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ブックガイド「『小さいおうち』を読んでくれる読者に、さらに楽しんでもらうための本」/作家・中島京子

この連載では、飯田橋文学会のメンバーがテーマごとに必読書をご紹介していきます。今回は、作家・中島京子が「『小さいおうち』を読んでくれる読者に、さらに楽しんでもらうための本」をテーマに5冊オススメの本をご紹介します。

『小さいおうち』を読んでくれる読者に、さらに楽しんでもらうための本

『小さいおうち』はわたしの代表作ですが、この本にはたくさんの先行作品が隠れています。はっきり引用したものもあれば、参考にしたり、インスピレーションをもらったり。以下に挙げる以外にもいっぱいあるのですが、文庫になっていて比較的手に入りやすいものを選びました。どこを参考にしたのか、探してみてくださいね~。(中島京子)


『ろまん燈籠』太宰 治

昭和16年から19年、ちょうど、太平洋戦争の時期の太宰の作品を集めた短編集です。日米開戦の日を主婦の目で描く「十二月八日」は、戦争が始まってもどこかピンと来ていない、当時の普通の人々の呑気さをすくい上げる秀逸な掌編です。


『欲しがりません勝つまでは』田辺 聖子

こちらは、田辺聖子さんが自分の少女時代を回想したノンフィクション。軍国少女だった聖子さんの思い出が、ときにシビアに、ときにユーモラスにつづられます。こちらも、普通の人々がどんなふうに非常時を過ごしていたかが、とてもよくわかるユニークな一冊。


『幻の朱い実』石井 桃子

石井桃子さんの自伝的小説です。戦前のモガのおしゃれな生活ぶりがわかります。東京の出版社に勤めるモダンガールが、お買い物をしたり洋食を食べたりする描写が魅力的です。女同士の繊細かつ微妙な関係も描かれる、スリリングな小説でもあります。


『細雪』谷崎潤一郎

読みだすと止まらない、言わずと知れた名作ですね。戦争中の話なのに、着物だ花見だと、そんな話ばかりなのも面白いのですが、なんといってもこの四姉妹、すごくヘンです。というか、谷崎、やっぱりすごくヘンです。騙されたと思って読んでください。ハマります。


『小さいおうち』中島京子

昭和10年に東京郊外に建った和洋折衷住宅。女中として働いたタキが晩年、その懐かしい日々を回想するという形式の小説です。でも、最後の一章には少し仕掛けがあります。奥様とタキの関係に注目して読んでもらうと、映画と小説の違いが立ち上がってくるかも。

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中島京子

1964年東京生まれ。東京女子大学史学科卒業ののち、雑誌編集者、フリーライターを経て、2003年、田山花袋の『蒲団』を題材にした小説『FUTON』でデビュー。2010年『小さいおうち』で第143回直木三十五賞受賞。2014年『妻が椎茸だったころ』で泉鏡花文学賞、2015年『かたづの!』で河合隼雄物語賞・柴田錬三郎賞・歴史時代作家クラブ作品賞、同年『長いお別れ』で中央公論文芸賞を受賞。おもな著書に『イトウの恋』『平成大家族』『宇宙エンジン』などがある。最新作は『彼女に関する十二章』。