間接補助金制度ドメイン取得のタイミングについて
幽霊法人に流れていた経産省「持続化給付金」との酷似点
経産省が所管する新型コロナの影響を受けた事業者救済のための「持続化給付金」の管理事務業務が幽霊法人に委託されていたとのニュースを見ました。
このニュースには、『日本の映画産業を殺すクールジャパンマネー』で扱った平成24年度補正予算のクールジャパン海外展開補助金と酷似するように感じました。
国と補助事業者の関係
この二つの補助金は「間接補助金」です。
「間接補助金」とは、補助を受ける事業者が経産省に直接補助金を申請するのではなく、基金設置法人が補助金の申請や支払いに関する運営を間接的に行う仕組みになります。
国 → 民間団体の基金管理法人 → 民間事業者
この「間接補助金」は、民間に分配する「補助事業費」と、基金管理法人に使うこと許されてた「管理事務費」という流用区分が交付時に決められています。
補助事業者決定と公式ドメイン取得のタイミング
「持続化給付金」の基金管理事務を一般競争入札を経て請け負っていたのは、一般社団法人サービスデザイン推進協議会になります。
本書で扱った「クールジャパンコンテンツ海外展開支援事業補助金」の基金管事務を一般競争入札の経て請け負ったのが特定非営利活動法人映像産業振興機構(VIPO)です。
映像産業振興機構は「持続化給付金」と同じ令和2年補正予算で計上された経産省「コンテンツグローバル需要創出促進事業」878億円の基金管理事務も請け負っています。
この二つの補助金制度には告知や申請のためのホームページを設置されていて、制度の公式ドメインが使われています。
ここで注目すべきはこの公式ドメイン取得のタイミングです。
結論から申しますと、どういうわけかこの事業を委託された補助事業者は、補助事業制度の前から公式ドメインを取得しています。
持続化給付金の場合
2020年4月6日 サービスデザイン推進協議会が「jizokuka-kyufu.jp」ドメインを取得
同4月7日 令和2年度第一次補正予算閣議決定
同4月8日 公募開始
クールジャパン海外展開支援事業の場合
2013年3月11日 フジサンケイグループの広告代理店株式会社クオラス社員が個人名義で「j-lop.jp」ドメインを取得
同3月11日 映像産業振興機構が経産省に交付申請
同3月12日 経産省が交付決定を決裁、制度施行
同3月14日 経産省が採択結果公表
このように両者とも、採択事業者が正式に決定する前に、のちに補助金制度に使用されるドメインを取得しています。
都合のいいドメイン取得タイミングの議論
ただし、制度開始前に補助事業者が行ったドメイン取得のタイミングをみて「これは国と補助事業者とが癒着していたのでは?」と直ちに結論づけることは誤りです。
これについては、私も会計検査院や第三者の省庁に相談したことがありますが、補助事業者のドメイン取得のタイミングだけをもって、直ちに談合などの違法性を疑うことはできません。
なぜなら、基金管理事務を請け負った事業者らは、採択で選ばれなくともドメインだけ用意していたという論理が通るからです。
少し都合が良すぎるように聞こえるかもしれませんが、論理上、採択されなかった場合はドメインを捨てもいいつもりで取得していただけ、と主張することができます。
疑惑の経産省の委託先の意向
しかし、サービスデザイン推進協議会の設立経緯について読むと公共事業を発注する経産省と近い関係というのも見え隠れします。
本書で扱ったクールジャパン補助金の場合、国と補助事業者との間のさらに不自然な癒着を疑わせる事実も確認しています。
上の貼った経産省が予算計上を行った時の資料には「VIPO等を想定」と、国が予め委託先として映像産業振興機構等を想定していることが記載されています。
独占禁止法の中の「入札談合等関与行為の排除及び防止並びに職員によ る入札等の公正を害すべき行為の処罰に関する法律」第二条は、次のようなことを「入札談合 等に関与する行為」と定めています。
二 契約の相手方となるべき者をあらかじめ指名することその他特定の者を契約の相手方となるべき者として希望する旨の意向をあらかじめ教示し、又は示唆すること。
経産省は入札談合に当たる表記が不適切と思ったのか、その後、この資料から「VIPO等を想定」の記述を削除しています。しかし、公募結果は経産省の想定どおりになりました。
こうした国と補助事業者の関係を目の当たりにすると、ドメイン取得していたタイミングは偶然もありうる、という論理も額面通り受け取れない気持ちが残ります。
補助金管理事務費が広告代理店の利益に繋がる構造
報道によると「持続化給付金」を請け負ったサービスデザイン推進協議会は、事業の97%を電通に再委託していたそうです。
実は「クールジャパン海外展開補助金」においても、その「事務費」が広告代理店に流れていています。
前述の通り、この補助金制度の公式ドメイン「j-lop.jp」はフジサンケイグループの広告代理店である株式会社クオラス社員の名前で取得、管理されていました。つまり、補助金基金管理事務の一部を、なぜか第三者の広告代理店社員が行っていたことになります。
ちなみに、この補助金の交付要綱には、業務の一部を再委託する際には原則競走にかけなければならないと規定されています。しかし、映像産業振興機構はこの広告代理店社員参加についての契約を国に届け出ていません。
さらに問題は、この制度は民間への補助金の分配であるにもかかわらず、映像産業振興機構の「事務費」を使って、この広告代理店らが機構とコンソーシアムを組みイベント事業を主催していました。
「持続化給付金」「クールジャパン海外展開補助金」とも民間を支援、救済するためのはずの補助事業であるにもかかわらず、どいうわけか「事務費」が広告代理店に還流するスキームになっています。
事務費に潜む危険性
「間接補助金」の「事務費」は透明性において大きな危険を含んでいます。
「間接補助金」は「民間事業」と位置付けられるため、補助事業者の「事務費」の詳細について国民の知る権利は及びません。
仮に、国民が国に対して情報公開請求を行っても「公文書は作成も取得もしていない」となり、補助事業者に問い合わせても「我々は民間事業者であり、情報開示の範囲外」と理由で拒否できる制度になっています。
所管の経産省は法律によって立入検査できることなどが定められていますが、私の経験では、「事務費」の使途が適切だったのか尋ねても「いちいち覚えていない」「目視のみであるから記録はない」と回答され終わりでした。
不運なことに、経産省に清廉さ、自浄を見込めない経験を私はしました。
だからこそ、不透明になりがちな新型コロナウィルス対策名目で設立されている「間接補助金」の「事務費」にはよりいっそうの注視が必要だと考えます。
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