千川昶

小説を読んだり、書いたりしています。 読むのは海外文学が多いです。 https://…

千川昶

小説を読んだり、書いたりしています。 読むのは海外文学が多いです。 https://twitter.com/SenkawaAkira

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  • 思い出の本棚

    かつて読んだ思い出のなかの本たちについて書きます。 書評というより、一冊一冊にまつわるエッセイといったところです。 でもこの文章をきっかけにどなたかが本を手に取ってくれたら、それはそれでとても素晴らしいことだと思います。

最近の記事

内田百閒『間抜けの実在に関する文献』

式根島という伊豆諸島の小さな島がありまして、そこは大島のひとつ南の島なのですがあまりに小さいので地下水がたまらず、海底ポンプで水を大島から運んで調達しているというところで、泊まった旅館ではシャワーを浴びるのにも節水してくださいと書いてありました。 別に何があるという場所ではないのですがむかし三日間ほどふらふらとその島に滞在し、そこで食べたトビウオの刺身がたいへんおいしかった。いやそんなことはどうでもよくて、その島には引き潮になると温泉があらわれるという入江があって、夜の八時く

    • J.L.ボルヘス『詩という仕事について』

      「手術台の上の蝙蝠傘とミシンの出会いのように美しい」というシュルレアリスト(ブルトン?)の言葉がありますが、僕はこの言葉を思い出すときなぜかいつもボルヘスの本と出会った時のことを考えます。 そのとき僕はまだ大学生でした。消費期限を5日過ぎた鶏肉を食べて腹を壊し、どうにかバイトに出勤したもののとても働けるような状態ではなくて、早退したはいいけれど家まで帰る気力もなく仕方なしに入った書店の本棚で、ボルヘスが物憂げにたたずんでいるのを見つけたのでした。もしくはただ腹痛が本をそのよう

    内田百閒『間抜けの実在に関する文献』

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