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MIC?の数値から抗菌薬の有効性の判断・投与設計へ~最適治療抗菌薬の選び方④

本日は、最適な抗菌薬選択に関するお話の続きです。

患者さんの検体を細菌検査に提出し、特定の菌種が原因菌(症例由来菌株)が培養される。

培養された原因菌(症例由来菌株)に対して、抗菌薬感受性検査を実施する。

原因菌(症例由来菌株)の特定の薬剤に対する最小発育阻止濃度っぽいもの(いわゆるMICっぽい数値ここでは”MIC?”で表現します)が得られます。

ここまでのMICの数値の意味合いについては、「MIC?(最小発育阻止濃度)の”ような”数値の解釈~あなたはわかりますか?」をご参照ください。

今回は、この薬剤感受性検査でえられた、”MIC?”の数値を抗菌薬選択に活かすためのお話です。

それでは始めます。

症例:40代 女性 「2つの感染症診断」は以下のとおり。
・臓器・解剖学的診断:菌血症
・微生物学的診断:大腸菌 Escherichia coli

上記症例の血液培養から下記スライドの薬剤感受性の「大腸菌」が検出されました!

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この結果から、血液培養から検出された原因菌である「大腸菌」に対してセファゾリンCEZが選択可能であるかを考えましょう。

モンダイ:この患者さんの菌血症に対して、CEZセファゾリンは「効く」のでしょうか?

回答者:血液培養から検出された大腸菌株のセファゾリンに対る”MIC?”

「CEZ <= 2」

だから、CEZ 2μg/mL以下のどこかに「真のMICの値」が存在するんでしたよね?

こんなに低い数値なら、当然「効く」と「予想」されるんじゃないですか?

そうですね。効きそうな気がしますね。

でも、抗菌薬選択は、菌血症の患者さんの命に関わる可能性のある重要な臨床判断ですよね?

ですから、「効きそう・・・」ではなく、自信を持って「有効!」と予想可能な薬剤を選択したいものです。

回答者:そうですよね。でも、感受性の判定結果である、
・S:susceptible
・I:intermediate
・R:resistant

が記載されていないから、「イジワル」ですよね~

まあまあそう言わずに、もう少し考えてみましょう。

ところで、読者の皆様は、細菌検査結果の薬剤感受性結果に記載がある”S"ってどういう内容を表しているかご存知ですか?

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上記スライドを説明します。

まず①特定の抗菌薬:今回提示の例では「CEZセファゾリン

②特定の部位の感染症:菌血症

ここまではよろしいでしょうか?

推奨されている投与量で①特定の抗菌薬(ここではCEZ)を使用された場合に、・・・?

読者の皆様、「推奨されている投与量」・・・って、はたして

「誰が」推奨したもの

なんでしょうか?ひっかかりますよね?

通常達成可能な濃度:薬剤感受性結果の数値(”MIC?")は、抗菌薬濃度(μg/mL)ですので、これは理解しやすい内容かと思います。


尿路のように、抗菌薬の排泄経路となっている部位は、他の部位よりも
「達成可能な濃度」が高くなりそうなことも予想がつきますよね?

原因菌株の増殖が抑制:原因菌が増殖することが抑制される~これ以上増えない~ということですね。

どうでしょうか?薬剤感受性判定結果”S"の概要は把握できましたか?

では、この判定基準~誰が作成しているものなのでしょうか?

日本の多くの医療機関で、抗菌薬が感受性”S"かどうかの判定に使用している基準を作成しているのが、”CLSI”という米国に拠点を持つ組織なのです。

CLSIに、沢山の専門家が集い、「特定の菌種」「特定の感染症病態」に対して、「特定の抗菌薬」が有効性を発揮するためのMIC値、

・ブレイクポイントMIC:Sの判定の基準のMIC値

を決定しているのですね。

ここで、さきほどの疑問に戻ります。

「③推奨されている投与量で(①特定の抗菌薬:ここではCEZ)を使用された場合に、・・・?」

ここまでお付き合いいただいた、読者の皆様には、「『誰が』推奨したもの」か?わかりましたよね?

こたえ:CLSIのブレイクポイントMIC値を決定されている人々

ということになります。

そろそろ本題に戻ります。

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では、この大腸菌菌血症患者さんに、CEZセファゾリンは「有効」なのでしょうか?

CLSIの判定基準を参照すると

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本菌血症の原因菌株大腸菌のCEZに対するMIC?は

  CEZ <= 2 (≦2)

でしたね?CLSIのブレイクポイント判定基準に当てはめると、

≦2は”S"ですので、感受性ありと判定できそうです。

よかったですね?

じゃあ、セファゾリンの添付文書を見て・・・

「セファゾリンとして,通常, 1 日量成人には 1 g(力価),小児には
体重kg当り20~40mg(力価)を 2 回に分けて緩徐に静脈内へ注射
するが,筋肉内へ注射することもできる。」
(注射用「セファゾリンナトリウム」添付文書より)

ちょっとまった!

③推奨されている投与量

を忘れていませんか?

CLSI M100 ED-29では、大腸菌菌血症(非複雑性尿路感染症以外)に対するセファゾリンCEZの投与量は以下のように記載されています。

このブレイクポイント判定基準は、CEZセファゾリンを1回2g、8時間毎に投与された場合(に達成可能な濃度)に基づいて作成されています
(成人、腎機能正常の場合)

ですから、このCLSIの判定基準を用いて、感受性”S"と判定された場合に、CEZセファゾリンを最適な抗菌薬として処方する場合には、上記投与設計が必要となるのですね!


本日のモンダイ

この患者さんの菌血症に対して、CEZセファゾリンは「効く」のでしょうか?

こたえ:CLSIの判定基準からは”S"感受性:効くことが予想される!

では、冒頭のスライドのモンダイ

誰が決めた基準で「有効」と判断しているのか?

こたえ:日本の多くの医療機関ではCLSIが決めた基準で判断している




おまけ

CEZセファゾリンを2g 8時間毎~なんて多すぎませんか?

添付文書には「最大投与量5g/日」って記載されているし・・・

保険で査定されちゃうんじゃないですか?

大丈夫!

セファゾリン2 8時間毎の投与量は「社会保険診療報酬支払基金」で認められている投与設計となります。

「使用例:原則として、「セファゾリンナトリウム水和物【注射薬】」を「現行の適応症の重症例」に対し「1 回 2g を 8 時間毎、静脈内に投与」した場合、当該使用事例を審査上認める。」
https://www.ssk.or.jp/shinryohoshu/teikyojirei/yakuzai/index.files/y_jirei_H240316.pdf

詳しくは下記の論文をご参照ください
感染症学雑誌 第93巻 第 1 号.日馬 由貴ら著
「適切な感染症治療を推進するための保険診療審査情報の開示:社会保険診療報酬支払基金による審査情報提供事例の有効活用」.

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