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「法務」以前に「ビジネスマンとして」の伸び代がまだまだあるなと思った話〜法的三段論法から離れて、傘を手に取る〜

この度、第一法規さんにお声がけいただき、会社法務A2Z 9月号に「一人法務のサバイブ術」を寄稿させていただきました。今回のnoteはその中でも触れた話の続きというか、書いた話の裏話のような、深堀り話を書いてみようと思います。原稿もじっくり何度も編集の方にお付き合いいただいて作り上げたので、是非良かったら読んでください。

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その中で触れた「法務としての伸び」も大事だが、そもそも「ビジネスマンとしての伸び」に課題がある場合について、私なりに過去にその壁を一つ乗り越えたなと感じた出来事があったので、そちらについて書こうと思います。

「法的三段論法」にとらわれて、成長が止まった時期

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ざっくり一年前くらい、一人法務として「目の前にある問題のモグラ叩き」が終わりの目処が立ち自社の雛形等も把握でき、ある程度法務業務がルーティンで回るようになってきた時に、私が直面した課題が『事業部との思考のフレームワークが違う』という問題でした。(とはいえ、当時はそこまで的確に課題を把握できてなかったのですが...)

私は大学時代から法学部だったこともあり、その後のキャリアとしても割と法律事務所界隈にいたこともあり、いわゆる「法的三段論法」的な思考ががっちりと頭の中で固まっていたことで、かえって自分を苦しめることになります。

法的三段論法の丁寧な説明は調べていただくとして、一番有名な?例えを載せておきます。

大前提:すべての人間は死すべきものである
小前提:ソクラテスは人間である
結論:ゆえにソクラテスは死すべきものである

上の例のように、大前提となるルール(実際の仕事では法律等)があり、そこに事実を小前提として当てはめ、結論を導く。この思考の流れは、大学時代に法学部で徹底的に自分に叩き込んだものでもあり、社会人になってからも、営業から法律事務所に転職して以来はずっとこのフレームワークで給料をもらってきた訳です。

ただ、当然ながらこの思考は「大前提=ルールなり、規範なり」がある前提の思考です。そして、残念ながらビジネスの大半は「規範がなく、何が正解かを模索しながら進める」世界で、特に自社がベンチャー企業だったので、その「仮説を立ててLEANに進める」部分は重要視されていました。

狭義の「法務」の仕事をするだけであれば100点だった法的三段論法は、規範のないビジネスの世界においてはあまりに無力で。大前提がない世界で、何を持って思考をすれば良いのか。どういう思考をすれば、仮説を立てて、検証を重ねるような動きができるのか。

当時は「他のメンバーが当然に持っている思考のフレームワークを有していない」ということも気づかず、自分がビジネスに着いていけていないのはわかるけど、どういう勉強をしたら良いのかがわからない状態でした。その中で、「きっと法務としての能力が足りないんだ!」と思ってしまい、「法務の組織づくり」の本を読んだり、法務組織のマネージャーの方のインタビューを読んだりしたけど、解決せず。分からないから調べるけど、分からなくて、どんどん嫌な深みに入っていたなぁと、今振り返ると思います。

「空・雨・傘」との出会い

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そんな中、自助努力に限界を感じ、社内のメンバーに課題感を伝えたのですが、当時の私は「何が分からないか分からない」状態で、安直に知っている単語に飛びついて「ロジカルシンキングが分からない!」と社内に相談しまくっていました。

その上で、みんなが王道だという本を読んでみたり。

個別におすすめされた本を読んでみたり。

と試行錯誤してみたのですが、これらの本を読んでもいまいち「何を言っているのかが分からない」状態でした。いきなり知らない法律の判例を読んでるような、なんとなく言いたいことは分かるけど、まだそのレベルに達してないというか...そんなこといきなり言われても理解できないというか...。

ということで「ロジカルシンキングが分からない訳ではないけど、事業部のみんなの思考的なものについていけない...どうしよう...」とさらに悶々と悩んでいました。法務の先輩がいたら、もっとおすすめの本とか教えてくれたのかな...これが一人法務の限界かな...とか、うじうじしていました。

その時に、私の状況を見ていた財務のメンバーが「ロジカルシンキングに飛びつくんじゃなくて、もう少し手前の話からやってみたら?」ということでこの本を薦めてくれたのですが、これがもうドンピシャでした。

有名な「空・雨・傘」の考え方ですね。「空が曇っているから(事実)、雨が降りそうだし(解釈)、傘を持っていこう(行動)」事実・解釈・行動の3つを切り分けた上で、ちゃんとこの3つを揃えた主張をすると、ロジカルに整理できて伝わりやすいというものです。

当時の私はこのレベルも全くできておらず、自分では一丁前に法務ができているつもりでしたが、この本を読んだ結果として"法務としての役割も果たせてない"と感じました。

というのも、当時の私の仕事は「リスクがあります!」とだけ鳴る警報装置のようなもので、「何を持って」「どういうリスクがあって」「どう対処すべきなのか」も揃えられておらず。「何を持って」「どういうリスクがあって」の部分で法的三段論法はしっかり使えていても、「どう対処すべきか」が完全に抜け落ちていたし、場合によってはビジネスの全体像が見えていないから「何を持って」もはっきりしない状態でした。

「事業部のみんな、このままじゃ雨が降るぞ〜」みたいな感じでした。

今までは法務専任がいなかったこともあり、「雨が降るぞ〜」だけでも正確な天気予報として重宝されていたのですが、業務に慣れてきたことで、天気予報だけじゃ不十分な気がしていた私に、「傘」の部分が特にヒットしました。そっか、そこに一歩踏み出せば良いのかと、霧が晴れるような体験でした。

そこから、法務としての資料作りも、自分が会議で発言する際も、ひたすら「今3つのどこだ」を自問自答して繰り返すとこからやりました。一時期は、PCに「事実」「解釈」「行動」と書いた付箋を貼り、とっても原始的にそこを指差しながら話したり整理したりしていました。

なんだそんなシンプルな気づきかよ!と思われるかもしれませんが、法務の先輩がいない状況では「何のスキルが足りないのか」も自分で気づく必要があり、視野が狭くなったのを気づけない一人法務の弊害に陥っていたなと思います。加えて「自分が思っている以上に、社内のメンバーと比べて、自分のビジネス基礎力が低いかもしれない。当然知っておくべきことを、知らないのかもしれない。」とこの一件で気づけたことが大きく、その後上記の問題解決の全体観はかなり丁寧に読み込んで、その上でいわゆる「ベタな」本もこっそりと読み始めました。(この辺りとか↓)

そしてその後にメンバーから薦めてもらったロジカルシンキング等の本を読むと、ようやくそのレベルで言っていることがわかるようになり、薦めてもらった理由も分かりました。また、「OK/NGを知っている」だけではダメで、「どうすれば良いのか」までをしっかりと法務から提案することが、真の法務が提供できる価値だよなと。偉そうなこと言っておきながら、まだまだ全然事業法務をいい感じにできてないなぁと反省もしました。

今振り返ると、恐らく法務が社内で評価されて、自分でも"それなり"にやれていると思ってしまったことで、「さらに法務として伸びるには」みたいに視野が狭くなっていたんだと思います。あくまでビジネス基礎の土台があって、その上に特殊スキル的な能力として法務が乗るだけであって、土台がないのに建物を急いで建ててしまったことを反省しました。

でも、それを一人で気づくのは、とっても難しいと思う。。。ので、あえて「一人法務のサバイブ術」では、そこに触れてみました。

事業部と目線を合わせるには、同じものの見方をしなきゃいけない

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先輩方からすると「何当然のこと言ってんだ」だと思うのですが、当時は一人法務としてそれなりにやれていることで、法的三段論法でいうところの「大前提」をたくさん得るために法律書や法務の仕事術を読んでいて、そもそもの思考のフレームワーク自体をガラッと変える必要があることに気づきませんでした。

「同じ釜の飯」じゃないですが、どういう思考の仕方をしていて、それを得るためにどういう本を読んできて...みたいな部分を「法務だから」という謎のこだわりで弾かずに素直に聞き入れてよかったと思うし、"法務以外のスキルに伸び代がある"ということを教えてくれるメンバーが周りにいたことがすごく幸運だったと思います。

気づいて勉強してからは、正直めちゃくちゃ視界がひらけました。事業部への助言も伝わりやすくなったし、メンバーが話していることがスッと入ってくるようになるし、資料を見て何となく何をしようかが把握できる。最近も少し事業部側のヘルプに入って営業資料作ってみたり、壁打ち相手になったりしてますが、恐らく1年前とは違って明らかに「役に立っている」実感があるし、周囲のフィードバックを見てもその部分はちゃんと成長できているのかなと。

法務よ、法律書を捨てよ(一旦ね)

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それっぽいことを言いたかっただけで、一旦法律書から離れてみることも重要だな くらいのニュアンスです。

過去の私と同じ状況の人がいたら、今悩んでいることが「法務特有のスキルや知識不足ではないのでは?」ということは、常に疑って然るべきだということは、是非お伝えしたいし、私も自分自身に定期的に言い聞かせています。

もちろん、法律書はめっちゃ大事です。法務は「大前提」の知識がないと「結論」が出ない仕事だし、知らないものには気づけないため、知識がないとリスクを見落としてしまう。だから、法律知識をどんどんつけたくなって、勉強時間は全て法律書を読みたくなる気持ちはすごくわかるんです...が、同時に「顧客の知識」も必要だと思うんです。

前にも書いたかもしれないのですが、一人法務の私にとって、弊社の顧客は社員と、会社と、その先にいる自社のお客様。その3つの顧客の満足度をバランスよく最大限に伸ばしていくことが、私の目標です。

そう考えた時に、当然顧客を知らないと良いサービスは提供できない訳で。細かい条文や判例を拾うことと同じくらい、顧客と同じものを見て、学んで、思考のフレームワークを合わせることは重要だなと。土台の基礎力をしっかりさせて、良い建物(法務としてのスキル)を築いていく。どっちもバランスよく、知識をつけつつ能力を伸ばしていきたいなと、そう思い続けてそろそろ一年経ったので、今回noteに書いてました。

法律書を読む時間を減らすのは結構怖かったけど、あの時一歩踏み出して、本当に良かったなと今は思います。

ということで、原稿ではさらっと書いた一部分を、自分のエピソードも添えて深掘って書いてみました。ちなみに、それ以外にも一人法務になって最初に着手すべきことや、法務分野のおすすめ本、顧問の先生の活用法も書いているので、是非雑誌の原稿も良かったら読んでください!!

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今悩んでいる方にとって、少しでも参考になれば幸いです。

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