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雨に偲ぶ

打ち捨てられふやけた手撒きチラシを靴底に貼り付け
すれ違う傘からしたたる雫をスーツに染み込ませる。

密接した名前も知らない他者の体温は
密集した空気に触れどこへ逃げることもなく留まり続ける。

僕の体温は一体誰の元へ向かうのか。
僕の傘の雫は誰の元へ向かうのか。

分かるはずのないことを抱いたまま
雨音を滲ませた都会の喧騒に忍ばせる。

薄暗い空の色の中に微かな明るさを見出し
白く輝く街中に仄暗く佇む路地裏を見る。

透明な傘の内側から見る人々の顔は
皆一様に暗く、そして眼だけは鈍く光っている。

一度くらいは雨の降る日を悲しいと思えないだろうか。
雨の降る日は一度くらい君のことを忘れられないだろうか。

閉じた傘の先からコンクリートに広がる染みのように
心の中にじわじわと広がっていく虚しさ。

雨の降る日に一度くらいは思い出してくれないだろうか。
一度くらいは雨の降った日を思い出してくれないだろうか。

こうやって思い出している僕を
一度くらいは思い出してくれないだろうか。

雨の音が僕を包み
身体を巡る熱を微かに奪っていく。

雨の雫が傘に当たり
僕と世界を隔てている。

何も欲しくないのだ。
何も求めてないのだ。

本当に。

本当は?

雨音が響く世界に
僕は思い続ける。

雨の降る日は君のことを思い出していいだろうか。
雨の降る日は僕のことを思い出してくれないだろうか。

一度と言わずに。


貴方のその気持をいつか僕も 誰かに返せたらなと思います。