ちょっとだけ生物学っぽく考えてみるポケモン

諸注意

 当記事はポケットモンスタースカーレット・バイオレットの内容を含みます。ストーリーを主題とした記事ではありませんが、一部内容について言及する箇所があります。また特別な注釈がない限り、ポケットモンスタースカーレット・バイオレット内の情報を基にして記述を行っております。過去作の情報と矛盾する考察を行ってしまう可能性があることをご了承ください。

前書き

 今作のポケモンは、生物学的な背景を多分に意識しているように思う。例えば、発売前のWEBコンテンツである「世界ポケモン生態学会」。今作の舞台であるパルデア地方に暮らすポケモンについて、研究者であるジニア先生(の助手)が発表を行う形を取っている。さらにこのコンテンツで姿を見せたウミディグダは「ディグダに似ているが、実は全く別のポケモン」と紹介され、世間を騒がせた。別の時間に生きるポケモンがエリアゼロから放出されるのを阻止するのも、パルデア地方の生態系破壊を危惧したからであった。
 そこで今回の記事では、ポケモンに含まれる生物学的要素を紹介・解説する。生物学的な考察というよりも、ふんわりと紹介する形を取りたい。そのため学術的な正確さよりも、なんとなくの分かりやすさや面白さやノリを重点に置いて記述を行う。生物学に明るい方は温かい目で見守って頂きたい。

ポケモンと「種」

 「種」というのは、生き物を分類する際の基本単位である。身の回りの生き物を考えたとき(基本的には)種ごとに名前が付けられている。例としてはヒト・ニホンザル・スズメ・オニヤンマなどが挙げられる。細かな名前が思い浮かぶ生き物ひとつひとつと捉えればよい。基本的にはと注を入れたのは、一般的な呼び名が一つの種ではなく複数の種の集まりを指すことがあるからである。広く使われている名前がたった一つの種ではなく、実は総称であった……ということもあるため、もしも興味が湧いた場合は調べてみて欲しい。

 種はどのように決められているのだろうか。姿かたちが全く違う生物同士が別の種であることは間違いないが、似ている生物同士を区別する基準はなんだろう。種を区別して名前を付けているのは、もちろん人間である。なにが別の種でなにが同じ種かを決めているのも人間である。なにを基準とするかはとても難しい問題で、揉めごとが起こりがちなのだ。
 最も有名な基準は、「お互いに子供を作ることができ、かつ他の集団と子供を作ることができない集団」を種とするものである。ヒトとチンパンジーで例を考える。日本に住んでいる人と北極に住んでいる人が交配した場合、問題なく子供を作ることができる。このとき、日本に住んでいる人と北極に住んでいる人は同種、ヒトであると言える。しかし、人とチンパンジーが交配を試みたとしても、子供はできない。そのため、ヒトとチンパンジーは別種であると言える。

 さて、ここでポケモンの場合を考えてみよう。図鑑を見るとわかるように、ポケモンの世界でもひとつひとつのポケモンに決まった名前が与えられている。それぞれに番号と○○ポケモンというぶんるいが分け振られているため、ポケモン世界の住人が分類を行う際には我々に馴染み深い名前を単位としていることがわかる。ピカチュウ・ポッポなどといった名前による分け方は我々の世界で言う種に相当することがわかる。
 しかし、ポケモン世界には「タマゴグループ」が存在する。タマゴグループが同じポケモン同士で雌雄を揃えれば、メス側と同じ名前のポケモンが生まれてしまうのだ。先述の通り、我々の世界では子供が作れるもの同士は同種なのである。この基準から見ればイーブイとイワンコは同種である。二つタマゴグループを持つものは片方さえ合致すればタマゴが作れるため、パピモッチとセグレイブも同種ということになってしまう。ほんまか?
 ポケモンの種――名付けは何を基準として行われているのだろう。第一に、間違いなく形態(=外見、姿かたち)を基準にして名前を付けている。ぱっと見て知らない姿のポケモンは新種として名前を付けているのだろう。ただし、形態だけを基準としていると断定するには問題がある。リージョンフォームである。
 

一部のポケモンは、アローラ地方独自の自然環境にあわせて、ほかの地方と異なる姿をしている。そういった姿が異なるポケモンは「リージョンフォーム」と呼ばれているのです。

ふしぎ!?ポケモンすがた図鑑

 リージョンフォームは姿かたちが違うのにも関わらず、同種として扱われている。似ているものは多少違っても同種扱いなのだろうか。しかし、ディグダとウミディグダははっきりと別種として記述されている。このことから、少なくともポケモン世界の研究者たちは形態の違いに加えて「交配させてタマゴができるかどうか」ということも種の基準として考慮していることが推測できる。メス親と同種のポケモンが子として生まれることを前提としたうえで、リージョンフォームのポケモンと既知の姿のポケモンを交配させたときにどちらの姿のポケモンが生まれるか。また、かわらずの石を持たせたときにその地方で見られない姿の子が得られるかということについても検証を行った上で「別種である」「同種である」ということを判断しているのではないだろうか。我々の世界の研究者と同様に、新種と思わしきポケモンが発見された際には既知のポケモンとの形態的差異や交配実験の結果を別種である証拠としてまとめて、論文として発表しているのかもしれない。

わざと遺伝子

 技はレベルや技マシンで生まれたあとで覚えるものに加えて、親から子に引き継がれて生まれた瞬間から覚えているものが存在する。タマゴから生まれてきた子が親と同じ技を覚えている場合があるというのは、プレイヤーの中でもポケモン世界の住人の中でも周知の事実であろう。
 つまり、技は遺伝子に記述されているのだ。そのポケモンごとに覚えられる技は全て生まれたときから遺伝子の中に遺伝情報として存在していると考えることができる。ポケモンが生まれたときには、無数のスイッチが「オフ」の状態で保持していると想像して欲しい。レベルが上がることや技マシンによって、そのスイッチが一つずつ「オン」になることで技を使うことができる状態になる。技を忘れるということは、そのスイッチを再び「オフ」にしていると考えれば想像しやすい。

 今作は「ものまねハーブ」による技の受け渡しが可能になった。技が遺伝子に記述されているという前提のもと考えると、ものまねハーブを持たせた状態でキャンプをするだけで技が覚えられるというのは違和感があるように思われる。しかし、我々の世界でも遺伝子が突拍子もなく移動して伝わる例が発見されているのだ。これを遺伝子の水平伝播という。身近な例を挙げるのは難しいが、例えばヒトの遺伝子の中にはウイルスから伝わった遺伝子が含まれている。このようにものまねハーブはただ便利なだけでなく、多少なりとも生物学的なバックグラウンドを持つ仕組みになっているのだ。

ポケモンと「進化」

 我々の世界でいう「進化」とは、世代を経ることによって性質が変化することを言う。ポケモンの世界では、どうやら二つの「進化」があるようだ。一つは、ピカチュウがライチュウになるといったポケモン世界特有の進化である。これに加えてほかの地方からやってきて環境に適応したとあることから、我々の世界での「進化」と同じような現象が起きていることが推測できる。これは、時間の流れとともにコライドン-モトトカゲ-ミライドンと姿を変えたことが確定したことからもわかる。

 ディグダとウミディグダが似ているのも、我々の世界と同じ「進化」の結果である。ディグダとウミディグダは全く関わりのない別のポケモンにも関わらず、世代を経て変化していった結果似てしまったのである。この現象を「収斂(しゅうれん)進化」または「収束進化」という。我々の世界でも見られる面白い現象である。例としてモモンガとフクロモモンガを挙げる。この二つの生物は、どちらも飛膜を使って滑空することが知られている。顔も非常に似ていて、とても可愛らしい。大きく違うところといえば、フクロモモンガには子を育てるための袋を持つことである。とても似ているモモンガとフクロモモンガではあるが、これらは全く別の種である。親戚とすら言い難い、赤の他人同士である。モモンガはリスの仲間で、フクロモモンガはカンガルーの仲間なのだ。
 ディグダとウミディグダの話へ戻ろう。ぶんるいを確認すると、ディグダはもぐらポケモン、ウミディグダはあなごポケモンである。ゲーム内では土の上へと頭を出した姿が主だが、実際には地中や浅い海底で暮らしているものと思われる。両者に共通するのは、土の中で生活しているということである。土の中へは光が届きにくいため、視覚以外の感覚で敵や餌を認識する必要がある。土の中でも水の中でも、においは受け取ることができる。そこで、両者は嗅覚によって周囲を認識するようになったのだろう。実際、モグラは左右の鼻孔で受容したにおいのわずかな違いを立体的に処理することによって餌を見つけたり、敵を避けたりしている(参考)。魚類は一部の物質を高感度で受容する嗅覚器が発達している(参考)。これらが、ディグダとウミディグダにおいて大きな鼻として表れたのだ。この二つのポケモンが似たのは、生育環境の一部が似通っていたからであると言える。

おわりに

 ポケモンの世界観は一貫して確固としたものではなく、作品が増えるにつれて少しずつ付け加えられたり、変化しているのだろう。そんな中で、最新作であるポケットモンスタースカーレット・バイオレットで生物学的なバックグラウンドを持つ情報やシステムが追加されたことは、これからのポケモンが更に生物学的な実在性を増していくことの表れではないかと思う。筆者個人としては、フィクションはフィクションとして全く実例のないものでも全く構わないと思う。それはそれとして、この世界の知識や学問で説明を考えてみるのも面白い作業なのだ。
 この記事では種、遺伝子、進化という三つのトピックについて記述を行った。今回は時間的な問題で取り上げなかったが、分布についても検討を行いたいと思っている。

記事を書くにあたって

 今回の記事はMastodonのインスタンス(サーバー)ポケマス内の企画、Pokemon Advent Calendar 2022に向けて作成したものです。

 ポケマス関係者以外の方に向けて少し宣伝させてください。ポケマスは、ポケモンに関する話題が中心のマストドンサーバーです。マストドンはあまり知らないなという方がいらっしゃったら、少し開放的で通話機能のないDiscordサーバーみたいなのをイメージすると良いかもしれません。Twitter以外でポケモンについてお話しできるコミュニティを探している方、ポケマスに登録してみませんか。非常に穏やかなサーバーで、新しく入っても馴染みやすいかと思います。
 筆者もそれほど長くいるわけではないのですが、とても楽しく過ごさせて頂いております。サーバーの皆様、いつもありがとうございます。これからもよろしくお願いいたします。

筆者について

るびすこ(@Altaria_334_)と申します。Twitterの方もフォローして頂けたら嬉しいです。
SVでポケモンゲーム本編に復帰しました。とても楽しいです。買ってよかった。ペパー戦のBGM死ぬほど良くないですか? あれだけでも買った価値があったと感じるくらい好きです。サウンドトラック買って無限に聞きたい……。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?