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【Project Focus】仙台防災枠組による「より良い復興」を実現 雨期前に工事を完了させ緊急復旧のニーズに対応  < 無償資金協力 >

プロジェクト名:東ティモール ディリ洪水被害インフラ緊急復旧計画
コンサルティング:いであ(株)(株)三祐コンサルタンツ(株)アンジェロセックNTCインターナショナル(株)
施 工飛島建設(株)


 東ティモールはオーストラリアの北、インドネシアの東に位置する小さな島国である。熱帯サバナ気候に属す同国は、毎年12月から4月の雨期に洪水や土砂災害が多発する。近年は気候変動の影響もあり、サイクロンや局所的豪雨による洪水被害が増加している。排水施設の設置、管理の不十分さと人口増加とも相まって浸水被害は深刻化している。河川、道路・橋梁、灌漑などのインフラも被災し、人々の経済社会活動に深刻な被害を及ぼしている。そうした中、2021年4月、サイクロン「セロジャ」が同国を襲い、約30万人
の人口を抱える首都ディリでは小河川や排水路の氾濫が発生。48人が死亡し、1万人以上が避難することを余儀なくされた。
 こうした状況を受け、同国政府は日本政府に対し、仙台防災枠組2015-2030で合意された「より良い復興(Build Back Better:BBB)」を目指す技術協力を要請し、これを受け、洪水被害に対する日本の支援を検討するための基礎調査を行うべく、国際協力機構(JICA)によるディリ洪水対策情報収集・確認調査団が派遣された。
 調査団は、首都ディリおよびその周辺の県において、治水や排水施設、灌漑施設、給水システムの被災状況、洪水被害発生メカニズム、防災関連機関の対応状況の分析を行い、支援方針、河道計画、防災対策や実施体制の検討を行った。また、各施設の復旧対象、方針、方法についても東ティモール側と協議し、河川護岸、給水や灌漑施設をそれぞれ担当する所掌官庁と個別の協議を行った。この調査を基に、2022年8月に東ティモールと日本の間で交換文書が締結されたのが、「洪水被害インフラ緊急復旧計画」である。
 同事業は、洪水被害を受けた首都基盤・地方農業インフラの復旧と中長期的なBBBの実現を目指しつつ、被災インフラの防災力強化を目的とするものである。復旧工事は2023年2月に開始され、河川護岸と上水用取水堰、農業用取水堰2基を対象に行われた。具体的には、コモロ川護岸、ベモス取水堰、ブルト/マリアナ灌漑施設である。工事には複数の実施機関が携わり、サイトは首都および地方の4カ所に分散する広域工事となった。
 本事業は当初、2024年8月の完工を予定していたが、雨季をまたぐ工程となることや、未完成の構造物の被災リスクを回避するべく施工計画を見直し、2023年10月、雨季に入る前にすべての工事を完了した。10月27日に行われた完工式には、田中明彦JICA理事長も参列し、予定より10カ月早い完工への祝辞を述べた。
 東ティモールが観光客や民間企業を惹きつけ、今後発展していくためには、災害リスクを軽減し、安全性と強靭性を向上させる必要がある。東ティモールの現行の政策は、災害対応と復旧に重点が置かれており、災害の予防・軽減、準備といった防災、災害リスク削減への投資が不十分であり、仙台防災枠組2015-2030に沿った「国家防災(投資)計画」の策定が急がれている。
 本事業は、持続可能な開発目標(SDGs)ゴール9(強靭なインフラの構築)、11(包括性・安全・強靭で持続可能な都市の構築)、13(気候変動とその影響への緊急の対処)に寄与するものである。
 東ティモールの自然災害に対する強靭性や安全性を高めるためには、被災したままになっている治水施設などを早期に復旧するとともに、将来の災害に備えて内水排除を目的とした市内排水システムの改良、気象水文観測システムの整備、関係機関の組織力強化などを推進する必要がある。同国の人々が安全・安心な経済、社会活動を営むことができるよう、防災への事前投資計画の策定とその着実な実行が重要になってくる。

工事中(灌漑施設他7月)
工事中(護岸工事7月)
工事中(取水堰工事他8月)
朝礼風景
マリアナ灌漑施設(上:着工前、下:完成後)
ベモス取水堰(上:着工前、下:完成後)
式典来賓者(JICA田中理事長 右から4人目)

本記事掲載誌のご案内

本記事は国際開発ジャーナル2024年6月号に掲載されています。
(電子版はこちらから

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