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難民問題からスイーツブッフェへ。社会問題ライターだった太田圭哉が、グルメ情報を届けて感じた「書く仕事」とは?

名古屋を中心に東海エリアのグルメや観光など、日々名古屋の新しい視点を届けるシティガイドメディア「IDENTITY名古屋」。

このメディアの裏側には、長期インターンとして関わる大学生たちがいる。
彼らの採用基準は“変わった人”。

それを裏付けるように、IDENTITYにはゲストハウスオーナー、シンガーソングライター、スロバキア留学者など、一風変わった経歴を持つ大学生が集まっている。

今回インタビューを行った太田圭哉(オオタ ケイヤ)もその一人だ。

名駅のおすすめランチまとめなどの人気記事を手がけ、地域のグルメ情報を中心に筆をとる太田だが、以前は“社会問題”を専門とするライターだったという。

「夢にも思いませんでしたよ。難民の記事を書いていた僕が、スイーツブッフェの記事を書くなんて。(笑)」

当時の可笑しさを思い返すように、懐かしげな表情でそう語る太田。

今後もIDENTITYを支えていく彼に、未来のインターン生に向けて自身の体験を語ってもらった———

PROFILE— 太田圭哉(オオタ ケイヤ)
ライター。1994年生まれ。名古屋大学で経済学を専攻。大学3年修了時より休学し、社会問題を扱う企業で長期インターンシップを経験。インターン中に社会問題を題材にした記事の執筆に関わり、メディアが持つ魅力を体感。復学後、「IDENTITY名古屋」のインターンを始め、現在に至る。

論理に圧倒された前の長期インターン

企業訪問で出会った以前のインターン先、思い返すと初対面から印象的だった。

——IDENTITYに入る以前は社会問題を扱う企業で長期インターンをしていたそうですが、どのようなことに取り組んでいたのでしょうか?

太田:「社会の無関心を打破する」ことをテーマに掲げる会社で、社会問題の現場に訪れるツアーを企画したり、社会問題を発信するメディアで執筆をしていました。

記事で社会問題を取り上げるのにも「なぜこれは問題なのか」みたいなところから詰めていて。論理的な進め方を重視する会社だったので、記事もツアーもひとつひとつ時間をかけて作っていましたね。

——かなり丁寧に時間をかけて企画を進めていたんですね。

太田:そうですね。ただ、社会問題を取り上げた記事って関心を持たれづらくて、僕の書いた記事はあまり多くの人に読まれなかったんですよ。なので「興味を持たれづらいものにどう興味を持って見てもらうか」みたいな、マーケティング的なことは1年間考えさせられました。

——身につけたマーケティング的な考えはIDENTITYでも活きていそうですね。ちなみにその会社には、どのようにして出会ったのですか?

太田:就活の一環としていくつか企業訪問をしていた中のひとつに、その会社がありました。休学する前なので、3年生の終わり頃ですね。思い返すと初対面から印象的でした。

——印象的だったというと?

太田:代表の方とお話させていただいたのですが、これまでで一番頭を使う面談だったんです。考えさせられる質問がたくさんあって、もう頭フル回転。

例えば「社会問題ってなんだと思う?」「そもそも社会ってなんだと思う?」「どうして就活があると思う?」というような問いかけがありましたね。

今まで何となく知ってることを、質問を通してちゃんと考える機会になった。それがすごく印象に残っています。

——頭を使う質問がたくさんあったんですね。ところで、どうしてその企業でインターンすることに?

太田:企業訪問が終わった後に「インターン募集してるので、よかったらどうですか?」と人事の方からメールでお誘いを受けて。
面談で思考力が引き出される経験をした直後だったので、ここなら力がつくだろうと思いますよね。それで休学してインターンすることを決めました。

——前のインターンで関わっていた社会問題と、IDENTITY名古屋で発信する情報はかなり方向性が違いますよね。なぜIDENTITYでインターンをすることに?

太田:前のインターンの仕事柄、メディアをよく見ていていて、その中に社会的マイノリティの人々を取り上げたsoar(ソア)というメディアがあったんです。社会問題の記事は広まりづらいと思っていたのにsoarの記事はSNSで広まっていくのをよく目にしたので、どんな書き方をしているのか参考にさせてもらっていました。

記事を読んでいくうちにどんどんsoarが好きになって、休学が明けて名古屋に戻って何をしようかと考えていたときにsoarでインターンができたらいいなと思ったんです。それでsoar主催のイベントに足を運んで聞いてみたんですが、ご縁がなくて。

ただ名古屋にいるならということで、代わりに紹介していただいたのがIDENTITY名古屋でした(※)。文章を通して伝えるスキルを高めたいと思っていたこともあって、IDENTITY名古屋でライターとして力をつけようとインターンに応募したんです。

※『IDENTITY名古屋』を運営する(株)IDENTITYの共同代表を務めるモリジュンヤ氏と碇和生氏は、『soar』の主要な運営メンバーでもあり、両メディアには繋がりがあった。

内容のギャップに苦しんだIDENTITY名古屋での執筆

とりあえず書いてはみたものの、これまで積み上げてきた自信は吹き飛びました。

——もともとはsoarに興味があったんですね。IDENTITY名古屋で社会問題とは毛色の違う記事を書いてみてどうでしたか?

太田:IDENTITY名古屋で最初に書いてみてと言われたのがスイーツブッフェの記事だったんです。それまでライターの経験はあったんですけど、ついこの間まで難民の記事を書いていたので、当然スイーツ記事の書き方なんて全然わからない。とりあえず書いてはみたものの、これまで積み上げてきた自信は吹き飛びましたね。

IDENTITY名古屋ではリリース前に、プロの編集者さんに記事をチェックしてもらえるんですが、もうボロボロで。文章量が少ないとか、表現が美味しそうじゃないとか、文体が男っぽいとか。いや、僕男なんですが...みたいな。(笑)

——やはり社会問題のライターとは違いますか?

太田:違いますね。スイーツブッフェ然り、これまでの記事と毛色が違いますし、全然上手く書けない。これまで書いてきた社会問題の記事は「それってそもそも問題なの?」みたいな部分も大事なので、結構論理的な文章になるんです。

でもIDENTITY名古屋の記事では、論理的な文章はそこまで求められていない。それをスイーツの記事に持ち込んだら、「そもそもスイーツとは?」みたいなことになってしまいますし。(笑)

このうまく書けない感覚は数字にも現れていて、記事のPVも伸びていなかったんです。それでどう伝えていけばいいのだろうと悩んでしまって。

——これまでの書き方が通用しなかったんですね。その後、どのようにして新しい書き方を見つけていったのでしょうか。

太田:スイーツブッフェの時は本当にどうすればいいか分からなくて、Instagramで「女の子は美味しい時にどんな表現をするんだろう?」と研究したり。他には「話術.com」というサイトで“おいしさの表現方法”をひたすら調べてましたね。

実際に参考にしていたサイトを見せてくれる太田

するとどうやらsoarの記事は、“エモい”というキーワードと共に拡散されているぞ、と。そこで“エモい”記事は広まるんだろうなと考えるわけですが、“エモい”というのがよくわからない。

そのときから“エモさ”を会得したいと思っていて、エモノート(※2)をつけたりして、追求を続けていました。エモ系ライターとして有名なさえりさんやカツセマサヒコさんの記事もたくさん読みましたね。

(※1)エモいは、英語の「emotional」を由来とした「感情が高まって強く訴えかける心の動き」などを意味する日本語の形容詞。 感情が揺さぶられたときや、「うまく説明できないけど、良い」ときなどに用いられる。(※2)エモさに繋がるヒントを記録した太田のノート。

——探り探りな感じが伝わってきます。“エモさ”を掴むことはできたのでしょうか。

太田:エモ系ライターさんの記事を読んでいて、どのライターさんも伝えたいものをライターさん自身が好きであることが伝わってきました。

それで“伝えるものを好きになること”がエモさには重要で、きっとそれ以外の表現にも大事なことだと気づいたんです。

今では、伝えるものに好きな気持ちを乗せていけば、自然と“エモさ”も乗っかってくるだろうと思っています。

手がけた記事がヒットするも、そこには知られざる葛藤があった

どうせ出すなら、自信を持って紹介できるものを世に出したいじゃないですか。

——他にも印象に残っているIDENTITYの仕事はありますか?

太田:大変だったのはランチのまとめ記事ですね。編集部内で「太田くん、ランチまとめ書いてよ」と言われて書き始めた記事です。
名古屋駅周辺でおすすめのランチを20店舗まとめた記事なんですが、これはかなり悩みましたね。リリースした後にPVが伸びれば伸びるほど怖くなって、こんな感情は初めてで。それからしばらく記事が書けませんでした。

——以前はPVが伸びないことに課題を感じていましたよね。今度はPVが伸びると怖くなったとは一体どういうことでしょうか。

太田:どこまで突き詰めればおすすめと言っていいのか?という迷いが記事を書いているうちに生まれたんです。その迷いを抱えたまま、公開された記事が伸びていったので...

おすすめとして記事で紹介するので、周りの友人に聞き回ったり、インターネットでお店をピックアップしてSNSでアンケートを採ったりと、できる限りお店は丁寧に選んでいたんですね。そうしたらどこまで情報を集めればおすすめと言い切れるんだろう?と悩んでしまいました。

とはいえ、情報を集めているばかりではいつまで経っても公開できないので、これなら客観的に見て十分だろうというところまで調べて、見切りをつけることにしたんです。

それでもPVはぐんぐん伸びていって、数千人に見られるヒット記事になってしまった。それだけの人に見られたら「今日のランチはこのお店にしようかな」とか、たくさんの人に影響を与えるじゃないですか。

もし自分の紹介した店舗が、おすすめとして紹介できるほどではなかったとしたら、何百人、何千人という読者の時間や体験を奪うことになってしまう。そう考えると、PVが伸びれば伸びるほど怖くなりました。

——太田さんが納得いくまで調べ上げたい性格なのは、普段接していてもよく感じます。調べ足りない情報で人に影響を与えるのは怖かった?

太田:そうですね。まだ調べ足りない情報を残しておくのが怖くて、ランチ記事はリリースされた後も少しずつ手直しを加えていました。
さっきの記事を書き上げた直後に、モーニングまとめの執筆も頼まれたので、すぐにまたその怖さと直面するんですけどね。の執筆も頼まれたので、すぐにまたその怖さと直面するんですけどね。

——似たような記事を執筆することになったんですね。ランチ記事の経験を経て、どのように怖さと向き合っていったのでしょうか。

太田:自信を持って記事が書くには、できる限り一次情報を掴むことが大切だと分かったんです。

それでモーニングのまとめ記事では、お店に極力足を運ぶようにしたり、実際に訪れたことのある友人から話を聞いたりして、情報を掴むよう心がけていましたね。

さすがに1日で4店舗のモーニングを回った日は、ゆで卵とコーヒーのラッシュで気持ち悪くなりました。(笑)

——それにしても徹底的ですね。どうしてそこまでやろうと?

太田:どうせ出すなら、自信を持って紹介できるものを世に出したいじゃないですか。それには自分が好きになったお店をおすすめとして発信するのが一番だと思っていて。

だからこそ自分で足を運ぶ。やっぱり自分の体験がないと伝えられないし、そこに責任を持てないんですよね。

記事を書くのは人の想いや行動、意思決定を後押しする仕事なので、適当なことをやってちゃダメだなと思うんです。

——“書く仕事”への熱意が伝わってきます。今後、IDENTITYではどういう仕事をしていきたいと考えていますか?

太田:読んだ人の幸せな日常を支える記事を書きたいですね。記事なんて1〜2分あれば読めますが、そこから与える影響って結構大きくて。

例えばランチのお店選びなら、それがきっかけでその人の半日が変わることもあるじゃないですか。なので、今年は読んでくれた人の生活が良くなるとか、人生がちょっと良い方に変化する記事を書きたいです。

あとは今年からsoarのマーケティングもやらせていただくことにもなったので、そちらにも注力したいと思っています。

がむしゃらにいろんな経験を積みたい人に勧めたいインターン

いろんな経験をしている人が多くて、一緒に働いてる中で学ぶことが多いです。

——ここまではIDENTITYの仕事についてお話しいただきましたが、IDENTITYという会社にはどのようなことを感じていますか。

太田:名古屋では異質な環境じゃないですかね。名古屋には情報がなかったり、スキルを持っている人がいないから県外に出ないと学べないとよく耳にしますが、IDENTITYは全くそんなことがない。むしろ東京から人も情報も集まってきます。

代表の碇さんは東京のWEBメディアやITベンチャー界隈の人たちと接点が多いみたいで、カツセマサヒコさんのような著名なライターの方を呼んだイベントもありました。

——確かに名古屋でもこういう会社があるということは私にとっても発見でした。一緒に働くインターン生についてはどんな印象を?

太田:一人ひとりに抱く印象が違いますね、キャラが濃い。ゲストハウス経営していたり、スロバキアに留学していた人がいたりして。そういう人って普通は周りにいないじゃないですか。(笑)

IDENTITYに来る前にいろんな経験をしている人が多ので、一緒に働いてる中で学ぶことが多いです。どのような観点で事業の数字を取ったら上手くいくのかとか、エモい表現ができる文章とか。

——確かに経験豊かな学生が多い印象がありますね。ちなみに今後もIDENTITYに関わっていく太田さんですが、どんな人にインターンを勧めたいですか?

太田:がむしゃらにいろんな経験を積みたい人に勧めたいですね。今回はライターについて話しましたが、ライターの仕事だと思って入ったらギャップがすごい。

想像の倍以上は予期しないことが待ってると思います。そういう予想外を楽しめる人には向いているし、逆にそうでない人には合わないかもしれません。

——最後に未来のインターン生へ一言お願いします!

太田:これからも僕はIDENTITYでインターンを続けるので、みなさんのことを待ってます!

IDENTITY名古屋での書く仕事を通して“エモさ”を探し求め、“恐れ”を克服した太田。

真摯に物事と向き合う彼は、きっと他人よりも多くの苦悩を乗り越えてきた。だからこそ彼の手から生まれる記事は、他人の気持ちがわかる優しい言葉で綴られるのだろう。

優しい言葉で紡がれた記事は、どんな読み心地がするのかな?
彼が書きたいと語った“人の幸せな日常を支える記事”が早く読みたいな。

私の胸を待ち遠しい気持ちで一杯にさせる彼の人柄は、本当に魅力的だ。
彼のもとで働く未来のインターン生が、少し羨ましく思う——

文:山下大智

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