[舞台感想] セツアンの善人
概要
「三文オペラ」で教科書に出てくるブレヒトの寓意劇。神様が地上で見つけた善人が主人公のシェン・テ。彼女が、貧しい村の人達から搾取されたり自身の幸福を追求したりするのと善人でいることを両立させるために解決策を編み出したものの、それに引き裂かれる中で果たして善人とは、を問い続けるものの神様は答えを与えない、というストーリー。繰り返し上演されているようですが、今年は葵わかなが主人公、その恋人でトリッキーな役割を果たすのが木村達成で好演。ちなみにrecriのお試しでチケットを入手しました。
感想
とても見応えがある舞台で、まぎれもなく観て良かったし、人に勧めたい作品です。テーマも設定もセリフも、ペットボトル投げまくるのも。そして何よりビジュがとてつもなく良いのです。水売り役の渡部豪太で絶対つなぎが着たくなるし、ペーパー飛行機乗りの木村達成であのもふもふ飛行帽をかぶりたくなる。が、あのスタイルは持ち合わせていない。シェン・テのウェディングドレスはもはやアイドルの卒業公演だった。歌ものびのびと強かったし、アナスタシア観たかったなあと。
ただ、なぜだか屈託なく「面白かった!」とならなかったのがなぜだろうと自問し続けている。一つは、緩急があまりないというところかもしれない。笑いで会場が湧いたり、そこから一瞬にしてグサッと刺してくるとか、ヒートアップするのとじわっとするのとか、そのアップダウンがあまりないせいか、繰り返し似たトーンで出てくる「お金がない。生きていけない。」的なセリフがちょっと辟易してきて、もうわかってますって、とつい心の中で突っ込んでしまうことも正直ありました。
あとは、キャラクターに生身感がない?せいかとも。演技じゃなくてブレヒトの作品の特徴なのだろうと思うけれど、極端な言い方をすれば、この状況に放り込まれたらこの反応をするよね、といったインプット・アウトプットだけが見えるような感じがしたわけです。Enemy of Peopleでは医師にもその娘にもがっつり感情移入してしまえたのに対して、主人公すら感情が、セリフで話しているようでいて実は話していないのではないかと。それか、どのキャラも逆に複雑すぎてコントラストがないか。いうて完璧な善人はいないものの、ただ怠惰でそれも諦めからくるものであって、悪人も特にいない世界という印象。
もう一つ要因として思ったのは、観客の何とも言えない緊張感。勝手な思い込みかもしれないけれど、推しや贔屓を観に来た、エンタメに来た、といったワクワクキラキラの浮ついた空気感とは全く違う、全員審査員のような、Gメンのような気合いが感じられたのは何だか新鮮だった。リピーターも多かったのかもしれない。
箱
世田谷パブリックシアターはとても良い箱でした。劇場内撮影できないのが残念だけれど、ロビーからの導線、割と余裕のある客席の幅、シートの座りやすさ、ラウンジの豊富な椅子の数、トイレの数、全てが無駄がなく行き届いている心地のよさ。谷九の老舗カレー屋のような。こういうのを求めてるんだよ、とオーブやブレリアに言いたいわけです。