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『勝ち』を狙わず『負けない』を積み重ねる。―研究者×起業の戦略―

こんにちは。サイエンスコミュニケーター@イデアラボの井原です。

「10年生き残れる会社は1割しかない」みたいな話,みなさんも一度は聞いたことがありませんか。noteに書くからには…と,根拠になるようなデータを調べてみたのですが,特に信頼できそうなデータは見つかりませんでした。おそらく俗説なのだと思いますが,それだけ起業や経営が大変だということを表しているのですよね。

さて,弊社は「イデアラボ」という会社で,心理学者による研究開発のコンサルティングを提供しています。

工学系やライフサイエンス系なら有力ベンチャー企業も多いですし,投資も集まりそうなものですが,アウトプットが目に見えづらく,地味な正論を貫きがちな「心理学」で起業している民間企業というのは(自分たちで言うのもなんですが)とてもめずらしい存在なのです。

そんな社会の荒波の隅っこの方でひっそりと,イデアラボは創業11年目。会社が10年生き残ることが難しい世の中ということであれば,ひとつ難所はクリアしたことになります。

では我々イデアラボメンバーや社長は生き残りに必死なのかといえばそうでもなく,社員が楽しいと思う研究を,楽しいクライアント達と,楽しいペースで続けていけるような不思議な会社です。

こんなことを言うと,「また〜そんなこと言って〜!裏ではいろいろあるんでしょ?本当はドロドロで大変なんでしょ?」と思われますかね。私も実際に入社するまでは「いや,そういうハッピーな会社みたいなの逆に怖いんで。騙さないでください。」と言っていた身なのでよくわかります。社会って厳しいですから。

社会の世知辛さは否定しませんが,ことイデアラボに関しては,3月から12月までは夏だと豪語して基本的にTシャツと短パンで行動している社長のTwitterの雰囲気がそのまま会社の雰囲気で間違いないです。この人,本当に「今日はエクレア食べるから休む」とか言うんです…。

そしてとにかく合理的で,無駄なルールや,無駄な仕事をとことん嫌っています。自分がボトルネックになるのはダメ,という理由でできるだけ社員に権限を渡していて,やりたいことや買いたいものがあったらSlackで「どうですか?」って聞けばすぐに決まります。(そしてだいたい返事は「いいよ〜」)

2人のお子さんの育児中で,社員の子育てにもかなり理解があります。美味しいものを惜しみなく食べさせてくれます。社員を自由にさせてくれるだけでなく,最後の責任はとってくれる良きリーダーです。

……ちょっと褒めすぎてしまいました。

…。

遅刻魔です(新婚旅行のフライトにも遅れたらしい)。社会性の無いことを平気で言います(有名人になったら炎上するからならないで)。締め切りを守れずいつも社員から怒られています。ふふふ。


さて,前置きが長くなってしまいましたが,今日はそんな澤井が「よく聞かれる質問」を私からぶつけてみたいと思います。こういう形の起業もあるのね,とどなたかの参考になると嬉しいです。

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Q. なんで起業したんですか?

A. 親がサラリーマンではなかったこともあり,自分もいつかどこかで何かをやるだろうと思っていました。心理学の研究は楽しかったし,指導教官がたくさんの企業と共同研究されていたので,ニーズはあるんだろうと。ただ,世の中に心理学の研究を請け負う企業はなかったので,とりあえず社会の仕組みを知るために「3年で辞めます」と宣言して新卒でサラリーマンをやってから,4年目で起業しました。


Q. なにか勝算があったから起業したんですか?

A. 勝算はないです。そもそも勝ちって何?どうなったら勝ちなの?自分1人が食っていく分のお金はバイトでもなんでもすれば生きていけると思っていたので気負わず起業しました。この考え方は今でも同じで,もし年収100万なら100万の生活をするまで…と思っています。

それから,仕事は絶対,WHATではなくHOWだと思っていて。誰かが書いた原稿を読むだけのお偉いさんよりも,空き缶拾いでもなんでもいいからHOWを考えられる仕事をしていたいんですよね。誰と,どうやってやるのかの方が圧倒的に大事。研究者は新しい問いに対して「自分なら“どう”アプローチするか」を考える人なので,HOWを考えるのが得意&好きな人が多いですよね。


Q. 今までで一番,経営的に大変だったことはなんですか?

A. 経営の苦労=お金の苦労はありますかと聞かれたら,それはたまにはあります。特にキャッシュフローのやりくりは大変です。

ただ,経営そのものが大変ですか?と聞かれたら,それは全然大変じゃないです。

経営者は従業員と家族の人生を背負ってる…みたいなことも言われますが,会社が潰れるまで最短でも1ヶ月はあるわけで,その間に最低の保証と再就職先は探せると思うし…。

経営判断が大変か,と聞かれると,そこに悩むことは無いです。一番の判断基準は,会社のためになるか(=長期的に儲かるかどうか)ということだけで,メリット・デメリットも割とはっきりしていることが多いんですよね。会社のためになるか,メリットがあるかというのは,優秀な社員を雇うこととか,社員が長く心地よく働いてくれるかとか,仕事の質を上げることとかそういうことです。なので,その基準で判断するだけですね。


Q. 経営する上で意識していることはなんですか?

A.  無理しない。できないことしない。あと,感情で動かない。とにかく絶対に大事なのは「死なないで生き残る」ことです。

経営を続けていく上では,お金を稼ぐということはもちろん大事なのですが,稼ぐ状況を作る=何かに投資をする,ということなんです。例えば営業マンを雇うとか,広告を出すとか,そこに投資が必要ですよね。「大きく稼ごう」と思ったら先行投資が大切なのですが,賭けだから,大きく損をするかもしれない。そういう状況は作りません。

今の会社の規模で大きく損をすると会社は死ぬわけで,死んだら元も子もないので,「勝ち」ではなくて,「負けない」を積み重ねることを意識しています。とにかくサバイブし続けることに意味がある。勝つのは難しいけど,負けない,なら常に可能性があります。


Q. なんでそんなに自由な仕組みにしてるんですか?

A. 昔から思ってるのですが,「ワークライフバランスを大事にしましょう」って会社が言うのっておかしくないですか?会社はそもそも「ワーク」のことしか知らないんだから「ライフ」に口出しするな,と言いたい。笑

その人のライフの中で何が大切かというのはその人にしかわからないので,ワークとライフのバランスは個人が決めて,会社に宣言するものだと思ってます。洗濯物干したり,夕方の特売に行ったり,いろいろ日中にすべきことはあるわけで。

究極的には,社員が一番パフォーマンスを出せる環境で仕事をしてもらうのが一番会社のためになるんです。どんな環境が一番良いかは人それぞれなので自律的に決めてもらいたい,それが結果的に自由な社風につながってる,という感じですね。


Q. これからどうなっていきたいですか?

A. これもよく聞かれるけど,中期計画とか目標とかは考えたことがないです。計画を立てて,計画通りに行ってる会社ってほとんど無いと思うので,事業計画書を作ったこともないし,融資先の銀行とかにも一切出さないですね。死ななければ,会社が続いてさえいれば,なんとかなる!笑


Q. 会社を大きくしないんですか?

A.  会社は大きく「する」ものではなく「なる」ものだと思ってます。社会的要請があってはじめて「なる」ものだと思うから,大きく「する」っていう(=勝ちを狙う)戦略は今後も取らないです。イデアラボはニッチ産業なので,お客さんが大きく育ててくれるときに大きく「なる」のだと思います。元々は「心理学の知見は企業に活かせる」ということを民間の立場で伝えたいという気持ちはあるので,規模が大きくなることで社会に伝わりやすくなればいいな,とは思っています。


Q. これから先,やってみたい仕事はありますか?

A. これまではクライアントワークが中心だったのですが,ESpeciallyMeという調査システムを開発したので,ユーザーの声を聞きながら自社での事業化を進めています。

あとは,イデアラボのクライアントは優秀で面白い方ばかりなので,将来的にはイデアラボのユーザーコミュニティみたいなものを作って,お客様同士で新たなつながりをつくってもらう場所を作りたいですね。


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…なるほど,社長はこんなことを考えているようです。

起業には決意が必要で,経営には多大なる心労がつきもののようなイメージがありますが,考え方によっては案外そうでも無いのかもしれません…!

最近では学生さんやベンチャー企業に関わる皆様に澤井の起業・経営話をお話させていただくことも増えてきました!(直近では中高生向けに)

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