【連載小説】『お喋りな宝石たち』~竹から生まれし王子様~第一部 第二話「天然石屋の人々」
第二話「天然石屋の人々」
こじんまりとした事務所は、
一階に小さいながらも店舗があり、
二階が作業場になっていた。
社長の祖父の代から続く天然石屋だ。
瑠璃は偶々、
学生時代にここでアルバイトをしており、
就職難もありそのまま社員になった。
当時はまだハンドメイドのブームはなく、
趣味で作る人が立ち寄るか、
専門の石屋が数が足りなくて訪れることが多かった。
考えたら瑠璃も二十年以上ここで仕事をしていた。
近所にも新たなハンドメイドショップが増え、
今ではイベント作家、鉱物女子なる者も、
この辺りを歩いている。
時代が変われば、風景も変わる。
「瑠璃さんは今回もハンドメイド祭りで、
ワークショップ開くの? 」
会社の中でも最も古いパートの持田美津子が、
珈琲を飲みながら聞いた。
彼女は前社長の幼馴染で、
近所に旦那と住んでいた。
子供ができなかったこともあり、
若い頃から七十代の現在もここで、
アクセサリーを作っている。
「一応、お願いされたので、
レジン教室をやります」
「瑠璃ちゃんは昔からハンドメイド得意だからね。
お祭りになると声がかかかるんだよ」
五十代の社長はいまだにちゃんづけだ。
「太一社長、私もう四十ですよ。
いい加減ちゃんづけは恥ずかしいです」
「いいでしょう。俺にとっては二十歳の頃から見てるから、
どうしても学生の印象が消えないんだよ」
太一が笑った。
ここはいずれ、
現在高校生の息子友一が継ぐ予定だ。
まぁそれまで持てばの話だが、
友一も美術学校に通っているので、
継ぐ継がないは別としても、
デザインに関係する仕事に就くつもりなのだろう。
「いっそのこと、資格を取ったらどうですか? 」
翠が言った。
「私天然石は好きなんだけど、
宝石になると綺麗~だけで終わっちゃって、
ダメなのよね。
でも、レジン講師の資格はあるのよ。
こうやってお祭りでワークショップやるから、
持っていた方がいいかなって」
「そうか、私も何か持ってた方がいいか」
翠が考え込むように上を向いた。
「だったらパワーストーンの鑑定士取ったら?
天然石屋にピッタリの資格よ。
ブレスレットも販売してるんだし」
「そうだよね」
太一をのぞいて、
この店で唯一の男性デザイナーの赤坂春木が言った。
宝石デザインの学校を卒業後、
何故かここに就職した珍しいデザイナーだ。
幾つか賞も持っているのに、
ここにいる変わり種で、
友一も春木にデザインを見せにきては、
指導を受けていた。
本人曰く、
宝石より天然石でビーズデザインを考えるほうがいい、
と言っていた。
ここなら自由に作らせてくれそうだから?
それが面接を受けに来た一番の理由だったらしい。
よろしければサポートをお願いします! いただいたサポートは物作りの活動費として大切に使わせていただきます。