見出し画像

改訂版学習指導要領「金融リテラシーの授業」の未来

攻めと守りの金融教育


 今年の春から高校の家庭科の授業の中に「金融リテラシー」という項目が必修になった。これ自体は大変良いことだと思う。学校の先生は当然お金のプロではないので、マテリアルは金融庁が作成してそれを使用しているという形だ。

金融庁該当HP
https://www.fsa.go.jp/teach/chuukousei.html

 その資料を見る中でひとつ気づいたことがある。極めて内容がディフェンスに偏っているという点だ。投資の項目ももちろんあるのだが、全体的には生活費用や今後の出費をシミュレーションして計画的に生活しましょう、というのが第一印象だ。
 
 お金にはわかりやすい表現で、オフェンスとディフェンスがある。オフェンスとは増やすことを目的とする行動で、ディフェンスとは減らないように守ることに主眼を置いている。このどちらが大事かと言われると、個人レベルではもしかするとディフェンスかもしれない。
 金融詐欺にあうと非連続にお金がドンとなくなり大変な痛手となる。令和3年の特殊詐欺の認知件数は14498件で前年比948件増。今年から18歳でも親の同意なくローン契約ができ、クレジットカードを作成できるようになると金融詐欺はさらに増えるかもしれない。
 
 「なのでお金に気をつけよう」という話が金融教育ではない。

本来の金融リテラシー


 リテラシーとは、知識をベースにした感覚と判断を身につけること。何が詐欺で何がそうでないかを自分で見極める力なのだ。感覚や判断力を養うにはお金に対してのオフェンスもやらなければ身につかない。
 そもそも子どもがサッカーなどのスポーツをする時にディフェンスだけを教えてそのスポーツに興味を持つ子はいないだろう。多くの子どもは点を取ることの楽しさを覚えて、興味を持ちゲームに勝つためにディフェンスの重要性を知っていく。
 お金もいわばそういうものだ。オフェンスの部分を理解し、投資に興味を持ち起業に興味を持ち、チャレンジすることにワクワクするようになるのが第一で、その中でディフェンスの大切さを身につけていく。
 
 私は米国の会社にずっと働いていたが アメリカ人やイギリス人は世間で言われている通り、日本人より圧倒的にマネーリテラシーが高い。それは日本人より節約上手で詐欺にあう率が低いというのではない。
 彼らはオフェンスを意識しながら正しくリスクを取り、キャリアにおいてチャレンジするということや投資するということを、ギャンブルという感覚で捉えていない。彼らは小さいころから投資の授業があり、マネーリテラシーの教育を受けている。結果的に若者がチャレンジする文化がある。

ディフェンス国家


 今回の国の「金融リテラシー」授業は、よりディフェンス重視の国民を育てないか不安である。失われた30年は国の成長率が止まっていたからで、それは新しい分野へのチャレンジや育成が欠如してイノベーション後進国になったからである。
 この話になると80年代後半のバブルのころまで話が遡り、日本人がオフェンスをしすぎたからだと思う人がいるかもしれないが、それはそもそも、リテラシーが欠如したギャンブルであって、反省すべきはリスクマネジメントである。
 
 バブル崩壊後、日本は節約が美徳になり投資はギャンブルと位置付けられた。そしてその間日本のGDPは横ばいで米国のGDPは4倍以上になった。岸田政権が企業を推進し、貯蓄から投資へと促すのは大変正しいと思う。
 一方でそれはオフェンスの楽しさを正しく教えるという教育に鍵がある。そこをはき違えれば、リスクを極度に嫌う国民総ディフェンス国家になる。
 
 マネーリテラシーを教えるものは第一にオフェンスの楽しさを教えて、ディフェンスの大切さを教えるべきである。成長を伴った自立した国家を目指すための「金融リテラシー」教育であるならば。

Identity Academy Website
https://www.identity-academy.jp/

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?