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第1章 親が離婚した子どもへの支援システムとしての学校の役割

この文献はオープンアクセスです。原題名、原著者名は以下の通りです。
掲載書:Electronic Theses and Dissertations. Paper 704. https://dc.etsu.edu/etd/704
原題名:The School's Role as a Support System for Children of Parental Divorce.
原著者:Constance Myers

第1章

序論

 リリーの両親が離婚したのはリリーが6歳の時で、その同年にリリーは1年生になった。家庭の状況は最悪だった。父親は家を出て行き、たまに戻ってきては母親と激しく言い争い、その後に去っていく行為を繰り返していた。父親がいなくなったとき、リリーの母親は落ち込んで、殆ど一日中ベッドで寝ていた。リリーは学校ではネズミのように静かだったが、それは良い意味でではなかった。彼女は往々にしてぼんやりとしているように見え、ちょっとした事ですぐに泣いていた。彼女はどんな間違いでも取り乱し、完璧な自分さしか認めなかった。
 誰がリリーを助けるのだろうか?母親は自分の問題に圧倒されすぎていて、助けがなければリリーを助けることができないようだ。学校が第二の親として行動するよう求める圧力は絶えず高まっている。公立学校は離婚した子どもの支援システムとして介入する用意があるのか?もしあるなら、学校はこの責任に対処する準備がどの程度できているのか?

問題の記述

 Fagan & Rector (2000) によると、「過去半世紀にわたって離婚は大幅に増加した。1935年には、100組の結婚につき16件の離婚があった。1998年までに、離婚件数は100組の結婚につき51件にまで増加した(p.3)」。Divorce Magazine.Com (2001) の記事の統計は、次のように述べている。

  1. 1998年、アメリカには1940万人の離婚者がいた

  2. 初婚の50%が離婚で終わる

  3. 毎年250万人が離婚する

  4. 毎年100万人の子どもが離婚する

  5. 1998年には、ひとり親と暮らす18歳未満の子どもが2000万人いた

  6. 統計によると、父親のいない家庭では、成人後に離婚する子どもが50%多く、若者の自殺が63%、ホームレスや家出の子どもが90%、行動に問題のある子どもが85%、高校中退者が71%、若者が刑務所に入るのが85%増える(pp. 1-5)

 離婚は子どもにとってトラウマになる可能性があり、情報によると、そのトラウマが適切に処理されなければ、子どもの人生に永久的な傷を残す可能性がある。Zill (1983) によると、精神病院に入院する青年の 3 分の 2 は離婚した親の子どもである。
 離婚する親の中には、子どもに必要な支援を全て提供できない人もおり、社会福祉機関や外部のリソースに支援を求めることがある。殆どの子どもは、毎週目を覚ましている時間の約3分の1を学校や学校関連の活動に費やしている。学校でのこの時間に、子どもは教育者や社会の価値観に触れることになる。親以外の人々の意見や期待は、様々な態度や価値観に基づいた子どもの自己概念の形成に役立つ。では、子どもの親が離婚する際に、学校はどのような役割を果たせるのであろうか。
 Wallerstein & Kelly (1980) は次のように書いている。

この国の家族政策は、まだ生まれていない将来の子どものために家族計画サービスを提供するという国の責任を認めているのに、子どもが生まれた後に生じる問題の殆どを親が対処するに任せている。これは奇妙な現象である。恐らく、より現実的な家族政策、即ち、アメリカの家族の予想される変容と変化の降伏点とに対処する政策が必要な時期が来ている(p.317)。

 Benedek & Benedek (1979) は、「必要な支援の性質と量については確かに大きな相違があるが、両親が離婚した子どもの全てが、一定期間、少なくとも何らかの支援サービスを必要とすると私たちは信じている」と同意した (p. 157)。
 離婚プロセスの間、継続性と安定性を感じられるかどうかは、学校のような家族以外の支援が利用できるかどうかに左右される可能性が高い (Wallerstein & Kelly, 1980)。Price & McKenry (1988) も、両親が離婚している子どもの適応を促進する上で学校が果たすことができる重要な役割を指摘した。Wallerstein & Kellyは、離婚について知らされた教師やカウンセラーが示した気遣い、同情、寛容さが、家庭で精神的に栄養不足を感じていた多くの子どもに支えを与えたことを学んだ。彼女らの研究では、両親の離婚後の数か月間、特定の教師が子どもの生活の中で中核をなす安定した人物になった。Wallerstein & Kellyの研究により、学校には両親が離婚した子どもに介入する義務があると主張されてきた。しかし、多くの親、教師、管理者は、離婚という話題を持ち出すことや、離婚している親を持つ子どもを支援することに抵抗を感じている(Price & McKenry)。
 研究者は、殆どの子どもが親の離婚で何らかの感情的障害を患うことに注目し(Wallerstein & Kelly, 1980)、このため、教育現場でこのような子どもに影響を与える問題を研究してきた。著者らは、親の離婚を経験した学齢期の子どもが学校でどのように支援され得るかを文書化している。しかし、教師やカウンセラーが、親が離婚した子どもへの対応を学校の責任と見做しているかどうかは明らかにされていない。そこで私は、離婚した親を持つ子どものための支援システムとしての学校の役割についての研究を提案した。
 本研究の目的は、親が離婚した子どもに対する支援システムとしての学校の役割を、親、担任教師、スクールカウンセラーがどのように見ているかを明らかにすることだった。本研究では、学校に通う子どもを持つ離婚した親からの介入と提案についての意見も調査した。本研究では、次の質問をすることでこの目的を達成しようと試みた。

  1. 親が離婚した子どもと関わるにあたって、担任教師とスクールカウンセラーはどのような、またはどの程度の特別なトレーニングを受けましたか?

  2. 担任教師とスクールカウンセラーは、離婚介入は学校職員の責任であると考えていますか?学校職員の責任であると考えているのであれば、その理由は?

  3. 親が離婚した子どもと関わる際に、教師とスクールカウンセラーは現在どのような介入やアプローチを実施していますか?

  4. 担任教師とスクールカウンセラーが離婚した親を持つ子どもにサービスを提供しようと試みる際に、それを妨げる最大の障害は何ですか?

  5. 親が離婚した子どもへの介入と支援は学校の責任であると、親は考えていますか?学校の責任と考えているのであれば、その理由は?

  6. 介入が必要であると親が同意した場合、子どもの離婚への対処を支援するために、親は学校に対しどのような提案をしますか?

 「キー・インフォーマント・インタビュー」は、「研究者が通常は入手できないような特別な知識や認識を持つ個人から、インタビュアーがデータを収集」して行う(Gall, Borg, & Gall, 1996, p.306)。研究者は、基準サンプリングを使用して、東テネシー州の田園の郡から、研究に参加する担任教師、スクール カウンセラー、および親を選択した。

研究の意義

 2000年には、テネシー州で 33,842 件の離婚が認められ、全国で毎年100万人を超える子どもが新たな離婚に巻き込まれている(国立健康統計センター, 2001)。これらの統計は、このサブグループの子どもが今後も学校人口の大部分を占めることを示している。離婚の状況に巻き込まれた子どもへの影響を認識することは、学校にとって非常に重要になる。
 離婚手続きが完了するまでの間、家族に対する社会的支援が不足しているのが一般的である。Wallerstein & Blakeslee (1989) は、他の家族の危機とは異なり、離婚手続き中は社会的支援が失われる傾向があると指摘した。家族の死は他人からの慰めをもたらし、自然災害でさえも人々が支援の手を差し伸べる。しかし、離婚の問題になると、友人の中にはどちらかの側を選ばねばならないとか、自分には関係ないことだと考えて、恐れる者もいる。
 このような子どもが経験している感情的支援の欠如は、学校を通じて介入を提供することで改善される可能性がある。学校は養育のリソースとして重要な役割を果たす可能性がある。介入は、学校が子どもの効果的な対処を支援し、離婚危機への子どもの適応を促進するための主な方法であるかもしれない(Freeman & Couchman, 1985)。
 Ourth & Zakarija (1982) は、「問題を抱えた子どもは学習が危険に曝されている子どもである」と述べている(p.33)。学校は、そこで過ごす時間のために、親の離婚から生じる可能性のある問題を認識し特定する場所になり、それ故介入を開始して実施するのに適切な環境を提供する。Wallerstein & Kelly (1980) は、1980年に実施下研究を通じて、親の離婚に巻き込まれた子どもが経験する変化を特定し、両親が離婚した子どもに見られる幾つかの特徴的な反応について言及した。彼女らの研究は、「充足感により、若者はバランスのとれた理解の文脈で離婚の出来事に対処することができた。対照的に、剥奪感は離婚を継続的な不幸の観点に置いた」(p.192) と示した。研究者は、離婚はトラウマ的な経験である必要はないことを示唆した。彼女らは、離婚を定義付けられる子ども、離婚を理解できる説明を受けた子ども、友人と近況を共有した子ども、離婚のおかげで強みと責任を獲得できたと見做す子どもは、好ましい適応ができる可能性があると判断した。親の離婚に対する子どもの適応に影響を与えるこれらの要因は、直接的介入と間接的介入の両方に意味を持つ。

用語の定義

離婚(Divorce)。本研究で使用している「離婚」という用語は、少なくとも1人の子どもが関与し、継親または継子が関与しない、2人の成人による婚姻の法的解消を指す。
離婚介入(Divorce Intervention)。本研究で使用している「離婚介入」という用語は、両親が離婚した子どもが離婚に伴う問題に対処するのを支援するために、学校の場で使用する個人的たは集団的な手法を指す。
両親が揃った家庭(Intact Family,直訳:健全な家庭)。本研究で使用している「両親が揃った家庭」という用語は、2人の実親と1人以上の実親間の生物学的子どもと1つの家に一緒に住んでいる家庭を指す。
研修(Training)。本研究で使用している「研修」という用語は、知識のある情報源を通じて得られる、担任教師とスクールカウンセラー向けの正式な研修のみを含む。

本研究の限界

 本研究は、個々の担任教師とスクールカウンセラーが、両親が離婚した子どもとの関わりの中で感じたこと、信念、経験を正確に語ることを当てにしていた。親に起因する限界は、親が離婚に関連する個人的な問題についてオープンに話し合うことを前提にしていたことである。参加者の客観性は、各参加者の公平性と離婚と子どもに関する経験次第であった。インタビューの前に、各親、担任教師、スクールカウンセラーは、研究者がスクールカウンセラーであることを認識していた。即ち、本研究は、研究参加者が研究者の職業を(スクールカウンセラーであると[訳者補足])認識しながら、離婚における学校の役割について感じたこと、信念、経験を正確に語ることができるという仮定を前提としていた。

本研究の制限

 本研究は、東テネシー州の田園の郡の学校のスクールカウンセラー、担任教師、親に限定している。得られたデータの分析は、本研究で使用した集団にのみ一般化できる。

本研究の概要

 本研究の第1章には、序論、問題の説明、研究の目的と意義、制限、および研究の概要が含まれている。第2章には、関連する文献と研究のレビューが含まれている。文献レビューには、子どもと離婚に関する統計の概要、離婚が子どもの生活に与える影響(影響がある場合)、両親が離婚した子どもへの介入において学校の教師やカウンセラーが果たす役割が含まれている。第3章では、本研究で採用した方法論と手順について説明する。第4章には、研究結果の提示とデータの分析について説明が含まれている。第5章には、研究結果、概要、実践に向けた推奨事項、および更なる研究に関する推奨事項に関する研究の概要が含まれている。

[訳者註]キー・インフォーマント・インタビュー Key informant interview
キー(重要な)インフォーマント(情報提供者)に対するインタビュー(直接の聞き取り)である。人類学では、研究対象となる社会、文化の一員であり調査者が知りたい事柄に精通し、概念、言語、世界観、具体的事例などに関して口述で詳細な表現ができる人のことを指す。キー(核となる重要な)という言葉から研究対象地域で、地域リーダー、教師、医療スタッフなど、社会的役割を担っている人という意味で誤用されている時があるが、本来は調査のトピックに関して知識がある重要な情報を持っているという意味でのキー・インフォーマントである。実験における被験者、心理学研究における被験者、質問票を使う社会調査の回答者と異なる点は、元々長期にわたり調査地域に入り込みフィールドワークを行う研究者に対して、現場において研究者と密接に接触し情報提供を行うことである。そのため、ラポール(友好的な人間関係、信頼関係)の構築が必須である。また、原則的にはこの様なインフォーマントから十分な情報を得るためには、一度のインタビューでは十分でないため、複数回のインタビューを重ねる必要が出てくる。通常、構造化インタビューではなく、調査トピックの大まかな枠組みの中で自由且つ臨機応変に質問を行って、インフォーマントやその周辺の人々の考え方、価値観、意見などに対して内容を深めながら聞き取る方法である。その意味ではキー・インフォーマント・インタビューとIn-depth-interviewとほぼ同義語といえる。(日本国際保健医療学会HPより)

(了)

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