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もっとも深い夜、かがやくほしのように(BTS SPEAKYOURSELF)


夢のような季節が終わった。

5月4日 LAのロウズボウルスタジアムでの始まりから、シカゴ、ニュージャージー、ブラジル、ロンドン、パリ、大阪、静岡と2年2ヶ月に渡り、世界を飛び回り走ってきたBTS初めてのスタジアムツアー『SPEAK YOURSELF ♥』は、10月に行われるサウジアラビアとソウルでのファイナルコンサートまで、しばしの休息を迎えた。

手のひらの中の魔法の機械をのぞけば、私たちは、いつでも遠くはなれた国で駆け回る、大好きな人たちの近況を知ることができる。
『ボヘミアンラプソディ』も記憶に新しい、Queenが立ったことでも有名なWembley Stagiumでの公演は、Vliveで世界に同時中継された。
スタジアムとはいえ、座席の数は限られているし、様々な事情で足を運ぶことのできないファンもたくさんいるだろう。
世界を一緒に飛び回ったファンも自分の国で彼らを迎えたファンも、画面の中の彼らを見つめていたファンも、ARMYという名を持つ私たちの多くは、この2ヶ月の間、人類の発明した、インターネットという魔法を通して、世界中を駆け抜ける彼らの姿を週末がおとずれるたびに追いかけることができた。


あっという間のようでとても長い時間がすぎたような気がする。
いつでもキラキラと輝いていたステージの裏できっと多くの困難があっただろう。
時には雨に打たれ、日差しに晒され、溜まっていく疲労も痛む傷もあっただろう。
世界中にあふれるARMYにもまた、人それぞれのつまらない日常や困難な状況があっただろう。だけど私たちは彼らと会う3時間の間、すべての悲しみや辛さを忘れ、わずかな時を全力で楽しんでいた。


LOVE YOURSELFツアーの追加公演のような位置付けだった今回のスタジアムツアーは、メンバーもスタジアムという環境に合わせてセットリストをたくさん議論した…と話していたように、野外でのライブにぴったりなセトリへといくつかの変更があった。


まず驚いたのは、『Dionysus』のセットだ。
メインステージの両サイドに大きなヒョウがいた。

BTSのコンサートで、ここまで派手なセットを見たのは初めてで、小さな無名の事務所のアイドルだった彼らが大きく成長したことを感じさせた。
『Dionysus』『Not Today』『Outro : Wings』とスタジアムを盛り上げる楽曲が続き、コンサートは、7人での曲を挟みながらメンバーのソロタイムに入る。

LYSツアーでみた彼らの姿も充分に素晴らしかったけれど、ステージの真ん中にポツンとひとり佇む彼らはとてもとても大きく見えた。
初めて日本のドームに立った時、ホールいっぱいに輝くアミボムの光に目をキラキラと輝かせていた男の子たちは、とても立派な頼もしい姿でそこに立っていた。



ホソクくんてすごい。
時に重荷に感じたであろうJ-HOPEという名前のとおり、ホソクくんが軽やかなステップを踏むたびに、全身から“希望”の粉が振りまかれているみたいだった。
そして何よりとても“イケメン”だ。顔もかっこいいけれど、目鼻立ちの話をしているのではなく、なんていうか、存在が“イケメン”なのだ。ホソクくんが冷めた目をしたりニコッと笑ったりするたびに、軽率に恋に落ちてしまう。そんな威力が『Just Dance』の中に詰め込まれていた…。


ジョングクの『Euphoria』は、SYSになって変わった演出が私たちをおどろかせた。初めてFancamで観た時の衝撃は忘れられない。
ジョングクはまるでピーターパンみたいに空を飛んでいたのだ。
実際に目の前で見た時は予想以上の高さとスピードを目の当たりにしてとてもこわかったけど、グク本人はとても涼しい顔をして、甘くやさしい歌声と眼差しで、地上のARMYたちを見つめていた。
器具に固定されていない方の手は風を浴びるみたいに広げられて、恐れるどころか、とても楽しそうに見えた。


ジミンくんの『Serendipity』とテヒョンの『Singularity』はとても美しく芸術作品のようだ。まるで光と影のように相反する世界観の中で、それぞれがそれぞれの魅力を放っている。カメラにどの方向から抜かれているのか、ここでどんな表情をすればARMYが喜ぶのか、まるで自分の姿が見えているみたいに、完璧に計算し尽くされた魅力に溢れている。


RMの『Love』ではスクリーンに映し出される演出がとてもとても素敵だ。
この曲に決まったダンスはないけれど、ラップひとつでメインステージからセンターステージまで、大きな会場を移動しながら、たくさんのオーディエンスを巻き込む力を持っているナムくんの力量は、さすがBTSのリーダーだ…という説得力を持つ。
そして彼の動きに連動してスクリーンに映される水のような光の輪は、まるで“Love”の魔法を放っているみたいだ。
(ちなみにこの演出について『Dr.Strange』です!と言っていて、賢い魔法使いというキャラクターがナムくん本人にとてもぴったりだと感じた)


SUGAソロの『Seesaw』では、LYSに続き、ラッパーラインのゆんぎが歌とダンスを披露してくれる。昔、一生ラップしかしないと言っていたけれど、その少し掠れたような甘い歌声や本人曰くリズム体操レベルと話していたダンスもとてもかっこよく、とてもとてもかわいい。
そしてLYSから感じているのは表情の変化だ。これまで彼のパフォーマンスは、たとえクールな表情のままであっても、撃ち込まれるようなラップスキルだけで充分に圧倒されるものだったけど、テテが表情をもってひとつのストーリーを見せてくれるみたいに、天才PDミンシュガも、くるくると色んな顔を見せてくれるようになった気がしている。ずるい。

ソロステージの最後はジンくんの『Epiphany』だ。
ジンくんの歌唱力はWings TOURの間に素人目にみてもとてもとても伸びた。『Burn the stage』の中で、そのことについてメンバーたちも話していたほどだ。
そして迎えた新しいツアーで、より安定感をもって披露される美しい歌声は、うっとりするほど優しく強く高らかに、スタジアムの上に広がる空にまっすぐに響き渡っていた。
ノリの良い曲はもちろんだけれど、スタジアムの良さを現場でいちばん体感したのは、ジンくんの『Epiphany』だった。ジンくんには“晴れた空”がよく似合う。


7人が7色の色を持ち、それぞれ違った魅力を放つ。
ボーカルラインとラッパーラインのパフォーマンスを終え、7人が再集結する『MIC Drop』は鳥肌が立つほどのかっこよさを放つ。
静岡で低く垂れた暗い雨雲の下、7人で舞い踊る姿は、キラキラと可愛いアイドルとはほど遠く、良い意味で最強の怪物たちのように見えた。

きっとまだ私たちに明かされていない色んなことがあっただろう。
言葉にできない想いや、それぞれの中に秘めた想いもあるだろう。
はじめに夢見ていた場所よりもずっと遠くまで走ることになった彼らは、予想以上の荒波を乗り越えて、とんでもなく強くたくましく、時に脆く美しい、怪物になったのだ。




BTSのコンサートには毎回のように“ARMY TIME”というメンバーへのサプライズの時間がある。
通常はメンバーへのメッセージの書かれたスローガンを一斉に掲げるというものだけれど、Wembley2日目の公演では、ARMYたちが『Young Foever』を歌うというサプライズがあった。
このサプライズをうけて、何人かのメンバーは涙を流した。ジョングクはとくに、そのかわいい顔がぐしゃぐしゃになるぐらいに泣いていた。
その歌の詩はずるい。イヤフォンで聴いているだけで毎回泣きそうになる。だから泣いていたのかもしれない。また誰かはこれまでの苦悩を思い出して泣いたのかもしれない。また別の誰かは、単純に自分たちへ向けられる多くの愛に感動したのかもしれない。
涙の理由なんて、一生本人にしか分からないことだけど、その時間はとてもとても美しい瞬間だった。


しかし、そのあまりにもすてきだった時間はその場に居合わせなかった一部のARMYたちを嫉妬させた。何より『Young Foever』という歌は、花様年華のラストを飾る曲だった。あの会場に当時から彼らを応援してきたファンがどれだけいただろう。
またロウズボウルでナムくんは

「みなさんは僕たちの学校で 僕たちの夢で 僕たちの幸せで 僕たちの翼で 僕たちの宇宙で、僕たちの夜を照らす光でした。みなさんが僕たちにとっての花様年華でした。」

と話していた。


とてもとてもすてきな言葉だ。
目の前でこの言葉を聞いていたら、きっと泣いていただろう。


しかし…果たして誹謗中傷にさらされ、絶対売れないと言われていた時代に、彼らの翼になり夜を照らしてくれたARMYは、ロウズボウルにどれだけいたのだろう。
ビルボードもスタジアムも、この栄光を作ってくれたARMYたちは確実にいて、その人たちが多くいるであろうソウルでのコンサートはこの時点で開催されるのかどうかも分からず、最近知名度をあげた遠い国で涙を流し感謝されたら、支えて来たのは私たちなのに…と思う気持ちも私にはとてもよく分かる。


私たちファンは熱狂的であればあるほど、おそらく自分だけが一番の理解者だと思いたがる。人の心の中のことなんて分かるわけないのに分かっていると思い込み、彼らのパフォーマンスに優劣はないのに、あれこれと理由をつけて自分の参戦した公演が一番良かったと思いたがる。
サプライズをして喜ばせたい。涙を流すくらいに喜んでほしい……
その気持ちも分からなくもない。

大好きな人たちを喜ばせたいと思う気持ちは罪ではない。
だけど自分が一番になりたがる要素が少しでもあるなら、そこにあるのは愛ではなくエゴだけだ。
泣いたから良い公演だった。泣かなかったから普通だった。

そんなことはないはずだ。
そしていつどの国にいてもどんな会場の公演でも、彼らは全力で最高のパフォーマンスを見せてくれる。彼らの気持ちに、優劣はないだろう。
そしてそのことを、きっと私たち日本のARMYの多くは、初めから気づいていたはずだ。
あの日、東京ドームでの公演を迎えることができた喜びを、
『Anpanman』のすべり台や風船で遊び、『So what』でじゃれあい、ただただ楽しそうに、最高の瞬間を更新してくれることの特別さを、私たちは知っている。


大阪のスタジアムで見つけた雲の月をナムくんはTwitterにUPしてくれた。

“今日の雲の月こうして見るとイルカみたいにも ふと空を見るとあって本当に本当にきれいだった”

雲の形を見て、月の美しさを想う情緒は世界共通だろうか?
テテくんはその日のメントで「月がきれいですね」という言葉をもじって「雲がきれいですね」と私たちに言ってくれた。
夏目漱石が“I Love You”を“愛してる”の代わりに訳したその言葉の、愛してるでは伝えきれない行間を、私たちは読み取ることができる。一緒に見た特別な雲も梅雨のくもり空に打ち上げられた花火も、形を変え一瞬で消えてしまう儚い景色の持つ美しい情緒を私たちは静かにかみしめることができる。

盛り上がる時は盛り上がり、じっと黙ってその歌声に耳を澄まし、思い出を心に刻むことができる。


南米のARMYはとても情熱的だ。
音楽に身体を任せて踊る様子はとても楽しそうだし、韓国のARMYは同じ言語を使う分、掛け声もよく揃っていて、メントなどのレスポンスが早い。妙な間が開かない分生まれる、かわいい会話がきっとどの公演よりもたくさんあるはずだ。
(余談だけれど、日本語を話すかわいさを噛み締められるのは、私たちだけの特権だ。)

その国にはその国の良さがある。
そして私たちは異なる言語をもち異なる文化の中で、同じ言葉を話す。
ナムくんのLAでの言葉を借りるならそれは“コミュニティ”だ。

『Love』でDr.キムナムジュンの魔法にかけられたあと、スクリーンには様々な言語の“愛してる”の文字が飛んでいた。
多種多様な世界で自分や隣の誰かを愛するという心は共通だ。
彼らの前に立つ時、私たちはどこから来てどんな言葉を持つかは関係ない。
若くても歳をとっていても、私たちは同じ想いの中にいる。

ジンくんは大阪でのライブの日、大きな声で
「あーーーーみーーーーーーーーー!!」
「楽しめましたかーーー?
ストレス解消できましたかぁーーーーー!????」と話していた。

静岡の最終日では
「今日はみなさん楽しかったですか?
僕とメンバーのみんなが本当に楽しく遊べました(以下略)」と言っていたけれど、楽しく遊べるということは、それだけでとてもとてもかけがえのないことだ。
ストレス解消して、一緒に思い切り騒いで楽しく遊べたなら、涙なんかなくてもそれは充分すぎるほどに特別な公演だ。

『IDOL』に入る時、ナムくんが「We are IDOL!」と叫ぶ。
アイドルの定義はわからないけれど、ファンを楽しませ、キラキラしたもので心を満たしてくれる人をアイドルと呼ぶのなら、一緒に騒いで遊んでくれる彼らは、文句なしに最高で最強のアイドルだ。
そして時々、痛みや涙を隠しきれなかったとしても、彼らがそれを見せたがらないのであれば、気づいてしまったことを拡散して晒すのではなく、気づかないふりをしてだまされてあげたい。



BTSは私たちに大切なことを教えてくれる。

ものごとは見方を変えれば悪いことにも良いことにもなる。
静岡の最終公演の日、グクは雨が降ったからセクシーな僕たちを見れたでしょ?とかわいく話していたし、ナムくんは、雨の予報だったけどこれぐらいで済んだという話をしていた。
雨がこれぐらいしか降らなかったから、最悪は中止の恐れもあった公演を問題なく行うことができた。雨が降ったから、ホールの中じゃみられない、セクシーで特別な瞬間を目撃することができた。


ものごとは、見方次第だ。

まだ売れる前の彼らを侮辱したかわいそうなラッパーがいたけれど、彼のおかげで私たちは、大好きな人の器の大きさや利口さを知ることができた。
彼がいなければ一生知らなかったかもしれないことだ。

嫌なことがあったとき、捉え方一つで私たち一人一人の小さな世界はよくも悪くも変わる。


雨の中のコンサートはメンバーも観客もいつも以上に体力を奪われただろう。
だけど逆境ともとれる雨の中、びしょびしょになってペットボトルの水をかけ合う彼らに、それは特別な遊び道具になっていて、そんな風に全力で遊ぶ7人のスーパースターたちの姿は、雨と水に濡れて、とてもとてもキラキラと輝いていた。

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夢のような時間が終わり終演を迎える時、6人のメンバーはカメラの前に集まってかわいいポーズをとっていた。
そこにいつもいるはずのグクの姿はなく、スクリーンに抜かれ、ステージのすみにいたグクはひとり、ARMYたちのかざす光の海をじっと眺めていた。


『Mikrokosmos』の始まりとともに、会場を包み込んだスマホのライトの光は温かな黄色で、会場を埋め尽くすたくさんの小宇宙のきらめきを連想させた。
数えきれないほどたくさんの光の中に詰まった様々な感情が、たった7人の男の子たちに向けられている。
そのまっすぐな瞳で、グクは何を思っていたのだろう?
私たちの作る光の粒をどんな気持ちで見つめていただろう?


楽しければそれでいい。
たくさん遊んで、今日は楽しかったね!と言い合えることの幸せがある。
ジミンくんが去り際に「アンニョン!!」と言っていたけれど、
じゃあねまたね!といつかの約束をする幸せがある。

早くまた会える日が来るといいな…と祈りながら、
私たちは日常へと帰る。


解けない魔法にかけられたようにふわふわとした気持ちを抱えて、
明日はもっと人に優しくできたらいいなとか、明日はもっとうまくできるといいなと祈りながら、彼らの瞳の中では、優しくて正しくて彼らをひたむきに照らすかわいいARMYたちは、完ぺきではない自分に帰る。


ててくんが帰り際に『Mikrokosmos』の一節を叫んでいた。

“ 가장 깊은 밤에 더 빛나는 별빛 ”


“最も深い夜に より輝きを増す星の光”……という言葉をあの時かけてくれたのはどういう気持ちだったのだろうか?


夢のような季節が終わってやがて深い夜が訪れても、輝ける星でいられるように…

あの瞬間、おおきな声で突然投げられた言葉を、
エールのようだと思った。
そしてその言葉はきっと私たちの中で、
その歌を聴くたびに思い出せる
“魔法の呪文”になったのだ。


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