生成AIで作る思考のドリル
ICT×インクルーシブ教育セミナーvol.7が終わりました。書きたいことは山ほどあるのですが、まずは自分の公開授業について。
「想像力のスイッチを入れよう」
今回の授業の単元は5年国語の「想像力のスイッチを入れよう」(下村健一)。非常にざっくりまとめると、「メディアの情報を受け取る時、思い込みを防ぐために『想像力のスイッチを入れる』ことが私たちのすべき努力である」ということが書かれている説明文です。国語では定番教材の一つと言っていいでしょう。
発行元の光村図書のWEBサイトには作者である下村健一さんのインタビューが掲載されています。
その中にこんな発言があります。
それはそうだろうな、と思います。教科書の文章を読んで理解しただけではなく、初めて目にする文章についても、ここで学んだ見方・考え方を働かせて読んで欲しい、と願いますからね。
とは言え、そんないい例がその辺に転がっているわけではありません。新聞記事を見ても、ここで学んだ「想像力のスイッチの入れ方」をパッと援用できるものがあるわけではないのです。と言って、そんな架空の記事を自分で書くのは大変です。
「だったら、生成AIを使えばいいのではないか?」という発想から組み立てたのが今回の授業でした。
システムプロンプト
今回もコニカミノルタ社のtomoLinksを使いました。tomoLinksはシステムプロンプトを授業者が設定できるようになっていて、生成AIの振る舞いを指定することができます。今回、私が設定してシステムプロンプトが以下のものです。
長っ。でも何回かテストを繰り返した結果、どうやらこれでいけそうだとなりました。
授業の実際
前時までの復習をしつつ「やっぱり初めて読む記事で『想像力のスイッチ』を入れられるかどうかだよね。今日はその練習を生成AIを使って行おう」と呼びかけます。
とは言え、いきなり各自にやらせても色々戸惑うかな、と思ったので、まずは全体で試してみます。生成AIが「何の分野で『想像力のスイッチを入れる』例を作りますか?」と聞いてきたところで児童からアイディアを募ったら「食べ物」というのが出てきたので、それを採用。するとtomoLinksはこんな例文を出してきました。
架空の報道記事
新しいスーパーフード「ミラクルベリー」が話題に
最近、健康志向の人々の間で「ミラクルベリー」という新しいスーパーフードが話題になっています。このベリーは、食べると他の食べ物の味を変えるという不思議な効果があるとされています。例えば、酸っぱいレモンが甘く感じられるようになるのです。
ミラクルベリーは、アフリカの特定の地域でしか育たない珍しい果物で、その効果は古くから現地の人々に知られていました。最近になって、健康食品としての注目が高まり、世界中で人気が急上昇しています。
ある健康食品専門家は、「ミラクルベリーは、ダイエット中の人々にとって非常に有用です。甘いものを食べたい欲求を抑えるのに役立ちます」とコメントしています。一方で、科学者の中には、その効果についてまだ十分な研究が行われていないと指摘する声もあります。
この例の中で『まだわからないよね』と考えるべき部分はどこかを答えてください。
マジか。ミラクルベリーで公開授業するのか。と思いましたが、出てきちゃいましたからね。これでいくよりありません。
「AIから『まだわからないよね』考えるべき部分はどこか聞かれているけれど、どこだろう。グループで考えてみて。」
この話し合いがなかなか盛り上がりましたね。
この後、生成AIとの問答を繰り返しながら、
「わからなかったら『ヒントを出してください』『わからないので教えて下さい』と入力してもいいよ」
と教えて各自の活動に入りました。
授業の最後、子どもたちに「生成AIの解説やアドバイスへの納得度」を聞いたらこんな割合になりました。
これは生成AIに対して厳しい見方をする子が多い我がクラスとしては非常に高い評価がついたな、という感じがしますね。
表提案と裏提案
授業後の協議会で話したのですが、この授業には表提案と裏提案がありました。
表提案は、「『国語の見方・考え方を働かせる』を生成AIで実現できるのではないか」というもの。異論はあるかもしれませんが、これはかなりいい線いっていたのではないかと思います。
そして裏提案は「これからの時代に必要とされるドリルはこういうものではないですか?」ということです。
学校では、よくドリルが使われています。例えば漢字ドリル。確かに「何も見ないでも漢字を書けるようになる」ためには有効な練習なのかもしれません。しかし、その能力は、子どもたちの将来にとってどれほど役に立つものなのでしょうか。
ご自身の生活をふり返っていただきたいのですが、日常生活で「何も見ないでも漢字を書ける」ことが必須であることってほとんど無いのではないでしょうか。
私の場合、「漢字を書く」という行為のほとんどは「キーボードを叩いて変換する」という行為によって成り立っています。この仕事をしていても、鉛筆やボールペンを一日に一度も持たない日は普通にあります。
「あの場面では絶対に『何も見ないでも漢字を書ける』力が必要だな」と感じるのは、領収書にサインを求められる時くらいです。
もちろん、漢字を読めることや、使い方をわかっていることは必要ですから、漢字の学習自体は大切です。しかし、それは「紙に鉛筆で何度も同じ漢字を書く」ことではないでしょうし、毎週、定められた出題範囲の中から問題を出して「何も見ないでも漢字を書ける力」を測定することではないのではないでしょうか。
これからの時代に求められるドリル。それは「思考のドリル」ではないか、というのが私の提案です。
「国語で『想像力のスイッチの入れ方』は学んだ。でも、実際に使えるかどうかはわからない。」
そういう子どもたちに「想像力のスイッチの入れ方の練習」をさせるドリルに取り組ませる。こういった思考のドリルであれば、これからの時代を生きる上でも必要だろうと思います。
そして、それは生成AIでかなり実現できるのではないですか? というのが私の裏提案でした。さて、どうだったでしょうか?