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厄介な「絡まり合い」から「多層システム」へ? Design Dialogue #3 レポート

2021年10月12日、「Design Dialogue」の第3回として、今日発展しつつある視座の一つ「ポスト人間中心デザイン」について、共に考えるためのディスカッションを行いました。本記事では、Design Dialogue #3で行われたプレゼンテーションやディスカッションの内容をダイジェストでお届けします。

ポスト人間中心デザインの動向

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はじめに、IDLデザインディレクターの辻村がポスト人間中心デザインの動向についてのプレゼンテーションを行いました。

辻村はポスト人間中心の概念について、人間活動の爆発的な増加と、それと呼応した地球環境の急速な悪化を示したグレートアクセラレーションを背景に持っていると仮定しました。

デザインの分野では、グレートアクセラレーションの起点となった1950年代以降、人間に対する概念の拡張とその概念の普遍化、および数値化が試みられ、人間を中心、または対象としたデザインの科学化が行われてきました。しかし、グレートアクセラレーションを駆動した人間活動の増幅と反比例して、その人間を概念の中心に据え置き続けようとしたあまり、デザインの科学化への試みは挫折し、収束していきます。

こうした背景から、デザインにおいて人間中心を克服しようとする試みが2000年以降顕著に現れます。それは、昨今肌身で感じる人間活動の負の遺産としてのしかかる環境悪化への議論の活発化と呼応するかのように、地球環境とその構成要素を議論の環に入れたポスト人間中心デザインの概念化や方法論の創出となって立ち現れ始めています。

この状況を踏まえ、デザインは人間だけなく、人間以外の種も直接的なデザイン対象、または間接的な関与者に含める必要が生じました。そして、この新しいデザインのための視点をイメージするにあたり、「マルチスピーシーズ人類学」という言葉が助けになったと辻村は語ります。

マルチスピーシーズ人類学は、「人間と人間以外の複数の生物種の『絡まり合い(entanglement)』によって作り上げられる世界を認識し、人間以外の存在の行為主体性に目を向ける」というアプローチをとります。

そしてポスト人間中心デザインは、このマルチスピーシーズ人類学と同様の視点を取り入れたデザインであると辻村は整理し、IKEAによるBioFoldT-FactorFoodSHIFT 2030の事例を紹介しました。

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(ポスト人間中心デザインの特徴を捉えるキーワード)

これらの事例から、辻村はポスト人間中心デザインの特徴を整理します。

手法の面では、ユーザーを対象にしつつも、彼ら彼女らが体験する製品サービスの背後にあるマテリアル・アセット・プロセスなども包含したシステムを戦略的に考えている点、人間活動の爆発と人口集中による弊害を自立・分散・協調的な営みへと変えていこうとする点を提言しました[1]。

また、アウトプットの面では、ソーシャルイノベーションデザインに取り組むネットワークであるDESISの活動で持続可能な社会をデザインする視点として提示されたSLOC(Small, Local,Open,Connectec)の流れを受けながら、より循環性を顧慮した「Local、Circular、Open、Connected」の4つのキーワードで特徴を整理しました。更に、ローカルで発生する特殊解の生成が複数連なることによって、やがてグローバル規模での普遍的なムーブメントへと成長する可能性を示し、その様相をコスモポリタンローカリズムという言葉を用いてまとめました。

「経路依存性」を打ち破るための「合意形成」

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次に、IDLの木継、遠藤、野坂、インフォバーンで新規事業を担うUnchainedの亀山により、ポスト人間中心というパラダイムのもとでビジネスデザインをするという営みの限界と可能性をテーマとした座談会が行われました。

まず、亀山がGREEN SHIFTというプログラムで行われた循環型ビジネスモデル作成のためのワークショップの成果を振り返りました。

GREEN SHIFTは、未来を拓くイノベーターと、新たな社会における価値創造を考える共創コミュニティです。「循環型経済(サーキュラーエコノミー)」をテーマとしたプログラム内で、従来のビジネスで排出されている廃棄物を資産と捉え直したり、異業種の廃棄物や資産を掛け合わせて、循環型のビジネスモデルを作るワークショップが行われました。ワークショップのゴールは、参加者で共創したビジネスモデルを自社事業のアイデアとして捉え直し、持ち帰ってもらうことでした。

このワークショップで持ち帰られたビジネスモデルのその後を追跡する中で、ある課題が発見されたと遠藤と野坂は語ります。それは、参加者がそれぞれ自社の中でモデルを成立させようと行動する段階に入ると、共創したアイデアに込められていたサーキュラーモデルを作り上げるという文脈が失われ、自社の既存のリニアな利益構造モデルに帰着してしまうという問題です。

この問題について、野坂は過去の決定事項が現在の決定に影響を与えるという現象を指す「経路依存性」という言葉を引用します。これはプログラムに参加いただいた方からご紹介いただいた経済言葉です。

議論は、この経路依存性の問題を乗り越える方法について、ポスト人間中心的な視点から検討する方向へと展開していきました。

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(循環型経済ビジネスの可能性を捉える4つのキーワード)

亀山は、デジタル技術を活用することの可能性を語りました。AI、ブロックチェーン、3Dプリンターなどの技術は、ビジネスのあり方を再構築します。これがプロジェクトチームを最適な形に再構築することにも繋がり、経路依存性を解きほぐすきっかけになるのではないか、と提案します。

経路依存性を乗り越える方法について、遠藤は「民主的な合意形成」の可能性について語りました。文化人類学の考え方を引き合いに、民主制を“多数決”ではなく、納得するまで話すことと捉える視座には、予算・時間といった既存の経路の再生産を乗り越え、新しい仕組みを実装する手がかりになるのではないかと遠藤は続けました。

議論はさらに、ポスト人間中心デザインの視点から、「いかにノンヒューマンを含めたアクター同士の支配関係を再構築して、合意形成をデザインプロセスに組み込むのか?」という問いへと展開します。

人間と人間以外のアクターとの固定された関係を乗り越えるための「合意形成」のヒントとして、木継はニュージーランドで川に法的な人格が認められたケースを挙げます。このケースが示すのは、人々の認識の変容です。川を「もの」として捉える西洋的な認識から、「生きた存在」として捉える認識への移行を制度によって促すことで、人間と人間以外のアクターが関係するためのひとつの試みが紹介されました。合意形成を取り扱う領域が、ガバナンスからデザインへと拡がりつつあるようです。

・・・

座談会ののち、参加者を含めたディスカッション(Ask Us Anything)が行われました。ディスカッションでは、拡大再生産を志向する資本主義の上で持続可能なシステムを回すことの困難さという視点から、持続可能なビジネスを実現することの難しさが改めて確認されました。

「絡まり合い」を解くためのフィールドワーク

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最後のプレゼンテーションとして、IDL白井が、ポスト人間中心デザインを捉える上での参考として、IDLの「フィールド」における取り組みを紹介しました。

白井はIDLにおいて地域や地方などの意味を表す「フィールド」を、人々の実際の生活空間を総体を指す概念として提示し、この概念を通して人間だけでなく人間以外の要素が相互に関連し合う「絡まり合い」を捉えることができると続けます。これを、人、自然環境、文化などによって構成される多層のシステムとして整理し捉え直すことで、実践へと結びつく知見を手に入れることができると述べました。

IDLではこれまで、企業と社会の接点をつくり、さまざまなフィールドを開拓しながら、社会的に価値が循環・発展していくための「ソシエタルデザイン」に取り組んできました。

アクティブワーキングという事業創造プログラムでは、地域内外のビジネスパーソンや専門家、生活者を巻き込みながらフィールドに対する広範なリサーチを行い、その結果としてさまざまなテーマのプロジェクトを立ち上げ、持続可能な価値形成に向けてフィールドで試行・実践しています。

最後に白井は、「在野」というキーワードを使って、フィールドがそこに入り込む人や会社を変えることについて提言しました。在野の人や会社となることで、社会における課題や価値を本質的に捉える視点を獲得することができます。最後に、このような視点が、社会の持続可能性や、企業のレジリエンスへとつながると白井は提言しました。

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(「在野」的な視点とその価値)

プレゼンテーション後の参加者を含めたディスカッション(Ask Us Anything)では、アクティブワーキングの取り組みが地域の生活者に求める前提はあるのか、という問いを通して、「絡まり合い」の中に仕組みを実装していくことは地域の生活者の協力を必要とする、という点が確認されました。

終わりに

こうして会は終了しました。閉会後にも、残った参加者の方々とのディスカッションが行われ、イベントのテーマとなった「ポスト人間中心デザイン」について、人のモチベーション・企業の利益・産学連携など、様々な角度から議論することができました。

Design Dialogueは今後も継続して開催予定です。

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記:川原光生

参考文献
[1] 川崎和也、津田和俊(2019)「サステナビリティ: 地球の有限性と共にデザインする」川崎和也、ライラ・カセム、島影圭佑、榊原充大、 木原共編『SPECULATIONS: 人間中心主義のデザインをこえて』236-239頁。 ビーエヌエヌ新社

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