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源泉徴収漏れは命取り:源泉徴収のキホンを押さえよう!

はじめに

 源泉徴収。とにかくめんどくさいしよく分からないという話もよく聞きます。この記事では、中小企業の経営者や人事担当者の方々にとって避けて通れない、苦手な方がたくさんいる源泉徴収制度についてお話しします。
 給与計算とは切り離せない制度ですので基本を確認しておきましょう。

本文

1. 源泉徴収って何?簡単に言うと...

 所得税法の規定では、「居住者に対し国内において〜給与等..の支払をする者は、その支払の際その給与等について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月10日までにこれを国に納付しなければならない。」と規定されています(年金や配当などほかの支払いについても同様の規定となっています)。
 つまり、源泉徴収とは給与や報酬など一定のものを支払う際に、支払者(つまり会社)が所得税を差し引いて国に納付する制度です。従業員の皆さんの税金を会社が代わりに納めるという制度です。

 源泉徴収は法律に基づいて支払をする者が行うものです。するかしないかどちらかなので、源泉徴収義務のある支払いについて「しなくていい」という選択肢はありません。法律で定められた義務ですので、「自分で確定申告するから源泉徴収はしなくていい」ということにはなりません。

2. どんな時に源泉徴収が必要なの?

 中小企業で源泉徴収が必要となる主な収入は以下の通りです:

  a. 給与所得:給与、賞与など
  b. 報酬・料金:フリーランスや個人事業主への支払い
  c. 退職所得:退職金

 他にも利子や配当、年金などさまざまな区分で源泉徴収義務がありますが、ここでは、特に中小企業で頻繁に発生する給与所得を中心に解説し、報酬・料金についても触れていきます。
 なお、非居住者(日本国内に住所がなく、かつ1年以上日本に滞在していない個人)に対する支払いについても注意が必要です。非居住者が得る各種所得(給与、報酬、退職金など)については、基本的に日本国内源泉所得として源泉徴収の対象となります。
 ただし、税率や具体的な適用範囲は租税条約の影響を受ける場合があるため、非居住者への支払いがある場合は、税務署や税理士に相談することをおすすめします。

3. 税率はどうなってるの?計算方法は?

a. 給与所得の場合

  給与所得者に対する源泉徴収税額は、国税庁が毎年発表する「源泉徴収税額表」に従って計算します。従業員から提出を受けた「扶養控除等申告書」の提出の有無や提出内容に基づいて、扶養親族の数や社会保険料等の控除後の金額をベースに税額表に当てはめて計算することになります。
 給与ソフトを用いて計算することも多いのでここでは省略します。

b. 報酬・料金の場合

  報酬・料金に対する源泉徴収は、以下のような業種や役務提供が対象となります。

 - 弁護士、税理士、公認会計士などの士業
 - 外交員、集金人
 - プロスポーツ選手、プロ棋士
 - 芸能人、モデル
 - 原稿執筆、講演、デザイン、システム開発など

 これらの報酬・料金に対する源泉徴収税額の計算方法は以下の通りです。

   イ. 100万円以下の場合:支払金額 × 10.21%
   ロ. 100万円超の場合:(支払金額 - 100万円) × 20.42% + 102,100円

 報酬・料金の源泉徴収については、業務の内容や契約形態によって一律に上記の計算をするとは限りません。不明な点がある場合は、税務署や税理士に相談することをおすすめします。

4. 納付はどうするの?期限は?

 源泉徴収した税金の納付については、以下のポイントを押さえておきましょう。

 a. 納付期限:原則として支払い月の翌月10日まで
 b. 納付の種類:
  ‐ 給与所得の源泉所得税
  - 報酬料金等の所得税
  ‐ 退職所得の源泉所得税
 c. 納付方法:
   従来の紙の納付書を使用する方法に加えて、e-Taxを利用したオンライン納付も可能です。e-Tax納付には以下のような方法があります。

  - ダイレクト納付:事前に登録した金融機関口座から即時または指定日に引き落とし
  - インターネットバンキング等による納付
  - クレジットカード納付
  - QRコードを利用したコンビニ納付

   e-Tax納付は24時間365日利用可能で、オフィスにいながら手続きができる便利な方法です。また、国税庁の方針により、源泉所得税の納付方法が現金納付からキャッシュレス納付へ移行されていますので、e-Taxなどのキャッシュレス納付の利用をおすすめします。

5. 納期の特例について

 従業員が常時10人未満の小規模事業者は、「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を税務署に提出することで、納期の特例の適用を受けることができます。この特例を利用すると、次のように納付期限が変更されます。

  a. 1月から6月までの徴収分:7月10日まで
  b. 7月から12月までの徴収分:翌年1月20日まで

 この特例を利用すると、毎月の納付手続きが半年に1回で済むため、事務負担を軽減できます。
**注意点**
 納期の特例の適用は、「給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書」を使用して納付する支払いについてのみ適用があります。これ以外の納付書を用いて納付する場合には、納期の特例の適用を受けることができません。原則通り支払月の翌月10日までに納付する必要があります。

6. よくあるミスとその対処法

a. 源泉徴収漏れ

  - 対処法:支払い前に必ず対象を確認、不明点は専門家に相談

b. 税率・計算ミス

  - 対処法:国税庁の「源泉徴収税額表」を参照、ソフトウェア利用も検討

c. 納付期限遅れ

  - 対処法:納期の特例の利用を検討、納付期限の管理徹底、早めの準備

 繰り返しになりますが、源泉徴収は法律で定められた義務です。「しなくていい」という選択肢はありません。従業員や取引先からそういった要請を受けたとしても、不利益を被るのは自社ですので、適切に実施することが非常に重要です。

7. 源泉徴収漏れのペナルティについて

 源泉徴収漏れには厳しいペナルティがあります。主なものは以下の通りです。

 a. 不納付加算税:納付漏れの税額の5%(税務署指摘後は10%)が課されます。
 b. 延滞税:年2.4%~8.7%(令和5年現在)の利息が加算されます。
 c. 重加算税:悪質な場合、未納額の35%が課される可能性があります。

 特に不納付加算税は他の税目では課されない独特のペナルティで、納付の期限を1日でも過ぎると問答無用で5%または10%の税金が発生しまいます。これは、利益から納付する法人税などと違い、源泉所得税は従業員から預かっているお金という位置付けであるのが理由です。
 源泉徴収は確実に行い、万が一漏れがあった場合は速やかに対処することが重要です。

まとめ

・対象となる収入を正確に把握する(特に給与所得と報酬・料金の区別に注意)
・適切な税率で計算する(給与所得は源泉徴収税額表、報酬・料金は定率)
・期限内に正確に納付する(納期の特例の活用も検討)
・キャッシュレス納付(特にe-Tax)の利用を検討する
・源泉徴収漏れを防ぐため、確実な手続きと管理を行う

おわりに

 源泉徴収は毎月の給与やその他の支払いから強制的に天引きをして納付する必要があるものです。金額計算自体は給与ソフトがやってくれるとしても、扶養親族の増減などは適切に反映させる必要があります。従業員の数が増えるほど煩雑になり納税額も多額になりますので、納付期限を過ぎてしまうことのないようにスケジュール管理には充分注意しましょう。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました!

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