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エスパー探偵ドイル「瓶の中の耳(中編)」

おれはケイコと別れて、交番に瓶詰めの耳を持って行った。

交番の本官さんの驚いたことと言ったらない。本官さんは「もしもし」と黒電話☎️を取っていたが、おれが瓶を開けて、左右それぞれの手に、ヒトの耳と馬の耳をもってブラブラさせると、そのまま汗だけかいて固まってしまった。黒目を中心に同心円状に波紋が広がってぐるぐると円を描いているから、目を回しているのがわかる。やがて顔に血が上って紅潮し、受話器を握ったままぶっ倒れた。おれは電話の相手に「後でかけ直します」と返答して受話器を元に戻した。

毎朝の日課である散歩をしている最中に土手で耳を発見した経緯を話した。自分がエスパーであることは家族にさえ秘匿していることだから、それとなくケイコの姉の行方不明についても伝えることにした。本官さんは鉛筆の芯を舐めながら、調書を取っていたが、突然、腰のホルスターからニューナンブM60を抜くと、交番の前のガードレールに置いておいたパイナップルの缶詰🥫を鮮やかになぎ倒した。猫がニャーと鳴いて逃げていった。本官さんは人差し指でくるくると拳銃を回しながら、鼻高らかにちょび髭をしごき、実に頼もしげである。「あんまり危ないことに首を突っ込んじゃダメだぞ」「ハイ!」おれは交番を後にした。

おれは家に帰ると早速、ここ一週間のニュースを洗ってみたが、ある記事がおれの関心を惹いた。

おそらくケイコの姉が行方不明になったのと同日だが、遺伝子研究所の職員が頭を砕かれて道ばたに倒れて死んでいたというニュースだった。この男は手に外科手術で使うメスを握っていたそうだ。凶器は不明だが、頭部の外傷には土が付着していた。

またその近所で夜中に馬が走るのを見たとか、ヒヒーンという馬の嘶きを聞いたといった謎の馬の目撃情報もあったが、よくわからないらしい。

研究所にはよからぬ噂がかねてよりあり、実験動物にインドから連れてきたヒヒを使っているとか、敷地内を放し飼いのチーターが警戒しているとか、奇怪な人体実験をしているとか、そういう奇妙な噂で常に持ちきりだった。遺伝子組換えの巨大フルーツを開発し、近くでバナナの皮に滑って車が横転という嘘のような本当の話まである。

おれは研究所こそが、この事件の鍵を握っていることを確信した。

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