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逆噴射小説大賞2019 投稿作私撰集(31作品)

 ほぼタイトル通りなので特に前置きで語ることがない……。作者一人につき一作、スキをした記事から遡っているので投稿日は順不同、個人的趣味で選んでいるのでジャンルの偏りが激しい──これくらいだろうか。
 さっそくいってみよう。

1:マグマに咲く花 ディッグアーマー=サン

 なんの説明も無しに異様な単語が並べ立てられ、さも当然でしょといった感じに話は進む。しかし異様さの中に郷愁を覚えるのは何故だろう。色彩と香りという人の根源的感覚を揺さぶる描写に優れているからかもしれない。

2:まなこの魔女 ゆべしちゃん=サン

 クリミア戦争。瀕死の兵士。思い出すのは、まなこの魔女の記憶。
 魔女の描写が最高に気味が悪くて素敵です。きっと美人。

3:悪党の対歌 三宅つの=サン

 人間のクズと人間のクズが交差する時、物語が始まる!
 だがクズなりに絆も感じさせる作者のワザマエの高さが光る。

4:ロータス・イン・ディストレス azitarou =サン

 ファンタジーなのか、ホラーなのか、はたまたミステリーなのか。ゴシックな文体と硬質な設定が、いずれのジャンルでも極上の読書体験を約束してくれている。

5:新約:バベルの塔 エーイチ / 羊P=サン

 最も新しい世界祖語が崩壊した世界で、舟を編むならぬ魚を獲るお話だ。映像化不可能と言われるタイプの小説だが、ぜひアニメで観てみたいものだ。

6:異類流離譚/仁の章 鮫島=サン

 不穏である。この儚げなヒロインが人の皮を被った化生なのか、はたまた何か妖が近づいてきているのか。最後の一文でぞくりとさせられた。

7:惑星占有8人委員会の崩壊 ドント=サン

 最狂の生徒会長選挙が始まる! 宇宙ワニ! 超巨大学校! 校舎の番号で決まるヒエラルキー! 君は生き残ることができるか!
 なんとなく田中哲弥の「ミッションスクール」を思い出した。最終的に爆発しそうだなこの学校。

8:虹の干潟のアーダイド 氷谷八尋=サン

 こういう頭から爪先まで美意識を貫徹させたSFは面白いより先に「美しい」が来てしまう。錆塗れの敵、油膜浮かぶ海、空を舞う「アーダイド」。不協和音が一切無い。

9:エスコートの流儀 ジョン久作=サン

 カッコ良すぎる。タイトルと本文の相乗効果が最大限に現れている。最強ババアを書かせたら右に出る者無しの方であるが、更に磨きがかかっていると感じた。

10:The last day of the 90's dream 鬼瓦権三=サン

 90年代ノスタルジー溢れる一編だ。といっても自分はゲーセン通いをほぼしなかった人間なのだが。それでもあの時代特有の空気がむせ返るほど溢れているから、読んでいて目尻が熱くなってしまう。

11:有権者八百万九十九の独裁 お望月さん=サン

 8億の票田だの殺人コンパスだのに目を奪われがちであるが、代打部is何?
 しかし遅刻しそうな時間でも2億は寝ててもいいと言ってくれるナノマシンは優しいなあと思いました。

12:サイバネティクス剣術抄「火中に舞うは異形剣」  棺桶六=サン

 果心居士×平賀源内=サイバネ外骨格。人でありたいと願いながら外法に頼らざるを得ない復讐者。しかもバディもの! 幾らでも続きが書けそうだし、幾らでも読めてしまうだろう。

13:界層の王と放逐者たち j_ou no=サン

 まず書き出しで殴られる。それ以降、全ての文が明瞭に脳内で像を結ぶ。界層の王とやらも放逐者も出てこないが、ものすごく相応しいタイトルだ。風格がある。

14:ソル・セル・サル イベリコプター=サン

 これも異様な単語が飛び交う西島伝法とか小林泰三系のお話だ。読めば分かるが、いや分からないが、タイトルは割と内容そのままで、思わず口に出したくなる。

15:死の翼ふれるべし マツモトキヨシ=サン

 完全に19世紀ロンドンなのだが、建ち並ぶピラミッド群が完全にエジプトである。探偵たちの巨大墳墓、シャーロキアン秘密教団、墓暴き、そしてタイトル。ややエジプトが勝ち気味な気がする。
 浪漫と浪漫が組み合わさればそれ即ち傑作であり、この小説もどう転んでも面白くなるルートしか残されていない。

16:現役ヤクザが教える最高に気持ちいいケジメの付け方 高柳総一郎=サン

 この小説をピックアップすることに異存はないのだが、紹介してしまって良いものか悩んだ。人類には早すぎるからだ。
 タイトルに偽りはない。

17:第五背板市 NNNNNNN=サン

 かなり刺さった作品。砂漠を征く大百足。背中に巣食う蟻たち。生き残るために、殺し合う。
 嗅いだこともないのに蟻の油の臭いが鼻先に漂ってくる、そんな乾いた小説。

18:御筆一筆、仕りて候 タイラダでん=サン

 引き算の美学。色彩を限定することでこちらの脳裡に容易に情景を投影する。そこに一石投じるだけで、世界が歪み脅威と驚異が立ち現れる。スタイリッシュしかない。

19:クトディガリヌの告解 バール=サン

 読むドラッグ。暗黒神話。不潔と腐臭と浮腫と不審に塗れた都市描写を読むだけで貴方は気が滅入ってくるだろう。扉が閉まる、それだけなのに後を引く不穏さが凄い。「厭」に満ちている。

20:日もまた一星に過ぎず mktbn=サン

 ドラッグの量をKBで表すだけでここまでクールになるのはもはや発明では?
 謎の正義の味方。正義の味方が現れなかった男の死の真相。なにやら意味深なタイトル。サイバーパンクな世界であえて無改造な主人公。気になるポイントも盛り沢山だ。

21:ヴァーディクト・ブレイカー 遊行剣禅=サン

 やっぱり神様なんていなかったね。
 いるさ! ここに一人+一機な!
 シンプルイズベスト。救世主はカッコよくなくてはならない。

22:聖職者は言った、「死ね」と  アロハ天狗=サン

 ソ連残存ルート+ゾンビ+殺人神父という役満。タイトルで裏ドラも乗ってる。果たして「Z」に向かって言ったのか? それとも……。

23:陰陽師、修繕屋と宴す 夏川冬道 orange soda float=サン

 賑やかな機工街の描写が良い。オカルト+スチームパンクなんて絶対ワクワクしかない。きっととても騒々しい未来が主人公を待っているだろう。

24:DOPEMAN ishiika78=サン

 投げやりでも、めんどくさくなったわけでもないが、語れることがない。完璧すぎるからだ。ディスイズパルプ。えらい人たちは映画化権を青田買いしておいた方がいい。

25:怪奇一家 ウナーゴン=サン

 幻想的で悪夢的な書き出しから一転、いきなり終末物のSFになり、そして最大級の衝撃を食らうラスト。なんなんだろうこれは。分からないが、一つ言えるのは、きっとカンフーマスターは強い。

26:尸解帝廟弑逆録 ししジニー=サン

 タイトルのインパクトが強い。漢字の圧が迫ってくる。内容は更に濃い。不死が実現した架空中華帝国「棺」。不死人犇くその帝国の皇帝は意外にも穏やかだが……。発想と知識のスケールが違うなあとただ感嘆する。

27:根源のヴィリャヴァーン しゅげんじゃ=サン

 世界がそこにある。輝柱が天空に坐し、炎と花が舞う、こことは違う世界が。風景すら異語で描写されるが、それは異世界を語るために必要なことだと、すんなりと受け入れられる。

28:人よ、竜の手を引いて ビーバーの尻尾=サン

 憧憬。かつて人と在った竜を探しに行く、探索浪漫行だ。エモーショナルで柔和な竜の説明に挟まるプロフェッショナルで硬質なセリフの対比も完璧だ。

29:上海ギャングスター 深瀬ねむみ=サン

 1927年の上海なんて見たこともないが、完全に意識が92年前の中国へと飛ばされる。猥雑で汚くて臭くて治安は最悪のギャングスター誕生にはおよそ理想的なその場所へ。文章力のおかげで解像度が異様に高い。

30:シュガー・シュガー・マッドネス とう腐=サン

 おかしと狂気。文字通りおかしくなっちまったってか!
 ……殺伐とした世界に舞い降りたMLPめいたなんかを相棒に、ギャングの男が謎の事件に立ち向かう。バディものの組み合わせキャラを少しズラすだけでこうも奥行きと広がりを生み出す手管に脱帽した。

31:阿修羅の少女は蒼穹に翔ぶ むつぎはじめ=サン

 阿修羅ガール! いや舞城王太郎のアレとは全然違うのだが。
 用語の一つ一つまで丁寧に設定していて深みがある。百合SFになりそうだが血と硝煙に塗れそうでもある。

未来へ……

  思ってたより数が多くなってしまった。同作者一作の縛りがなければ更に増えていたのは確実である。投稿作品は全体的に質が高く、熱せられた火薬のような熱量を保持していた。
 改めて逆噴射小説大賞2019を開催してくださったDHTLSの方々に感謝したい。
 現場からは以上です

 こっそり。これは私の投稿作です。


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