見出し画像

祈りのかたち

一億の渡り鳥が飛び立つ
それを撃つ 貧しい鳥打ちは思い出していた
かつて家族があり 温かなスープに舌を潜らせたこと

ちょうど同じ頃 肥えた老人がプールに飛び込んだ
死への恐怖を打ち払うために眠るロブスターの速度で泳ぎ続ける
賑やかな季節がやってきたのを肌で感じていた

そう、季節は夏
太陽を売ろうとセールスマンは扉をノックし続ける
男は何故か確信めいたものを持っていて
時々彼の話を真剣に聴く者もいた

うたはどうだろう 女は昼間の路上で向かい側に眠る盲者のために歌っていた
稼いだ分だけ彼に与えるためだ
思い出をその場で編み合わせて歌っていた
そして歌った思い出のことは二度と口しなかった

日が暮れるといつものように巨大な本が1ページめくられた
そこには人類が銃と病と鉄に翻弄された歴史が書かれている
すべてを読むには一生では間に合わないため
老人が幼子に自分が読んできた部分を語って聞かせた

暗くなると夜盗たちはぞろぞろと町へ繰り出した
すべてのものを盗み切ったと語る者もいれば
まだ新品のナイフを使ってみたいと思う者もいた
彼らは盗みを働くと金貨をすべて深い穴に落とした
いつかいっぱいになった時この世界を掴めるほどの富が手に入ると信じていた
穴の底には生まれた頃からここで暮らす男がいて
毎晩降ってくる金貨に埋もれないために穴を掘り続けていた

やがてスープにありつけた貧しい鳥打ちも
溺れて死んだ肥えた老人も
太陽を売ることができたセールスマンも
もう歌える思い出がひとつもなくなった女も
嵐の中ですべてのページがめくられ最後に「あなたは許された」と書かれてあった巨大な本も
今まさに穴に降りていく疑り深い夜盗とその気配を感じて何を話そうか考えている穴の底の男も

すべてが異なった形の祈り方でこの世界を信じていた
そして夜が明けるときの目が眩むほどの光を浴びて日々は繰り返される
今この瞬間にも

してもらえるとすごく嬉しいです!映画や本を読んで漫画の肥やしにします。