たってる』と思わせる心理効果を『バーナム効果』という。 「だったらこれから近いうちに、大きなトラブルが起こります」 占い師の女性ははっきりと答えた。 美智子は

【令和版】魔女の寄り道(4)

前回の話はこちら。 「ようこそお参りくださいました」 巫女の神矢 由衣は、神社の神札所でお守りを渡していた。 神社はお正月が最も忙しいが、11月も忙しい。 七五三のお祝いがあるからだ。 巫女とは面倒くさい仕事である。 覚えなければいけない言葉や作法が多い上に、意外と肉体労働だ。 それでも由衣が巫女を続ける理由は『悪霊が視える』体質にあった。 人に悪霊が取り憑いているを視るのは、あまり気分の良いものではない。 神社にいると、不思議と悪霊が視えないことが多かった。 弱

【令和版】魔女の寄り道(3)

前回の話はこちら。 男は、橋の真ん中で火縄銃を構え、銃口を美智子に向けていた。 いつでも発砲できる体制だ。 美智子と男との距離は約20m。 美智子は防御魔法があまり得意ではない。 バリアを張っているものの、弾丸を受け止めきれる強度ではない。 直撃すれば無事では済まないだろう。 空を飛ぶための箒などは持っていない。 弾丸を避けるのは難しそうだ。 美智子は男に向かって歩き出した。 「パァン!」 男が発砲した弾丸は美智子に命中せず、少し横に逸れた。 美智子はバリアを斜め

【令和版】魔女の寄り道(2)

前回の話はこちら。 「透明人間がいるわね……」 銭湯の脱衣所に、透明人間がいた。 よく見なければ気づかないが、空間の歪みが生じている。 可能性は2つ。 確かめる方法は簡単だ。 直接話しかけてみればいい。 沼森 美智子は透明人間の近くに寄って、小声で警告した。 「隠れても無駄よ、透明人間さん。女性なら返事をしなさい。  返事がなければ男性と判断し、通報します」 「あっごめんなさい……。時間が経てば自然に戻るので、  透明化が解けたら出ていきます。本当にごめんなさい」