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クールジャパンと吉本興業

はじめに

『日本の映画産業を殺すクールジャパンマネー 経産官僚の暴走と歪められる公文書管理』では、官民ファンドが出資したAll Nippon Entertainment Worksという映画会社と、経産省のクールジャパン補助金のJ-LOPをメインに扱っている関係で、これからお話しします公的フィルムファンドへの追求は限定的な内容になっています。

ですのでここでは、そこで語りきれなかった「ジャパンコンテンツファクトリー」の問題について少し解説したい思います。

完成保証とつなぎ融資

本書では、私が思う日本の映画産業支援の在り方についても触れております。

その一つは、日本のプロデューサーにとって多様な資金調達の選択肢を生むことで、今までになかなか叶うことが難しかった新しいチャンスの創造や収入の道筋を作ることが必要だと考えています・

こちらは本書で詳しく解説していますが、プロダクション・インセンティブという制作現場にある人、商品、サービスなどに一定率の助成をかけることで撮影消費を呼び込む施策のほかに、公的フィルムファンドによる、完成保証や制作期間の運転資金を貸し出繋ぎローンもその方法の一つになると考えます。

まず、完成保証について本書からの抜粋で解説します。

完成保証とは、簡単に言うと銀行などから制作資金を借りる時や、投資家から投資を受ける 時に、作品完成までの保証人になってもらう制度のようなものです。
例えば、プロデューサーがネット配信企業らとプリセール契約したものの、何らかの理由で制作が中断し、作品が完成しなかったらどうでしょう?
当然、ネット配信企業は未完成の作品に対してお金を払うことはありません。このような状況に陥った場合、プリセール契約を元に運転資金を貸し出した金融機関は貸し倒れの被害を受 けるおそれがあります。こうしたリスクがあると、銀行はなかなか制作資金の融資を行う気にはならないと思います。
そこで、国の公的フィルムファンドなりが、作品の完成までに万が一問題があった時は、それまでかかった制作資金を保証しますという「完成保証」を約束します。これにより、銀行など金融機関のリスクが軽減され、制作費のローンが出しやすくなります。
この「完成保証」ですが、通常は空手形で保証人になるのではなく、予算内で作品が完成するように、逐次制作の進行具合をチェックすることになります。もちろん保証も無料ではなく、 プロデューサーは「完成保証」に対して保証料を支払うことになります。
『日本の映画産業を殺すクールジャパンマネー 経産官僚の暴走と歪められる公文書管理』第9章プロダクション・インセンティブ より

こうした民間の金融機関が貸しやすくする完成保証のほかに、公的資金のフィルムファンドが直接制作期間の資金繰りを支援するつなぎ融資を行うのも方法の一つだと思います。

クールジャパン機構とジャパンコンテンツファクトリー

実は、日本にも国の政策としてこれを支援する動きがありました。

2018年8月3日、クールジャパン機構が51億5000万円の支援決定を行い、「ジャパンコンテンツファクトリー投資事業 有限責任組合」(LSP)を立ち上げるための基金運営会社「株式会社ジャパンコンテンツファクトリ ー」(GP)の設立を発表しました。

同日に公表されたジャパンコンテンツファクトリーのプレスリリースにはこう記されています。

本ファンドは、映像配信会社などがコンテンツ完成後にライセンスフィーの支払いを約束するプリセールス契約締結時から、制作費入金時の間に資金を供給することで、これまで、優れた企画・制作能力を持ちながらも、資金調達手段が限られているために、単独でのコンテンツ制作およびその後の事業展開が困難だった制作会社や作品をプロデュースする制作会社などを支援していきます。                       (株式会社ジャパンコンテンツファクトリー  海外展開を目指す日本の映像コンテンツ制作を支援するファンドの立ち上げについて~ファンド運営会社「株式会社ジャパンコンテンツファクトリー」を設立、2018年秋に運用開始~ 2018.08.03) 

座組み

(経済産業省 開示文書 海外需要開拓委員会「個別作品に対する海外展開支援ファンド2018年3月18日)

この資料は2018年3月にクールジャパン機構によって作成されたものですが、8月のプレリリリースでは「検討中」とある文芸春秋社、イオンエンターテイメントの参加も発表されています。

また、2018年5月28日の時点で、ジャパンコンテンツファクトリーの資本金および資本準備金を合わせた額は5億円となっているので、ほぼこの計画書通りに各社が出資したものと思われます。

*2018年7月25日に1000万円の追加出資あり

運営会社参加企業の利益相反

問題だと指摘せざるをえないのは、この50億円のファンドの運営体制です。

このコンテンツファンドの大半は公的資金からなるクールジャパン機構からのお金なのですが、その目的が「単独でのコンテンツ制作およびその後の事業展開が困難だった制作会社や作品をプロデュースする制作会社などを支援」するとあるのに反し、ファンド運営会社の決定権を握るマジョリティは、直接その利益を享受する制作会社が含まれています。

とりわけ、注目すべきは合わせて株式保有率が60%となるNTTぷららとYDクリエイティブの2社です。これら会社は、支援対象となる Netflix や Amazon で番組を製作している直接的もしくは間接的な当事者に当たります。

筆頭株主のNTTぷららは、ジャパンコンテンツファクトリー参入と同じタイミングの2018年5月に、アニメーションの映像制作事業などを手がける株式会社IGポートと資本提携を行っています。IGポートのグループ会社である Production I.G. は、Netflix 作品『ULTRAMAN』などを制作しています。

さらに、吉本興業と電通の合弁会社であるYDクリエイションもまた、Netflix で吉本興業のタレントが書いた小説が原作の『火花』や、企画、プロデュースした『Jimmy ~アホみたいな ホンマの話』といったテレビドラマや、Amazon オリジナルの『ドキュメンタル』『バチェラ ー・ジャパン』などの番組を制作している会社になります。

公的資金での融資を行う側と、それを利用する側が同じ会社になれば、明らかな利益相反が発生するのは言うまでもありません。

また、ほかのプロデューサーや制作会社が大半が公的資金からなる公的フィルムファンドの支援を受けたい場合、ライバル関係である、ジャパンコンテンツファクトリー経営陣が審査する立場にいるので、この座組みが競争上の正当な利益を侵害する可能性があることは明白です。

クールジャパン機構は「公」を支援すると謳いながら、その公共性に相容れない運用体制を組み、支援に当たっていると言えます。

政府戦略会議による吉本興業への我田引水

さらに注目すべき点は、ジャパンコンテンツファクトリーと吉本興業にあるつながりです。

ジャパンコンテンツファクトリーには、基になった政府の官民有識者会議があります。

その一つは、2016年末に内閣府に組織された有識者会議「映画の振興施策に関する検討会 議」通称「映画の振興施策に関するタスクフォース」です。

こ の有識者会議では、海外展開を支える国内の環境整備策として、「中小制作会社等の海外展開促進に向け、最適な資金調達手法の確立を目指し、検証事業を実施」という内容が取りまとめられました。

後に発表されてジャパンコンテンツファクトリーの資料と、この内容が一致していることから、このとりまとめが今回のコンテンツファンド設立に繋がったと言えると思います。

注目すべきはこの政府会議の座長を務めた人物です。その人物とは中村伊知哉氏になります。中村氏は、2009年頃から内閣府知的財産戦略本部での会議の座長を務めています。

この中村氏ですが、吉本興業ホールディングスの登記簿によると、この有識者会議が始まる半年前の2016年6月に同社の社外取締役に就任しています。

要するに、結果だけ見れば、政府の戦略会議で運用を決めた公益性の高い公的資金の運用が、会議の座長が経営に関与する、特定の企業の利益に還流していることになります。

特に吉本興業にいたっては、株主がテレビ局、映画会社、広告代理店、銀行らから構成され ています。これらのメディアおよび金融会社と資本関係を持つ会社の株主利益は、公的フィルムファンドの公共性、公益性と強い利益相反関係にあると言えます。

こうした企業に政府主導で映像産業の公的ファンドのお金が流れる構造には大いに疑問を感じています。

クールジャパン機構の別の案件では、吉本興業がNTTと共同で行う、教育分野を中心としたコンテンツを配信する国産プラットフォーム事業「Laugh & Peace Mother(ラフ・アン ド・ピース・マザー)」に100億円の出資決定も行われています。

ジャパンコンテンツファクトリー設立準備にある吉本興業の影

ジャパンコンテンツファクトリーにおいては、ほかにも世間に公表している事実と比較して腑に落ちない点がいくつかあります。

クールジャパン機構のプレリリリースには「クールジャパン機構は、株式会社NTTぷらら、株式会社YDクリ エイション、株式会社文藝春秋、イオンエンターテイ メント株式会社とともにファンド運営会社「株式会 社ジャパンコンテンツファクトリー」を設立」とあるので、これを読む限り、これら会社が新会社を設立したような印象を受けます。

しかし、ジャパンコンテンツファクトリーの登記簿を見ると、この会社は2018年5月7日に「株式会社コスモスインベストメント・マネジメント」という称号で登記され、準備されていました。そして、同年5月28日に「ジャパンコンテンツファクトリー」に商号を変更しています。

このコスモスインベストメント・マネジメントは資本金5000万円で設立された会社で、代表者の名前は溝上篤史となっています。溝上氏は、吉本興業グループの複数の会社で取締役や監査役を務めている人で、YDクリエイションでも監査役に就いていると登記されています。

また、溝上氏は2016年のNetflixドラマ『火花』に共同プロデューサーとしてクレジットされています。

ですので、ジャパンコンテンツファクトリーとは、吉本興業グループで役員を務める人物が立ち上げ準備していた会社に、クールジャパン機構らが出資し、商号を変更したという説明が正確な流れになります。

5月28日の出資と同時に、溝上氏は代表取締役を退任していますが、この度は吉本興業社長の岡本昭彦氏がジャパンコンテンツファクトリーの取締役に就任しています。

謎の制作会社ジャパンコンテンツファクトリープロダクション

ジャパンコンテンツファクトリーには他にも不可解な点が見受けられます。

2018年12月に「株式会社ジャパンコンテンツファクトリープロダクション」なる会社が設立されています。

このジャパンコンテンツファクトリープロダクションの所在地は、ジャパンコンテンツファクトリーと同じ東京都豊島区に登記されていて、代表者は、先ほどのYDクリエイション監査役で、吉本興業グループ役員の溝上氏となっています。

一般的に、商号に「プロダクション」と加えると本体の制作子会社を意味することが多いです。実際に、この会社の事業目的をみると、番組製作や脚本制作および販売、広告代理店業務、経営コンサルティング業務等が主な業務となっています。

この会社の資本金は100万円となっていて、商号、所在地、代表者、業務内容からいって、少なくともジャパンコンテンツファクトリー関係会社である可能性が極めて高いことは間違いないでしょう。

このジャパンコンテンツファクトリープロダクションについて、ジャパンコンテンツファクトリーに問い合わせたところ回答が届きました。

ジャパンコンテンツファクトリープロダクションは、50億円のファンドであるジャパンコンテンツファクトリー投資事業有限責任組合の100%出資の子会社で、設立理由については「JCFファンドが映像コンテンツ制作に対して行う資金供給を、様々なコンテンツ制作会社側の多岐にわたる制作形態に合わせて、柔軟かつスムースに実施できるよう設立いたしました。」とのことです。

しかし、本来のコンテンツファンドの役割は民間への資金供給であるのに対し、登記している事業目的では自らが番組製作を行なっていくと利益相反が発生しており、設立準備を行っていた吉本興業グループ役員の制作子会社設立の合理的な理由であるとは言えないように思えます。

繰り返しますが、ジャパンコンテンツファクトリーは、日本の中小の制作会社や独立系プロデューサーにあたらな資金調達手段を支援する、という目的で設立されています。それが、大手メディアの大企業の既得権者である面々の座組みで統治し、利益を得る枠組みが裏で設計されているわけですから、ジャパンコンテンツファクトリーへの公金出資は、この面においても極めて不適切かつアンフェアな支援であると指摘せざるをえません。

先延ばしにされて投資決定の公表

クールジャパン機構の投資決定においては、国と官民ファンドの役割などについて定めた「株式会社海外需要開拓支援機構法」という法律があります。

法第 35 条には、経産省がクールジャパン機構の業績評価を毎年度行い、それを公表することが定められています。

第三十五条 経済産業大臣は、機構の事業年度ごとの業務の実績について、評価を行わなければならない。
2 経済産業大臣は、前項の評価を行ったときは、遅滞なく、機構に対し、当該評価の結果を通知するとともに、これを公表しなければならない。

経産省は、この法令に基づき毎年「株式会社海外需要開拓支援機構の業務の実績評価について」という文書を公表しています。

平成30年度の文書には「ジャパンコンテンツファクトリー」が登場しています。

JCF合成

問題はこの業績評価の一番下の注釈文です。

(*)支援決定月は平成29年度(平成30年2月だが、支援決定公表月が平成30年度(平成30年5月)であり、前回までの実績評価では掲載がされていないため掲載

これを読み解くと、経産省は「事業年度毎」、「直ちに公表する」ことが法律で義務付けられているにも関わらず、ジャパンコンテンツファクトリーの評価の公表を翌年度に先延ばしにしていたことになります。

国民を騙す経産省の説明の矛盾点

経産省が法律の規定に反し、後付けで公表した業績評価の報告ですが、客観的な事実に照らし合わせると、記載事実に誤りがあるように思えます。

第一に、「支援決定公表月が平成30年度(平成30年5月)」とする点ですが、クールジャパン機構がジャパンコンテンツファクトリーへの出資決定をプレスリリースで発表したのは2018年8月3日(平成30年8月3日)のことなので、5月に公表した事実はありません。

さらに、支援決定を平成29年度の2018年2月に行っていたという点ですが、この説明にも大きな矛盾があります。

「株式会社海外需要開拓支援機構法」では、投資決定において次の手順を踏まなければならないと定めています。

第二十四条 機構は、対象事業活動支援を行おうとするときは、支援基準に従って、その対象となる事業者及び当該対象事業活動支援の内容を決定しなければならない。
2 機構は、対象事業活動支援をするかどうかを決定しようとするときは、あらかじめ、経済産業大臣にその旨を通知し、相当の期間を定めて、意見を述べる機会を与えなければならない。
3 経済産業大臣は、前項の規定による通知を受けたときは、遅滞なく、その内容を事業所管大臣に通知するものとする。
4 事業所管大臣は、前項の規定による通知を受けた場合において、当該事業者の属する事業分野の実態を考慮して必要があると認めるときは、第二項の期間内に、機構に対して意見を述べることができる。
(支援決定の撤回)

つまり、クールジャパン機構がジャパンコンテンツファクトリーへの出資を決定しようとする場合、クールジャパン機構は経産大臣にその旨を通知し、意見を伺わなければなりません。

事実、クールジャパン機構は、同法に基づき経産大臣に意見伺いを立てると同時に、ジャパンコンテンツファクトリーについての説明資料を送っています。

しかし、経産省から開示されたジャパンコンテンツファクトリーに関する説明資料の日付をみると、作成日は2018年3月16日となっています。

(1)個別作品に対する海外展開支援ファンド(ドラッグされました) 2

(経済産業省 開示文書 海外需要開拓委員会「個別作品に対する海外展開支援ファンド2018年3月18日)

この資料を作成した海外需要開拓委員会とは、同機構の投資決定を中立的な観点から判断するも目的に法第15条で設置することが義務付けられた組織です。

第十五条 機構に、海外需要開拓委員会(以下「委員会」という。)を置く。
(権限)
第十六条 委員会は、次に掲げる決定を行う。
一 第二十四条第一項の対象事業活動支援の対象となる事業者及び当該対象事業活動支援の内容の決定
二 第二十六条第一項の株式等又は債権の譲渡その他の処分の決定
三 前二号に掲げるもののほか、会社法第三百六十二条第四項第一号及び第二号に掲げる事項のうち取締役会の決議により委任を受けた事項の決定
2 委員会は、前項第一号及び第二号に掲げる決定について、取締役会から委任を受けたものとみなす。

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つまり、経産省が主張する「2018年2月の投資決定」が事実であるとするならば、海外需要開拓委員会は、ジャパンコンテンツファクトリーについて説明する資料を投資決定の事後に作成し、経産省に提出していたことになります。

一方で、当時の世耕弘成経産大臣は、このような意見を述べています。

本事業の実施にあたっては、機構が民間事業者とともに設立する 運営会社において、適切な運営体制を構築するとともに、ファン ドを通じた資金提供や民間金融機関・民間事業者との協業により、中堅・中小製作企業によるコンテンツの制作が促進され、日本のコンテンツの着実な海外展開に繋がるよう、適切に事業に取り組まれたい。

しかし、こうした意見は海外需要開拓委員会の説明資料が前提になければ述べることなど到底あり得ません。

となれば、今回の50億円の投資決定は、法律の適切な運用下において、海外需要開拓委員会の「対象事業活動支援の対象となる事業者及び当該対象事業活動支援の内容の決定」だけでなく、世耕経産大臣の意見の実態すら極めて疑わしいプロセスを経た投資案件だと言えるでしょう。

もしくは、経産省が記載した「2018年2月に投資決定済だが、公表が5月だったため翌年度に業績評価を掲載した」なる記述が事実の誤りである可能性です。しかし、業績評価の公表もまた法律です。

果たして、巨額官民ファンドの国の監督が法遵守を軽んじるようなここまで怪しいもので良いのでしょうか?

黒塗り開示による情報隠し

法律の規定に反し年度を跨いだ後付けの業績評価に記載された支援決定と公表に強い疑いが生じているのですが、果たしてジャパンコンテンツファクトリーへの出資決定が行われたのは経産省が主張する2018年の2月なのか?、説明資料が示す3月なのか?

この事実を検証する方法は簡単です。経産大臣が法令の則って発出し、クールジャパン機構に通知した「大臣意見」の公文書の日付を確認すればいいだけの話です。

しかし、経産省は自分たちの説明の矛盾の検証に対して驚きの行動に出ます。

(3)株式会社海外需要開拓支援機構の支援決定について(通知)_Redacted(ドラッグされました)

(2)支援決定にあたっての意見照会について(株式会社海外需要開拓支援機構)_Redacted

このように、大臣意見に係る全ての公文書の文書番号と日付を黒塗り不開示とする処分を下しています。

この開示決定を受け、私は直ちに情報公開・個人情報保護審査会に審査請求しました。私がこの経産省の開示決定が不当だと主張する一番の理由は、経産省の過去のに行った開示決定の裁量との整合性になります。

その過去の事例とは、本書で扱うAll Nippon Entertainment Works(ANEW)です。ANEWとは産業革新機構(現 産業革新投資機構)が60億円の出資決定を行ったコンテンツファンドです。産業革新機構にも旧「産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法」という法律が規定されていて、クールジャパン機構の出資決定プロセスと同様、投資を決定する際に経産大臣が意見を述べることが定められています。

本書の表紙はその時の公文書を使用しているのですが、ご覧の通り、経産省は経産大臣意見の公文書において「文書番号」と「日付」を開示しています。

ですので、本来はこの文書の「文書番号」と「日付」を黒塗りにする「理由」はないはずです。

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ジャパンコンテンツファクトリーとANEWは、官民ファンド→コンテンツサブファンド、官民ファンド出資の構図としては基本同系同類の投資事案です。

もちろん、開示決定に適用される「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」も同じです。

しかし、国民が同系同類案件について情報公開請求を行った場合、経産省の裁量がその時々で変化していることになります。

このような過去の裁量との矛盾した疑わしい「日付」の黒塗りは、経産省による情報公開の裁量の逸脱と濫用が認められる極めて不当な不開示処分だというのが私が審査請求での主張です。

隠されていた内部決裁書

ジャパンコンテンツファクトリーに関する情報公開請求においては、内部決裁書が隠されていた事実も確認しています。

私は、ANEWの情報開示請求の際、情報公開・個人情報保護審査会に審査請求の過程で、当初開示してこなかった投資決定に係る大臣意見の内部決裁書が存在していたことを知りました。

情報公開・個人情報保護審査会の答申を受け、経産省があらたに開示された文書によると、官民ファンドの投資決定に係る経産大臣大臣意見とは、経産官僚があらかじめ複数の回答案が用意し、内部で決裁していたものでした。

経産省は、ジャパンコンテンツファクトリーにおいても内部決裁書を開示文書として特定していませんでした。

私は過去の経験から、経産省が今回も内部決裁書を隠しているのでは?と審査請求で訴えたところ、案の定、「特定すべき内部決裁書は存在した」、今になって内部決裁書が存在することを白状しています。

情報公開とは「国民がチャレンジし、バレなければ公開しなくてよい」という制度ではありません。情報公開・個人情報保護審査会においては、度重なる経産省の不都合の隠蔽工作のような不開示決定に対し、不当な隠蔽体質を是正し、誠実に今後の情報公開に努めるよう勧告することを求める意見も付け加えました。

「公」の意味を理解した組織の必要性

このように、クールジャパン機構が51億5000万円の出資決定を行ったつなぎ融資のためのコンテンツファンドですが、その運営体制の座組みは、公的フィルムファンドによる支援の公共性に相容れない利益相反メディア企業が含まれています。

さらに、このファンドを議論した政府会議の座長とファンド運営に関与する吉本興業の関係など、このフィルムファンドには吉本興業との強い繋がりが影を落としています。

中小制作会社の資金繰りを支援するという目的だけが公表されている裏で、この会社の前身には「株式会社コスモスインベストメント・マネジメント」なる吉本興業グループ役員が作った会社が存在し、その約半年後にはこの役員を代表とした「ジャパンコンテンツファクトリープロダクション」なる会社が、このファンドと同一住所に作られています。

一方で、法律で定められている国の監督においては、支援決定日、支援決定公表日など客観的な事実に反する事実が国民に報告され、その矛盾点を示す真相については日付と公文書番号を過去の裁量に反して黒塗り開示の処分を下し煙に巻く態度にでています。

公的フィルムファンドを、ジャパンコンテンツファクトリーに見られるメディア企業が仕切ったりするような国は、世界のどこを探しても日本しか存在しません。

それだけ、日本の映像産業行政は既得権益を肥やすことに未だ注力し続け、この国に 多様で豊かなクリエイティブの土壌を作る意思が欠けています。

日本には「公」の利益を理解した公的フィルムファンドと、それを運用する一元 化された真の公的映像産業支援組織が、同時に必要であると考えます。

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