【映画の話】しあわせのパン

ちょっとダメな妻でいたい。
ちょっと手のかかる妻でいたい。
夫に、「ややこしい、けどしょうがないよなあ」って思っていてほしい。

そんな願望を、正直持っている。

仕事もして、家の中は片付いていて、料理も美味しくて、子どもたちを慈しんで、それでいて笑顔を絶やさない。
そんな「完璧」な妻になりたいと思ったこともあった気がする。

でも、それは画餅。

というか、それどころか本心では望んでいない。
つまり、完璧じゃなくて、夫の助けがないとダメな妻でいたい。

映画を見ると、ますますそう思ってしまう。
夫と手を繋ぎたくなる。
本当は一人でも生きていけるけれど、彼がいないと生きていけないと思っていてほしい。

そう言う映画が好き。

映画館は好きだけれど、自宅でAmazon Prime Videosもよく見る。
今回観たのは、「しあわせのパン」「きいろいゾウ」。

「しあわせのパン」

東京で生まれ育ち、疲れ果てて心に鍵をかけてしまったりえさんと、その夫の尚さん。
夫婦が洞爺湖のほとりで開いたカフェの美味しいパンやコーヒー、季節の料理と、そこへやってくるお客様の物語。

言葉はあまり多くなく、映像から察するように誘導されていく感じ。
好き苦手が分かれるかもしれないけれど、わたしは好き。

大泉洋さんと原田知世さんという組み合わせは意外だけれど、めちゃくちゃ合っていました。
劇中の原田知世さんのファッションも大好き。

りえさんは、「キレイ」なのだけれど、心の鍵を掛けてしまっているから少し硬い感じ。
それを無理やりこじ開けようとせず、ただじっと待ってくれる尚さんの暖かさ。
でも、「お願い」して北海道まで引っ越してしまうんだから、ある意味では強引さもあるのかもしれない。
りえさんがどうしても目立つけれど、尚さんあってのりえさんだなと思う。

何度も入ってくるパンを分け合うシーン。
「二人」という、人と人の繋がりの単位をとても大切に描いている映画なので、繋がるときにパンが割られて手渡される。
その割れ口から湯気が立ち昇るように見えて、いい香りを嗅いだ気がする。

本当の北海道はこんなんじゃない。
本当の田舎暮らしはこんなんじゃない。
なんてレビューもあるようだけれど、野暮だなぁと思ってしまう。
ど田舎出身のわたし。
最近は地元に帰ると、あんなおしゃれ田舎ライフをしている人も結構いる。

それに、そもそも田舎暮らしの大変さを描く映画ではない。
これまでの生活を捨てても「好きな人=妻」の心を守りたい夫と、「無理して笑って」いる妻と、「人との繋がり」の話だから。

3組の客は、家族の始まり、成長、終焉を描いているのかな、とふと思った。
若くて、傷つきやすくて、殻の厚い、でもエネルギーに満ちた時期。
夫婦が家族となって、摩擦や疲れ、形を変えていく時期。
それから、再び夫婦の単位に家族が戻って、終のときを臨む時期。
それに触れることで、りえさんは自分の「家族」を見つめて、心の鍵を開く準備をしたのだろう。

途中までのりえさんは、穏やかで本当にきれい。
けれど透明感どころか、本当に透明になっちゃうんじゃないかと言うほど、儚さがある。
それが、あるシーンから明らかに地に足がついて、体に魂が入ったようになる。
その姿が、とてもチャーミング。

洞爺湖の季節ごとの風景もとてつもなく美しいし、緑の草原を観ているだけでも心穏やかになる。


わたしはいつか、また、きっと観てしまう。
そしてカンパーニュが食べたい!


長くなったので、「きいろいゾウ」はまた今度。


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