見出し画像

音楽におけるエコシステムの在り方 新しい音楽の学校 nsom #3(2019/7/31)

ジェイ・コウガミ先生の第2回講義(すっかり遅れをとっている、、)
今回のテーマは「音楽業界におけるエコシステムの構築」。
どうすれば循環型かつ持続可能なエコシステムが構築できるのか、そもそも音楽業界におけるエコシステムは存在しうるのか。そんな事を考えながら。

エコシステムの実例

エコシステムと一口に言ってもマネタイズポイントからビジネスの対象、基盤やサイクルと様々だ。ここでは各IT企業が例として挙げられていた。

Apple
商品ブランドの強さ、自社プロダクトに自社OS、ソフトウェアをプリインしアプリケーション開発までを垂直統合して収益を最大化している。圧倒的なシェアを持つユーザー基盤からサブスクリプション・データ管理を含めてマネタイズしている。
Amazon
オートメーション化された配送管理システムに加えてAmazonPrimeなどでロイヤル顧客のARPUをあげ、利益率を向上。さらにAWS(クラウド開発環境)をToB向けに提供し基盤収益である土台をしっかりと形成している
Google
プラットフォーマーとしての基盤収益に加えて自社プロダクトの開発、ソフトウェアからハードウェアまで全方位的にカバーすることで多くのデータを収集。データを活用し広告配信を効率化し1顧客あたりから得る広告収益を拡大している。直近はYoutube上でのサブスクリプションサービスなどロイヤリティの高いユーザーをしっかり作っている印象

音楽業界におけるエコシステム

 音楽業界はどうか。今まではCDの流通こそがレコード会社・音楽レーベルの収益源だったが、近年はSpotifyやAppleMusicが台頭し、ストリーミングによるデジタル化が急速に進行。再生数によって版元、アーティスト、レコード会社に収益が入るビジネスモデルだがユーザー課金が定額化したこと、PFが一定程度のマージン(手数料)を得るビジネスモデルによって1再生あたりの収益性が悪化しているだろう。 
 ユーザーは低価格で好きなだけ音楽を楽しむことができるようになった一方で割りを食うのはアーティストとレコード会社という構図になりエコシステムが不健全になりつつある。さらにレーベルからするとディストリビューションが困難な状況が顕著だろう。ストリーミングの再生を伸ばすためのプロモーションという形になり今までの4マスへの露出が効果をもたらさなくなっていっている。CMソングにしたりドラマの主題歌にしたところでCDは売れないしストリーミングも伸びない。 
 グローバルスタンダードがストリーミングPFにどう流通させるかに重きが置かれるようになる中で全方位的なマーケティングの効率が悪くなり、ローカル化が進んでいる。ストリーミングアプリに限っても国によって傾向が変化しており、アーティストも国や地域に応じて注力する媒体を変えて行く必要が出てきている。この辺りの複雑化がさらなる細分化を生んでいるのではと感じた。

画像1

シフトが加速する音楽の視聴行動音楽視聴の仕方はこの数年でどのように変わってきたのか?市場の動向を調査しました。www.appannie.com

出典:App Annie調査ブログ

同時多発的音楽聴取の崩壊

 逃げるは恥だが役に立つでの星野源「恋」、ルーキーズでのGReeeN「キセキ」などドラマ経由でのヒットソングは年間で1曲あるかないか。全国民がCD発売日を待望するアーティストはいなくなり、共通の音楽に関する話題は無くなった。好きなアーティストやジャンルが細分化されたことにより、再生数や販売枚数も分散される。アメリカ、イギリスではアリアナグランデ、ドレイク、The1975、エドシーラン、テイラースウィフトなどまだまだ権威のあるアーティストが多い一方で、日本はAKB、ジャニーズ、韓流の大枠以外は分散化が進んでしまっている印象が強い。

SNSとYoutube、断片的な音楽聴取

 さらに追い討ちをかけているのがSNS発達による趣味の多様化とYoutubeによる可処分時間の奪い合いだ。動画は短尺化が進み、TiktokやYoutuberが若者のアイコンになっている。音楽聴取においてもいわゆる「ながら聴き」みたいなものは消滅し、積極的に音楽に触れようとしない限りは生活の中で音楽に触れる機会が激減しているだろう。世界的な潮流の中で日本の音楽ビジネスは着メロ・着うたが大流行りするなどの過去を見ても、かなりガラパゴスなものになっている。握手券ビジネスによるCDのバカ売れも傾向としては続いているし、MusicFMといった違法音楽アプリを用いた音楽聴取も高校生を中心として引き続き行われている。また、近年はTikTokやYoutuberなどが独自の若者文化を捉え、そこからフィッシャーズなど音楽的にブレイクするアーティストも出てきている。

Bmatとアーティストファーストなエコシステム

 この講義の最後に出てきたのはフィンガープリントという技術を用いた著作管理ビジネスである。スペインなどを中心にビジネスを展開しているBmatと呼ばれるサービス担当の方が直接お話をしてくださった。フィンガープリントはShazamなどのサービスで用いられている技術であり、サーバーで持っているメタデータと掛かっている楽曲を紐づけて一致させるというものである。Bmatではこれを用いて、ラジオ局やテレビの音源をサーバーに転送し、それらを自社の楽曲マスターデータベースと突合させて楽曲を特定する。データに応じて著作事業者が楽曲使用料を徴収し、アーティストに分配するといった形になる。分析精度はかなり高く、BGM的にテレビ番組の裏で掛かっている楽曲の一部であってもかなりの確率で特定が可能だという。

 こういった著作権ビジネスといえば日本ではJASRAC様が一強の状態だ。彼らは放送局からは全曲調査の形式で報告をとっている。把握できない飲食店やクラブなどでの楽曲再生についてはサンプリング調査と言われる手法をとり、四半期ベースで特定のライブハウスを調査し、それを全店舗に当てはめる方式である。いわゆるアナログ調査でありこれでは1再生あたりで正確な分配を行えるとはいえない。また、アパレル店舗やカフェなどでは違法な音楽再生アプリを用いているケースがまだまだ存在している。
 Bmatさんは日本でもビジネスを展開して行きたい考えだということだったが頭の固い利権者たちが新しい技術にすぐによりそう事はないのではと感じた。逆に楽曲のメタデータをマスター管理できるPFが出て来て、それがGoogleだったらYoutubeでの1再生もアパレルでの音楽再生も、WEBラジオも全て正確に把握できるようになるのではないかと感じた。PFが一番儲かる座組になるとクリエイティブなエコシステムは健全に回らないのではないか。この点は非常に注目すべきと感じた。

アーティストを中心としたエコシステムに必要な事

 著作ビジネス・ストリーミングでの音楽再生に対する分配額はアーティストにとっては非常に少額である。1再生あたりの収益を最大化することが必要になるだろう。それはつまり1ファンあたりの課金額を最大化させる事ではないか。ライブやグッズ、コミュニティビジネスを通じて再生以外の付加価値をどう作って行くか。クラウドファンディングに近い考え方も必要になってくるだろう。アーティストが株式を発行し、ファンはそれを保有する。アーティストに出資する形になることでアーティスト本人は高い利益率で収益を得ることができる反面、楽曲発表からライブまでかなりの活動を精力的におこなって行く必要がある。投資家の満足いく結果を出し続けることに縛られる事はクリエイティビティを欠く可能性が高い。そうならないためにはエコシステム側が現状の「クリック課金=楽曲再生回数に応じた分配型」のビジネスモデルからどう脱却するかだろう。CDはもう売れない。国内の総人口は減る中でストリーミングの再生回数にも頭打ちがくる。可処分時間は短尺動画やYoutubeに取られていく。さぁどうする音楽ビジネス。。

執筆BGM RUN feat. KID FRESINO / Anser to Remember
ドラマー・石若 駿の新プロジェクトからこないだ出たアルバムの先行リリース曲。フレシノの歯切れの良いラップとドラムのバチバチ感がいい。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?