Alice in the sand box. 第一幕

はじめに

この小説は自作脚本の「Alice in the sand box」のセルフノベライズです、興味ある方はこちらもどうぞ

プロローグ

眼を開けると、そこは闇の中だった。

「どうして?」

深く、どこまでも深く、暗い闇。

聞き覚えのある声が、私の頭のうちに響く。

「どうして、何も言わないの?」

答えられない。答えることができなかった。

私には何を言う資格もないのだ。

「そっか、何も答えてくれないんだね、そうやって私からいつまでもも逃げ続けるわけだ。」

私は何も言わない。私は何も言えない

「さようなら、有栖。」

あたりの闇が、より一層深くなったような気がした。


第一幕 Dive into The box

バンっ、という衝撃で目が覚めた。

眼を上げると、そこには現代文の先生が立っていた。

「あはは…おはようございます…?」

「もうとっくに授業も終わる時間だが?」

「すみません…」

先生があきらめたような顔をして深いため息をつくと、ちょうど、チャイムの音が鳴り響いた。

どうやら本当に授業終了ぎりぎりに起こされたようだ。

「それでは、本日の授業はこれまで、各自来週までに『不思議の国のアリス』の感想文を書いてくること。」

そう言い残し、先生は教室を去った。

『不思議の国のアリス』と聞いて、何かが引っかかるような気がしたが、なんだか思い出せない。

「…まあ、いいか。」

難しいことは考えないに限るのだ。

これまでもそうやって生きてきたし、それで大概のことは何とかなってきたのだから。

大きく一つあくびをして、窓の外を眺める。

どうやらもうすぐ雨が降り出しそうだ。帰りまでにはやんでると良いのだけど。

そんなことを考えていると、背後で小さな物音が、しかしやけにはっきりと耳に届いた。

振り返るとそこには両手に収まる程度の小さな箱が転がっていた。

「なんだろう、これ。」

拾い上げてまじまじと見てみる。それは磨きたての歯みたいに真っ白で、一つの汚れもなかった。

それ自身で完結しているようで、箱の外部のありとあらゆるものを排除しようとしているように見えた。

誰かのプレゼントか何かだろうか。それにしてはやや質素すぎる気もする。

私はそっと周囲を見渡して、これの落とし主を探したが、それらしき人物は見つからなかった。

だとすれば、だれかの机から落ちたりしたのだろうか。

「…たまたま落ちてただけだし…もしかしたら、落とし主もわかるかもしれないし…」

私の好奇心はすでに抑えられないところまで来ていた。

もう一度周囲を見渡し、だれも見ていないことを確認する。

「…よし」

私は、ゆっくりと、割れ物に触るように慎重に、箱のふたと思しき部分に触た。

そして私は、好奇心の促すままにその箱を開けた。

私は箱を開けてしまったのだ

そして次の瞬間、私の体は虚空に投げ出され、重力に従うまま自由落下を開始していた。

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