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成熟企業のリーダー・マネジメント層がスタートアップから学ぶべきこと

みなさまご無沙汰しております。
久々のnote投稿です。

昨年マクロミルを退職し、製造業の調達(受発注)のプラットフォームを展開するスタートアップであるキャディにジョインし、ちょうど1年が経ちました。↓↓1年前の退職/入社エントリー投稿はこちら↓↓


この1年間は文字通り「激動」でした。カスタマーサクセスから始まり、営業企画の立ち上げや、十数年ぶりに営業プレイヤーをやったり、直近では9月中旬からHR(これも確か8年ぶりくらい)を担当しており、ジョインしてから1年間で既に5職種を経験していますw。

この辺りの回顧録を書こうかとも思いましたが、折角書くなら広く多くの方にとって読む価値のある投稿にしたい。
そう考えた時に、キャディでの1年から私が学んだことを、経験する前の自分のような人、つまり成熟企業のリーダー・マネジメント層の方々にお伝えできると価値があるのでは?と思い『成熟企業がスタートアップから学ぶべきこと』というテーマで久しぶりのnoteを書いてみようと思います。
自社や自部門にブレークスルーを起こしたいと日々奮闘されている成熟企業のリーダー・マネジメント層の方々に参考になれば嬉しいです。

まずは前提となる、スタートアップと成熟企業の基本的な違いについて整理します。

スタートアップと成熟企業の基本的な違い(メタファー)

スタートアップ界隈ではよく取り上げられますが、LinkedIn 創業者のリード・ホフマンは下記の言葉を残しています。

スタートアップとは、崖から飛び降りながら、飛行機を作るようなものである by リード・ホフマン(Linked In創業者)

このメタファーに乗っかって成熟企業との比較を粗く整理してみました。

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補足的にですが、「崖から飛び降りる」という表現は、Jカーブの左側の部分、つまり一定の期間大きな赤字を掘りながら会社を運営することのメタファーであると解釈しています。

この1年間スタートアップで実際に感じた環境の違い

次に、具体的な事象を通じて環境面の違いと一部キャディが経営上工夫していることを書こうと思います。ちなみに、個人的に前職時代の子会社などベンチャー企業の経営に関しては経験がありますが、スタートアップ(大規模な資金調達をして短期間で一気に爆発的な成長を志向する企業)へのジョインは今回が初めてである為、前提としてこの投稿でいうスタートアップは、主にキャディと私が一部周辺で見聞きするスタートアップの話がベースになります。全てのスタートアップが同様とは限らない旨ご了承ください。※但し共通する部分はおそらくとても多いと思います。

実際の環境の違い①スピード感はこれまでと比較して4倍
前職も特に2010年頃までは結構なスピード感がある企業と感じていましたが、キャディでの体感値はそのおよそ4倍程度です。
(以前の)前職では比較的大きい意思決定(戦略の転換や組織変更など)を1カ月単位で実施していましたが、キャディは週単位(=1カ月は4週間なので4倍)で同レベルの意思決定をするスピード感です。
このようにスタートアップの意思決定のスピードが桁違いに速い背景には、その企業特有の価値観や文化・経営者のスタンスの影響以上に、2つの構造的な理由があると考えています。
一つ目の構造的な理由は、解くべきイシューの変化が激しいこと。スタートアップの初期フェーズは多くの場合、成熟企業には存在する「勝ちパターン」を模索している段階にあります。まさに仮の設計図を基に常にイシューを特定し仮説を立て、実行・検証し、次の仮説を立ててまた実行・検証を繰り返すことで勝ちパターンを「探索」していきます。※ラクスル福島さんの下記のnoteにおける「地獄パズル」の表現がこれを物語っています。


スタートアップにおいては、日々の仕事の1つひとつが顧客や事業の解像度を高め、解像度が高まった結果また新しいイシューと仮説が生まれる。このようにスタートアップでは勝ちパターンが確立されていないがゆえに、解くべきイシューや仮説が週次単位、場合によっては日次単位で変化します。解くべきイシューが変化すればそれに応じてやることも変化させなくてはなりません。それがスタートアップの強烈なスピード感を生む一つ目の理由だと捉えています。
2つ目の構造的な理由は、トップを中心とした経営陣の事業解像度が高い(事業環境やトレンドなどのマクロ視点から顧客ニーズや現場Ops課題などミクロな視点まで)ことです。
成熟企業でよくあるのが、意思決定が必要な会議で、担当者がかなり細かく必要な材料を準備して報告しても、本質とは外れた、重箱の隅をつつくような発生確率の低いリスク項目を指摘してその対応を再度検討して持ってくるようにと意思決定を先延ばしにすることがあります。これは報告する側の準備が十分でないケースも散見されますが、主たる原因は意思決定者の事業解像度の低さにあるというのが個人的な感覚です。自分達で口にすることは殆どないでしょうが、シンプルに事業解像度が低いから「これでいいのかわからない、だから決められない」のが本音ではないでしょうか。
一方でスタートアップは、単一事業である場合が多いとかそもそもそ経営陣が事業を起こした張本人であるという背景はもちろんありますが、トップの事業解像度が圧倒的に高いので、多少情報が不足していても類推したり、シャープな質問を繰り返すことで素早く状況とその背景を構造的に理解し、瞬時に意思決定します。それゆえに全体のスピード感が桁違いに高まるのです。

■「改善」だけでは不十分。「改革」の思考と実践が基本スタイル
成熟企業は主には今飛んでいる飛行機をより良くすることが求められます。
つまり、上述したようなこれまでの勝ちパターンなど、ある程度現状を肯定した状態でそこから改良を加えることが主たる思考と行動のスタイルになります。一方でスタートアップは、これまでにない、本当に飛べるかわからない飛行機を仮の設計図を基に組み立てていく必要があるので、そもそも翼の形って本当にこれでいいんだっけ?基盤となるエンジンの設計構造は実はこっちのほうがよいのでは??といったように、常に現状を疑い、時には思い切った否定をして、根本から発想を変えて作り替えることがより強く求められます。
もう少しビジネス的に表現をすると、例えば、顧客にサービスを提供するバリューチェーンのある特定の業務をアウトソースすることでコストを削減しようという「改善」は当然重要ですが、そもそもサービスを提供する顧客自体をスライドすることでその業務自体を不要にしてしまう「改革」を行う方がより重要になることが多いということです。
とはいえ、人間は何となく現状の延長線上に走りがちな生き物。
そういうバイアスを意識的に打ち破る為にか、「大胆」という言葉をバリューに入れて組織運営しているスタートアップが多いように感じます。
キャディもバリューに「もっと大胆に」を掲げ、毎日ゼロベースでの思考とそれに基づく会話が繰り広げられていますし、トップからもそういう会話を発生させる為の問題提起が常になされたり、評価制度にも組み込まれていることで、大胆な改革の思考と実践はもはや文化になっています。

■フォーカス!!フォーカス!!フォーカス!!
言うのは簡単ですが、徹底することが非常に難しいのがこのフォーカスです。下記の記事でも言及されていますが、人は「自分が解決法を理解している問題」を解決しようとしがちです。

優先度の高いA+の問題は自社にとって大きな影響を及ぼすものの困難な問題であり、すぐに解決策を打てるものでもないことからどうしても先延ばしにされてしまう傾向があります。
それを理解して意識的に重要度の高い問題へのフォーカスを徹底できる仕組みを作ることは、スタートアップにおいても成熟企業においても非常に重要なポイントです。
ただし、機体があって既に順調に飛行している成熟企業はこのフォーカスを大幅に間違えたり先延ばしにしても比較的余裕を持って軌道修正が可能ですが、スタートアップのそれは、エンジンの設計を大幅に間違えたり、組み立てが遅れることにより墜落に直結する可能性が高くなります。
だからこそスタートアップはフォーカスをどう徹底するかに必死になる必要があります。
キャディでは、リーダー以上は必ず毎週月曜日の朝のミーティングで現状の全社・自部門に対する課題提起とそれに伴うフォーカスポイントを持ち寄って議論します。そこで今週自分達がフォーカスすることを決めます。中でも特徴的なのは今週「捨てること」についても個々人が具体的に宣言します
何をやって・何をやらないかを明確にすることでフォーカスの徹底に努めているのです。

ここまで、スタートアップと成熟企業における環境の違いと一部キャディが工夫しているポイントについて記載しました。
※実態は他にも複数違いが存在しますが書き切れないので一部をピックしました。他の違いにも興味がある方やキャディの具体的な工夫について更に深く知りたいという方がもしいれば直接お話できればと思いますので、個人的にご連絡ください。

以上の内容を受けて、最後に本題です。

成熟企業がスタートアップから学ぶべきこと

こちらも沢山あるんですが、今回は4つに限定したいと思います。

①既存事業・サービスの『非連続な深化』を狙う
事業マネジメントの観点でよく言われる「知の深化と探索」という概念があります。深化と探索を高次元でバランスさせて継続的なイノベーションを実現するというものです。「深化」とは、既存事業をより深めていく活動です。KPIを設定しその達成の為に絶え間ない改善を繰り返すことを指します。「探索」とは、新しい市場の開拓や事業創造に向けて、実験を通じた組織能力を拡張させる活動を指すのが一般的です。
※参考記事 入山先生の「イノベーションが止まらない「両利きの経営」とは?」


この概念が語られる際に、深化については「粛々とKPI改善に勤しむ」などと表現されることが多く、どちらかというとスポットライトが当たるのは「探索」を具体的にどう実現するのか?になりがちかと思います。
私も前職在籍期間の後半はずっと事業開発を担当していて「探索」ばかりを突き詰めていましたが、キャディに入って「非連続な深化」を意識的に設計することの意義の大きさを実感しました。
キャディでは、普通に考えたら絶対に実現しないであろうことをOKRなどのフレームの中で目標として置きます。例えば(正確な目標はここでは記載できないので少し抽象度を上げてのイメージレベルになりますが)、納期遵守率100%などがそれに該当します。100%なんて不可能だし、例えまぐれで瞬間的に実現したとしても再現性がないと思うのが通常の反応だと思います。しかし、その再現性を最初は考えずに、めちゃくちゃ人手を掛けても、めちゃくちゃおカネを掛けてもいいからとにかく無理矢理にでも一旦実現してみる。実現してみた結果、顧客が一気にファネルアップするとか、リピート率が劇的に改善するとか、大きな経営インパクトが出るのであれば、それを再現性ある仕組みとして担保する為の投資を後から考えるというやり方をします。
つまり、最初から「粛々と進める深化」ではなく「非連続な深化」を狙うのです。
成熟企業はこれまでの成功例や失敗例の言わば教師データとなるものが沢山蓄積されています。だからこそ「奇策はない。粛々と日々を積み上げて深化する」という論理的に考えると正しいと思える目標や打ち手に収束しがちです。スタートアップの教師データが少ないがゆえに実行できる大胆な事業マネジメントを参考にしてみてもよいのではないでしょうか。

②(上層部ほど)事業解像度を上げる
成熟企業においては、何故か経営陣だとしても事業解像度が恐ろしく低い、そして更に、そこに少しの危機感もないことが往々にしてあります。
外部から招聘されたCFOだから財務が分かっていればいい、CHROだから人事がわかっていればいいetc...というスタンスの人が驚くほど多いのが実態かと思います。しかし、経営として意思決定をする際には自分の専門領域の知識や経験があるだけでは当然精度の高い意思決定はできません。
創業したアトランティスをグリーに売却し、Gunosyの代表もされていたあの伝説の起業家・投資家である木村新司さんも、経営に必要な要素を以下の3つの言葉にまとめていて、一番最初に「事業の解像度」を挙げています。

木村新司さんによる「経営(マネジメント)に必要な3つの要素」
・事業の解像度
・命令を減らす為の仕組み
・努力を継続できる方法論

経営陣が事業の解像度を持つべし!というと現場で起こっていることを子細に理解すべきという話が強くなりがちですが、事業の解像度とはそれだけではありません。
置かれている環境の変化や世の中のトレンド・潮流への深い理解などマクロなものから、顧客のニーズや提供価値、現場のOps課題などのミクロなものまでを全て含めて事業解像度だと言えると思います。
この事業解像度を高める為に大事なのは対話です。投資家や業界の専門家、他企業のマネジメント層、顧客、パートナー、従業員などとの対話する時間と密度を上げる(=広く・深く対話する)ことに尽きます。
スタートアップは成熟企業と比較すると圧倒的に人的リソースの余裕がありません。それゆえに個々人のやるべきタスク量は莫大なものです。それでもこの対話の機会と時間を意識的に確保することで事業解像度を高めています。個人的な観点でも、顧客への訪問や従業員との1on1も前職の頃より意識的に増やしています。
より精度高くよりスピーディな意思決定が求められる会社のマネジメント層こそ、事業解像度を徹底的に高めるべきだと思っています。
もう経営会議で意思決定を先延ばしにするのは止めましょう。

③企業文化づくりとその浸透に投資する
「企業文化が大切だ」という言葉はよく聞くが、それが何故大切なのか?どういう効果があるのか?を明確に認識している人が少ないように思います。
元ZapposのCOOで現在世界的な投資ファンドSequoia Capitalの・Alfred Lin(アルフレッド・リン)氏は企業文化が大切な6つの理由をFASTERという言葉で定義しています。

First principles:何かを決定する時に第一原則となる
Alignment:チームの足並みを揃える基準となる
Stability:安定性を生み出す
Trust:相互信頼を生む
Exclusion:誰を手放すべきかを明確化し
Retention:誰に残ってもらうべきかを明確化する

ある意味上述した木村新司さんの言葉にある「命令を減らす為の仕組み」とも重なるのですが、要するに、誤解を恐れず一言で表現すると「マネジメントコストを最小化する」為に企業文化は重要だと個人的には捉えています。
スタートアップは崖から飛び降りながら飛行機を組み立てており、事業をFlyさせる為に必死です。そんな時に何かを決定する時の原則の共通認識がなく決定が遅れたり、チームの足並みが揃わなかったりするのは致命的です。
キャディでは、企業文化をカルチャーブックとして明文化したり、社内でカルチャーを浸透させる為に定期的なセッション等が開催されています。
※参考:キャディのカルチャーブック

成熟企業に限らず日本企業全体において、この企業文化に細かく気を配っている企業は少ないと言われています。また、特に成熟企業では、ある程度安定した飛行が続けられる機体があるがゆえに、上述のマネジメントコストを一手に担い諸々の組織課題に場当たり的に対応することでそのポジションを確立している人がいますが、本質的には企業文化の構築・アップデート、浸透に明確に投資をすることで、そもそもマネジメントコストが殆どかからない状態にすることが肝要ではないでしょうか。企業も個人も、もっと事業に・顧客に向き合う時間を増やさないと益々激しくなっている競争環境を生き抜けないのではと思います。

④評価基準を上げる
長々と書いてきましたが、最後が全ての土台になるものだと思っています。
ここまで成熟企業がスタートアップから学ぶべきこととして、3点を挙げましたが、それを実現する為に行動レベルで変えなければならないことを以下に明文化してみました。

・既存事業の『非連続な深化』を狙う ---> 大胆な目標にトライする
・事業解像度を上げる        ---> インプット量を拡大する
・企業文化づくりと浸透に投資する  ---> 事業に徹底して向き合う 

言葉で書くとシンプルですが、成熟企業の中で実際に実行に移すのは中々難しいのではないでしょうか。これをやるべきだ!と声高に号令を掛けるだけでは成果は得られないでしょう。
そこで明確に評価基準と連動させる(=上げる)ことが必要です。
本気で自社や自部門にブレークスルーを起こすならここは避けて通れません。全社に一気にはどうしても・・・という場合は、まずは上層部から変えていき徐々にステップを踏んでいくのが良いと思います。
または、百聞は一見に如かずで、将来を期待している人材を、崖を飛び降りながら飛行機を組み立てようとしている痺れるスタートアップの環境に飛び込ませて(出向させて)実経験を積ませてみることから始めるのもありかもしれません。
そういうニーズが一定あるのであれば、キャディとしてもそういう将来有望な成熟企業の幹部候補を受け入れる制度など積極的に整備していきたいと考えていますので是非ご連絡・ご相談ください。

ここまでの長文を最後まで読んでいただき、有難うございました。
是非積極的にスキとコメントをお寄せください。
今回の投稿はひとつの「叩き」だと思っているので、こちらをベースによりよい経営、事業、組織の作り方をディスカッションさせていただき、もっと高いレベルに昇華させていきたいと思っております。
是非ディスカッションしましょう!!

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