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コロナで見直し迫られるODAの危機管理

案件受注の実績を伸ばす機会にも
 新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、コンサルティング企業をはじめ開発業界でも現地へ渡航できずに一部事業の中断を余儀なくされている。政府開発援助(ODA)における危機管理では近年、テロ対策などの強化を進めてきた。しかし今後は、感染症リスクへの対応の見直しも新たな課題となる可能性がある。

感染症リスクへの対応強化を

 新型コロナの感染拡大を受け、日本では4月7日に発出された緊急事態宣言が、5月25日をもって全面解除された。今後は、地域の感染状況に応じて、外出自粛やイベントの開催制限も段階的に緩和していくという。そんな中、海外への渡航制限の緩和に向けた協議も政府間で始まっているが、慎
重姿勢は保たれたままだ。国際協力機構(JICA)も当面は現地への渡航は難しいとの見解を示しており、開発コンサルティング企業などODA関係者らは試行錯誤しながら何とか事業を進めている。
 例えば技術協力プロジェクトでは、研修のマニュアル作成や施設の設計業務を国内業務に付け替えて対応しているところもある。このほか、自社製品を活用して現地で水の汲み上げに関するデータを収集していた企業は、現在、日本国内の調査研究業務への活用を検討しているという。一方、円借款
事業を受注している企業では、現地に留まっているコンサルタントが赴任地の自宅にて現地政府関係者とテレワークでやり取りを続けながら業務を行っているという。
 だが、国内業務に付け替えられる業務にも限界がある。渡航できない状況が長引けば、開発業界の経営悪化は免れられないだろう。そうした中で、日本政府が発表した持続化給付金などの支援策に申請を出した企業もいる。
 ただ、途上国開発の現場ではこれまでも、幾度となく感染症の脅威にさらされてきた。今年に入ってから南米ではデング熱の流行により多数が死亡しており、パラグアイ政府は2月に公衆衛生上の非常事態を宣言した。このような局地的に発生した感染症については、「各企業が判断して自宅待機や退
避などの対応を取ってきた」と、民間企業の海外安全管理業務に関するコンサルティングを行う海外安全.jpの設立者兼代表を務める尾﨑由博氏は語る。
 尾﨑氏は元JICA職員で、安全管理部に所属していた経験を持つ。また、北海道大学獣医学部出身で、人獣共通感染症の知見もある人物だ。同氏は、「今回のコロナ危機は特段驚くべきことではない。生物が生きている以上、感染症は避けることのできない、あって当たり前のリスクだ。ODAを含む途
上国開発ではこれを前提として動かなければいけないことが、今回でより明確になった」と強調する。実際、先述したとおり開発途上国ではさまざまな感染症が蔓延しており、ODAにおける従来の危機管理においてもさまざまな対策が講じられている。例えば、JICAは派遣される専門家や海外協力隊員などに対し、感染症の基礎知識や予防に関する情報提供や注意喚起を行ったり、予防薬の服用の推奨などを行ったりしている。他にも、JICAは現地の流行状況を把握し、医療機関との連携も図っている。感染症が発生した際に
は緊急移送の支援や帰国前後の検査の推奨、帰国直後の健康相談にも必要によって応じてきた。
 しかし尾﨑氏によると、世界的パンデミックを想定したリスクへの対応について、JICAを含むODA関係者はもとより民間企業でも重視されていなかったという。

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