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〜服と綿をつくる〜 「yohaku」渡辺さんと「KITEN」酒井さん対談 【後編】

自然素材と再生を大事にした服作りを続ける「yohaku」代表の渡辺展行さんと、全国でも珍しい、国内で和綿を生産している「KITEN」代表の酒井悠太さんのお二人に、服をつくること、綿をつくることについてお話を伺いました。


綿の種蒔き休憩中の渡辺さん(左)と酒井さん(右)

この仕事を、「一生やろう」と腰を据えるまで

渡辺:実は綿でビジネスをやってる人って日本にほとんどいないんですよ。僕みたいに他に本業があって副業でやる人はいるけれど。散々話して来た通り、リスクに対して採算が取れないはずなので、そんな綿をやっている酒井さんは相当クレイジーだと思っています(笑)

酒井:綿花で生計を立てていく大変さを知らなかったから続けてこれたのかもしれないです(笑)僕は福島から一回も外に出たことがなく、地元で何か始められないかと探していた時に、タイミング良く出会ったのがコットンだったんです。

これまで、友人たちが目標を決めて都会に出ていくのを見ていて、すごくコンプレックスを感じていました。僕はずっと自分の将来のことが決まらなかったので。けど、生まれ育った街で、何もないと嘆くのではなく新しいことを始める、というのが実は大事なんじゃないかとも思っていました。東日本大震災を経験したことも大きな後押しになっています。僕にとっては、あの震災で良いことも悪いことも含めて状況が変わり、今ではこれまでの全てに感謝できるようになりました。

渡辺:うちの会社にちょこちょこ大学生が来るんですが、環境系の仕事をやりたいと言っています。彼らは震災の時に小中学生くらいだった世代で、言葉で理解できないけどすごい大きなショックを受けて、何かを変えなきゃいけないという意識ができたのではと思っています。20-30代の人も震災を転機に地元で仕事をし始めた人が増えてますよね。そういう人たちが次の社会に向けて何か変えていくのではと思っています。酒井さんみたいな仕事をしている人たちがいることを、若い世代が知っていけると良い。

KITENのオーガニックコットンブランドSIOMEの手ぬぐい

酒井:僕がこの仕事に携わるようになったのは、「ふくしまオーガニックコットンプロジェクト」があったからなのですが、決して順風満帆とは言えず、いつまでこの仕事を続けられるんだろうかと悩んだこともありました。同時期に、研修で徳島に行き、ちょうど同世代の藍染めの染め師の方とお話する機会があったんです。インディゴ染料が普及したことによって、昔と比べて藍産業もだんだん縮小していってるけれど、藍染めは日本が誇る伝統工芸だから世界に発信していきたい、地元徳島への想いをすごく熱く語ってくれました。僕はぼんやりと「綿花の仕事で食べていけたらいいなー」と考えていただけなので、自分の仕事に心血注いでる彼と比べて自分が恥ずかしくなってしまって。そこで、この仕事を一生やっていくぞ、と覚悟が決まりました。

先進国の人たちが、畑仕事に感じる価値

酒井:「KITEN」のホームページのトップ画像は、ブリヂストンのみなさんが復興ボランティア活動で綿花畑に手伝いに来て下さった時の写真です。ブリヂストン以外にも、これまでたくさんの企業ボランティアの方々に畑作業に協力していただき、毎年少しずつ仲間が増えてきました。地元農家さんとのコミュニティが生まれたりして、今ではみなさんそれぞれにいわきに来る楽しみを見出してくれています。

KITENホームページのトップページ画像


渡辺:僕も綿の種を色んな人に配ってるんですけど、結構畑で綿育てたいって人が多いんですよ。畑仕事なんて本来は労働のはずなのに、それを嬉しそうにやりたいというのは先進国ならではの感覚なのかなと思いました。

酒井さんの畑に行くと、一銭ももらえないのに大人がみんなで畑仕事やって嬉しそうに汗かいてるじゃないですか。そこには何かお金じゃない世界の豊かさがありますよね。きちんと体つかって、風があって汗かいて。

日本だといま生活が便利になりすぎて、体感が麻痺して機能不全を起こしている気がしてるんですが、畑仕事で人間本来の部分というか、野性的な部分を取り戻してると感じられるんじゃないでしょうか。自分の父親がリタイアして80歳で畑仕事をしてるんですが、自分も綿畑を始めたことで、これは一生続けられるな、と夢が広がっています(笑)綿畑をビジネスとして成り立たせようと4年くらいずっと考えてても無理だったのですが、いまはビジネス抜きにしてもプロセスを味わいたいと思っている最中で。

正しく現場の話を理解してくれる、仲間を増やすこと

酒井:これからは、仲間や味方を増やしたいという意識がないと続けられないと思っています。僕が2012年にふくしまオーガニックコットンプロジェクトに参加した頃は、オーガニックコットンって日本ではそこまで認知されていなかった記憶があります。10年後にはきちんと意義が伝わって、プロジェクトがやってきた事が評価される時代がくると予想してたのですが、ちょっと違った方向にいっちゃった。“オーガニック”ってファッションワードの一つになっちゃいましたよね。昨今では認証不正も起きたりして、実際のオーガニックコットンは製品中の数%しか含まれてないという商品があることも聞きます。けど、消費者にとってみれば、その詳細はあまり重要ではなかったりします。

評価は賞賛ではなく、こうして渡辺さんが福島に来てくれたように、現場の話を正しく理解してくれる仲間を増やしていくことなんだと思っています。入り口は何だって良いんです。運動不足だから身体を動かしたい!とか、作業は自信ないけど生産現場は見たい!とか。

印象的なのは、これまでいくつかアパレルブランドさんとご一緒するお仕事がありましたが、栽培作業に参加して関係性を作ってきた企業さんは、僕らの割高の原材料を買い叩くことは一切せず、正規の対価でお取引していただきました。出来上がった物のやり取りだけではなく、物の背景にある“人の循環”を想像できる付き合いが増えると嬉しいです。どういう人たちが製造していて、どういう人たちが暮らしに物を取り込むのかに思いを馳せられないと、余白さんの商品とか福島の綿とか選ばないですよね。

ゴールはなく、循環を繰り返していく

渡辺:この活動ってゴールがなくて、それが良いと思っています。ただぐるぐる回していく。どうしてもすぐミッションとかゴールと考えがちなんですが、着地がないんですよ、回り続けるから。

酒井:2人で作戦会議してたときに「これ来年もやりたいんです」って言われて、思わず「あっ」てなりました(笑)そっか、綿のものづくりは農業だから繰り返していくんだと。

渡辺さんと話をしてると、自分も奮起させられることが多いです。絶えずものづくりに意義を模索し続けているというのは目標とする姿です。売れずに困っている時期を経験してしまうと利益先行に走ってしまいがちなのですが、落ち着いて一歩立ち止まってみること。改めて、ビジネス度外視で始めてみたら、何か生まれるんじゃないか?そうやって行動していた頃を思い出しました。このご時世で焦ってしまいがちでしたが、渡辺さんに引き戻してもらえました。

渡辺:大事にしたい事と、ビジネスとは、矛盾を抱えながらやっていくしかないですよね。規模が大きくなればなるほどビジネス的になってしまうけれど、そこを自分たちでどう規制していくか。難しいけど、でもやらないよりはやった方が良い。

酒井:ビジネスに走りすぎない、渡辺さんのテンションが心地良いです。こうでなければならない、ではなく、とりあえずなるようにやってみましょう、というのが。本業の余暇の部分でやっていくというのが合わせやすくて僕もご一緒できています。

渡辺:自分たちの畑で綿を育てる人も、収穫したは良いけどどうすればわからないので僕のところに持って来て、それを集めて服にするというのも考えています。自分が会社と個人の狭間でやってることがゆるやかにKITENさんに戻っていったら面白いなと思います。


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