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スポーツカイロプラクター“Dr.S”が解説する 機能解剖から考える疾患別治療ノート(1)腱板(ローテーターカフ)断裂

榊原直樹(DC, DACBSP, PhD)

※本連載では、榊原直樹(DC, DACBSP, PhD)氏が、機能解剖の観点から、疾患を解説していきます。


腱板(ローテーターカフ)は、棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋の4つの筋肉で構成される筋群の総称です。肩関節の安定性にとって非常に重要な役割を果たしており、これらの筋肉の機能低下は直接的に肩関節の不安定性を引き起こします。

腱板断裂は変性の進行が潜在的要因となっているケースが多く、そのため40代以上に多発します。

症状

痛みは肩関節の前上部に局在し、上肢の挙上に伴い鋭い痛みが現れます。また肩関節の不安定感や力が入りにくい感覚(筋力低下)を訴える場合もあります。特に、棘上筋腱の完全断裂では筋力低下が顕著となり、上肢の挙上そのものが難しくなります。

原因

腱板断裂の好発部位は棘上筋です。断裂部位としては、以下の2ヵ所が考えられます。

1.停止部

2.筋腱部

この2ヵ所のうち、特に筋腱部に断裂が生じやすい傾向があります。棘上筋の筋腱部はクリティカルゾーン(critical zone)と呼ばれており、極端に血液供給が減少している領域があります(図1)。さらに、肩関節の動きに伴い、上腕骨頭からの負荷(圧迫や摩擦)がかかりやすい領域でもあります。以上のことから、棘上筋の筋腱部が断裂の好発部位となっていると考えられます。また、クリティカルゾーンは断裂だけではなく、変性の好発部位でもあります。

断裂は転倒して手をついた時など、急激に負荷がかかり損傷するケースがあります。しかし、変性の進行により靱帯がもろくなり断裂してしまうケースが多いです。

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図1 右上肢上面図(クリティカルゾーンは棘上筋の筋腱部にあり、血液供給が極端に減少(虚血)しているため、損傷や変性の好発部位となる)

検査

棘上筋腱に損傷がある場合、エンプティカンテスト(empty can test)において陽性となります。また、肩甲下筋腱の場合、リフトオフテスト(lift-off test)で陽性となります。これらの検査では、いずれも筋力低下と痛みの増悪が陽性反応となります。

棘上筋腱の触診検査では、肩関節伸展位において肩鎖関節の直下に鋭い局所痛が触診されます(図2)。また肩甲下筋腱では、上腕骨小結節内側(停止)および三角筋胸筋三角(肩関節中立位)において圧痛が触診されます(図3)。

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図2 棘上筋の筋腱部は肩関節伸展位において、肩鎖関節の直下で触察が可能


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図3 肩甲下筋の筋腱部は、三角筋胸筋三角において触察可能

治療

部分断裂の場合、最初に他動的可動域の改善を行います。その後、自動的可動域の改善へと治療を進めていきます。インピンジメント症候群が伴っている場合は、肩鎖関節、さらに肩甲胸郭関節の運動障害を診るようにします。肩鎖関節では、上肢挙上時における鎖骨遠位端の後方回旋が制限されていることが多く、肩甲胸郭関節では肩甲骨の不安定性が認められることが多くあります。


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著者プロフィール

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榊原直樹

ドクターオブカイロプラクティック、スポーツカイロプラクティックフィジシャン、医学博士(スポーツ医学)

1992年 東北大学卒業(動物遺伝育種学)
1997年 クリーブランドカイロプラクティックカレッジ卒業
2006年 冬季オリンピック帯同ドクター(イタリア、トリノ)
2009年 ワールドゲームズ帯同ドクター(台湾、高雄)
2011年、12年 世界パワーリフティング選手権大会日本代表チームドクター(チェコ、プエルトリコ)
2015年 岐阜大学大学院医学系研究科非常勤講師
2009年より名古屋にて『スポーツ医学&カイロプラクティック研究所』所長(http://sportsdoc.jp/)。また2017年よりスポーツ徒手医学協会会長(http://jamsm.org/)も務める。





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