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棄てられちまった子供たちが暗い穴から這い上がる朝

棄てられちまった子供たちが暗い穴から這い上がる朝。
太陽の光線は針のように肌に刺さる。
大人たちは疲れ切っていた。
子供を棄てたことがいつも心に澱を滲ませた。
夜明けまで静かに飲み続け、瓶を落とす音で目を覚ました。

今日帰ってくる子供たちのために部屋を掃除したり料理をするがどれも色彩は伴わず喜びはなかった。
むしろ穴の中で死んでいてくれた方がいいとさえ思えてきた。
足音が、怒りと野生の足音が聞こえてくるようだ。
果物を木からもぐ音。唾を吐く音。穴の中だけの言語で言い合う声。
その全てが自分を責めたてた。

いっそのこと家を捨てて故郷を捨てて知らない土地で知らない名前で…。
風が家を揺らすたびに知らない町の情景は切り替わり、幸福な家庭を持つ幻想を抱いた。

あの日、あの子はオリーブの枝の向こうからこちらを見つめていた。
茶色味がかったガラスの目玉でわたしを射抜くように。
わかっていたんだ。棄てられることも、愛されなくなることも。
寂しい風が転がる渇いた土地をあの子を背負って歩いた。
いろんな質問をしてきた。わからないことばかり聞いてくるから、その度に足を止めた。
わざとだとわかっていた。でも、それさえ無視すれば本当にわたしはわたしを見失うことになると思っていた。
でも、あの子を穴に放った瞬間からこころは失われていた。

遠くでわたしの名前を呼ぶ声がする。
怒りの歌を携えて、地面を踏み抜くようにこちらへ向かってくる音。
今度は本当だ。おかしくなったわけじゃない。

生まれてきた時は本当に嬉しかった。
太陽がそのまま生まれてきたような朝だった。
色とりどりの紙ふぶきを散らして歌や楽器の演奏であなたを迎えた。
夜明けまで顔を見つめ続けて、名前を決めた。
柔らかい太陽がのぼりあなたの顔を照らしたとき涙が止まらなかったんだ。

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