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中小企業 海外展開意識調査

海外展開には引き続き意欲的 ―コロナ禍での中小企業の意識調査を実施

分岐点に立つ中小企業
 2019年末に発生し、今もなお世界中で猛威を振るっている新型コロナウイルス。中国の武漢地区で発生が報じられた当初は多くの国にとって対岸の火事であったが、交通手段の発達に伴いグローバル化が著しく進んでいたため、瞬く間に各国に飛び火した。その新型コロナの感染拡大は一層勢いを増し、7月7日時点で世界での感染者数は約1,150万人、約53万人が犠牲となった。医療崩壊が危惧される中、これまで日本経済を支えてきた中小企業にとっては大きな分岐点に差し掛かったといえよう。とりわけ開発途上国への進出を目指していた中小企業にとっては、今後の事業方針や経営計画の見直
しなど、その判断力と体力が試されている。
 そうした中、国際開発ジャーナル社は5月から6月にわたり、新型コロナの感染拡大が中小企業の海外展開にどう影響しているかについて、アンケート調査を実施した(詳細については概要を参照)。

 「影響あり」が89%
 
「影響を受けている」とした企業は、回答を得た162社のうち、89%の144社に上った。他方、「影響を受けていない」と回答した企業からも、「先行きについては不透明」という不安の声が寄せられている。(グラフ1参照)。
 「影響を受けている」と回答した144社については、その具体的な内容も聞いた。最も多かったのが「業績への影響( 売上の減少)」で、その比率は37%に上った。次いで、「海外展示会・イベント出展の中止や延期」が24
%だった。中小企業においても特に製造業では、自社製品や技術をアピールし、会場内で商談まで進められる海外展示会は販路を拡大する貴重な機会になっている。その機会が軒並み失われていることは、大きな痛手であることが予想される。この他の影響としては、「事業休止に伴う休業」「取引先
の事業停止や倒産の発生」といった回答もそれぞれ11%、10%と高い比率であった。コロナ禍の今後の状況次第では、この数値がさらに高まることが懸念される(グラフ2参照)。また、162社のうち、現地法人や現地代理店などを設置している企業を対象に新型コロナの影響を聞いたところ、69社が回答した。複数回答も含め、最も多かったのは「業績への影響( 売上の減
少)」(35社)だ。次いで「取引先の事業休止」(24社)となっている。自社の「事業休止」とした企業には、「現地提携会社との共同実施プロジェクトが凍結に追い込まれた」ところもある。
 現地の取引先との状況については、回答のあった116社のうち52%の企業が「取引を継続」している。その反面、「取引の見通しが立たない」が29%を占めるほか、「取引中断」と「取引先の事業休止」が合わせて19%となっている。これに加えて、渡航制限が解除されるめどが未だに立たない中
で、現地からの撤退を検討する企業も出てきている。

求められる情報発信
 しかし、162社の93%に当たる151社は、今後も海外進出を「継続・計画」すると回答している。コロナ禍の影響があるとはいえ、日本国内の市場が縮小傾向にあるため、海外に活路を見出すほかないからだ。加えて、新型コロナの影響を受けながらも、進出あるいは進出を予定している国を変更する企業は見られないことも今回のアンケート調査から明らかになっている。
一方、今後の海外展開に当たっては課題も多くある。その一つが、多くの中小企業が情報不足に直面し、海外展開を再開するための準備・体制作りに手間取っていることがある。現在、中小企業が最も関心を寄せているのは、国別に見た「渡航再開の可能時期」に関する情報だ。加えて、進出先の国の
経済活動の状況、また政府開発援助(ODA)案件の進捗状況なども情報が不足しているという。今後、中小企業の海外展開支援事業を実施する国際協力機構(JICA)は、こうした企業が求める情報をより積極的に発信していくことが求められる。
 また、今回のアンケート調査では、「当社は感染症予防の製品を開発・販売しており、新型コロナに対しても有効性を検証中である。今後も感染症対策製品として世界に広めていきたい」という意見も寄せられている。新型コロナをはじめ、感染症対策に求められる分野は、水・衛生、栄養、保健・医
療など幅広く、技術力の高いユニークな製品を持つ中小企業は多いはずだ。おそらく、これまでのJICA中小企業・SDGsビジネス支援事業においても、感染症対策に使える技術・製品の提案はあったはずだ。JICAは一度、提案事例
を“総ざらい”し、使えるものがあれば積極的に活用の道を切り開いていくべきであろう。そのための情報収集・確認調査やプロジェクト研究事業を形成していくことも検討できよう。「ピンチをチャンスに」の視点から、中小企業の海外展開を支援していく裾野は広いはずだ。

多数が進出時期や戦略を再検討
 162社のうちJICA中小企業・SDGsビジネス支援事業の応募を検討している中小企業136社から回答が寄せられた(グラフ3参照)。8割以上の企業が新型コロナの影響を受けたにも関わらず、52%が2020年度の公示に応募を
検討しているのが現状だ。また、2020年度第一回目の募集は一旦延期されたものの、今回応募を予定していた企業の52%はその意思に変更はない。一方、応募時期を変更した中小企業についてみてみると、2020年度第二回目公示が26%、2021年度第一回目公示を検討している企業が27%、続けて2021年度第二回目以降の公示に応募検討している企業が14%であった。2022年度以降に応募を検討する企業は14%である。今秋より動き始める準備・待機組
の動向も気にかかるところだ。他方、20%は「見通しが立たない」と回答しており(グラフ4参照)、多くの中小企業は海外進出の時期や戦略の再検討を行っていることが伺える。
 JICAが中小企業にとって、どのような“処方箋”を打ち出せるのか、今後を注目したい。(文責:本誌企画部)






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