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新型コロナウイルスが生活を変えた

 新型コロナウイルスについての情報を最初に得たのは今年の1月19日だった。夫の母から「なんか新しいウイルス出たんだって。川崎の人だったみたいだけど大丈夫?」と聞かれた。

このときはまだ何のことかはわからず、「川崎ってなんかわかんないけどそういうの最初に出る事多い気がする」などと適当に答えていた。

最初に

私は医療従事者でも、新型コロナウイルスの感染者でもない。家族に感染した者もいない。その上で生活が、気持ちが、どのように変化していったのか記録する。

少し体調が悪いだけで落ち込む

2月3日、娘が風邪をひいた。38度の熱があるとのことで、保育園からお迎えの要請がきた。咳をしているので、「コロナじゃないよね……?」夫とLINEをしながら小児科へ行った。単なる風邪でしょうとのことだった。

新型コロナウイルスを知ってから、家族や自分が少しでも体調が悪いと「あ、最悪だ……」と思ってしまう癖がついた。これは、今でも続いていて、小さなストレスになっていると思う。

全国の小中学校・高校に臨時休校要請

2月27日、全国の小中学校・高校に臨時休校要請が出た。

この日、日本で新型コロナウイルス感染が確認されたのは27人。まだまだ現実感のない数字。うちには中学生の息子がいるので、休校と聞いたときは正直うんざりした。TwitterやFacebookなどでも「政府バカじゃないの?」「小学校低学年の子はどうするの?困る」と言っている人が大勢いた。私はうんざりしつつも、九州の実家に行かせればいいか、とすぐに思い直した。翌週から3週間ほど、息子は九州に帰った。

帰省を聞いたとき、母(息子の祖母)はとても嬉しそうだった。毎日食べたいものを作ってあげたいから孫ちゃんの好きな食べ物を教えて、とLINEをしてきた。親孝行になったな、なんて思っていた。

※国内感染の推移は東洋経済オンラインがとてもわかりやすい。

「インフルエンザと同じようなもの」

3月初週、合計7人の友人と会った。みんな一度はコロナウイルスに関する話をしている程度で、そんなに怖くはないと思っていた。

若者は重症化しない、死んでしまうのは既往歴のある高齢者だけ。高齢者が肺炎で死んでしまうのはよくあること。インフルエンザがたまたま新型コロナウイルスになっただけ。

今となっては、この時の認識は「ふざけるな」と怒鳴りたくなるくらい間違っている。

そしてこの週にトイレットペーパーがなくなるというデマが出回った。トイレットペーパーとティッシュペーパーが手に入りにくくなった。私もなかなか紙類を見つけられずに困った。薬局を3軒まわってやっとひとつ見つけた。その後マクドナルドに寄ろうとしたとき、自転車の後ろに乗ったトイレットペーパーを見て、「誰かにトレペ盗まれる?」という人生初の懸念をした。トイレットペーパーを抱えたままマックの注文。ちょっと嫌だなと思った。

そして週末、自治体からあらゆるイベントを自粛してくださいという要請が出た。

イベントの中止・延期が続出する

3月8日。都内で開催される予定だったイベントが軒並み中止や延期になった。夫が仕事で携わっているイベントも中止になった。取引先の人が落ち込んでいるという。「大丈夫、大丈夫。ワクチンが出来るまでだよ」とかなんとか、言ったような気がする。

その後、8日のイベントは20日に延期するという話を聞いて、「さすがにそれはまだ無理と思う。落ち着いて。誰かが死んでもいいからイベントする、というのは良くない」とか、言った。それとはまた27日に別のイベントがあって「Aさんがイベントを開催すると言ってる。そうしないとお金がもう回らないと言ってる」という話も聞いた。「自分のせいで誰かが死んだという感情を持って生きて行くのはつらい、Aさんもそんな事が起きたら潰れてしまう」とかなんとか……言った。非常に無責任だったと思う。反省してる。

実はこの時点で私は、ホンマでっか!TVで聞いた「ホンマでっか?」な情報を信じていた。新型コロナウイルスのDNA解析はもう出来ていて、ワクチンが出来るのは間近だ。ワクチンを作るのに一番時間がかかるのはDNAの解析だから未来は明るい、というような話だったと思う。だから、まだ気持ちに余裕があった。

ちなみに私の仕事はというと、インタビューした映画が公開延期になったくらいで、収入自体はあまり変わっていない。もともと自宅=会社なのでそこも変わりなし。

外出自粛要請が出る

3月14日、一日で43人の感染者が出た。日々感染者の数はじわじわと増えている。そして、最初の外出自粛要請があった。不要不急の外出は自粛。今年は花見をしながらの宴会もするなとのことだった。友達との遊ぶ約束をキャンセルしはじめる。でもまだ、4月初週の約束はキャンセルしていなかった。少し希望を持っていた。

3月19日、九州の地元にも感染者が出た。両親に強く対策を求める。無症状の人でも感染力を持っているらしいということを伝えた。

3月22日、なぜか外出自粛要請が出なかった。K-1イベントが開催されて、非難されていた。そしてSNSなどで花見をしている友人を何人か見かけた。正直に書くと嫌悪感を抱いた。それがとても悲しかった。4月初週の約束をキャンセル。

ワクチンが出来るまで最低2年

3月26日、ワクチンが出来るまで最低でも2年以上はかかるという情報を得た。この日私は、新型コロナウイルス騒動の中で一番落ち込んだ。

夫は仕事で長年プロレスに携わっている。私は業界について詳しくはないけど、2年もイベント自粛したら、団体はもちろん選手がつぶれてしまう。それが一番最悪だ、と思った。夫には「不安なこととかあるだろうけど、大丈夫だからね。仕事がなくなっても、我が家はどうとでもなるから」と言った。いざとなったら、どちらかの実家に身をよせればいいなとも思った。

けれど2年間一切試合なしで、それでもまだ残ってるプロレス団体なんて新日本プロレスくらいになるのでは?そんな世界にいる夫は、生きる気力を失っているのでは?まで想像して、強い怒りを覚えた。

このあたりから怒りがジワジワと積もっていくようになる。政府に対する怒り、まだ出歩いている人たちへの怒り、買い占めに走る人への怒り、新型コロナウイルスに対する怒り。後から後から怒りだけが恐ろしいほどにわきあがってきて、つらい。冷静に考えたら、無症状の人が感染させているって、なんだその設計。神の忖度なのか? とか考え始める。

この日陽性反応が出た人の数は93人。翌日には一日で100人を超えた。

家族と頻繁に喧嘩する

長引く外出自粛要請に、外食をしたいという欲求が強くなっている。もともと料理好きであまり外食をする方ではないのに、禁止されるととてつもなく辛くなってしまう。

このツイートを見て、あぁ、これだ、と思った。

夫とは基本的に仲良しで喧嘩はほとんどしないけれど、コロナ起因の揉め事が2回あった。外食するかしないかという普段ならとてもどうでもいい話と、政権に対する思想の違いによる喧嘩だ。嫌だ、喧嘩したくない。

そして、何度言っても外出を控えない父とも喧嘩をした。世代的なものなのかもしれないが、60代の九州の男は本当に言う事を聞かない……同様の話を友人たちからもちらほら聞く。みんな喧嘩している。

志村けんさんが死んだ

3月29日、新型コロナウイルスによる肺炎で志村けんさんが死んだ。70歳で、感染防止のために誰にも看取られずにたったひとりで死んだ。遺体は完全に焼かれてから遺族に引き渡されるらしい。あまりにも悲しい最後が報道された。

私は彼に特別な思い入れは持っていない。けれど、死ぬと思っていなかった、幼い頃から見ていた、まだ若い、両親とそう年の離れていない人が死んだ。この日は何度も志村さんの事を思い返して悲しくなった。今もまだ、悲しい。父は志村さんの訃報を聞いて、やっと未知のウイルスがどんなに怖いか理解してくれたようだった。

そして、子供や若い人の重症化例も増えているらしいという情報が出てき始める。軽症例でもひどく辛いという体験談が続々と届く。当初「若い人は大丈夫」なんて言ってたマスコミ何なの!と怒り出す人が増えた。

美容室はどうしたらいいのか

4月6日、明日にでも緊急事態宣言が出されるという。美容室に行けなくなってしまうと思い、担当の美容師さんに連絡した。

これを機に、ハイトーンのヘアカラーをしばらく美容室に行かなくてもいいくらい暗くしようか、でもそんなことしたら気持ちまで暗くなり落ち込むのでは……などと考える。それから、業務委託(つまりフリーランスと同じ)で仕事している担当美容師さんのことが心配だった。いつも人気で、なかなか予約がとれない彼女だが、予約サイトを見てみると今までにないくらい空いている。もし美容室が休みになったらどうやって生活するんだ、と思ったら涙が出そうだった。

美容師さんは「このご時世何が正しいのかわからない! いつ営業停止になるかわからないけど、予約できるところに予約してもらう分には大丈夫だよ! でも不安があったりやっぱりやめとこうってなったら直前でもキャンセルや変更して大丈夫だからね!」とLINEをくれた。

誰かこの子の生活を補償してくれ!!!

しかし政府によると幸いにも(?)美容室は不要不急の外出ではないらしい……(?)。本当、何が正しいのかわからない。
この日新しく出た感染者の数、378人。

緊急事態宣言後の街の様子

4月8日、緊急事態宣言が出て2日目。散歩がてら街を見てみたけど、意外と飲食店はあいている。でもそりゃそうだと思う。何の補償もないのに休んだら生活が出来なくなる。みんな、自分が一番いいと思う選択を取っている人たちばかり。誰も責められない。

薬局やスーパーは、ずっとピリピリした雰囲気で営業している。誰が未知のウイルスに感染しているかわからない。市場にマスクはない、消毒剤もない。ついでに日本には補償もない。なぜかたまにカップラーメンもなくなる。スーパー、大好きな場所なのに何だか最近は行くだけで気が滅入る。

健康で文化的な生活とは何ぞや。

攻撃的になっていく自分

同日、住んでる地域のFacebookコミュニティに、マスクを大量に仕入れ、高額で転売しようとしている人が現れた。泣きそうになりながら文句を打った。あなたのような人がいるからマスクが不足するのだ、医療機関に適正な値段で引き渡せ、と。私が言うことではないと思いながら夫に話すと「あぁ、あの人ね。管理者に報告してブロックした」と言われた。慌てて打っていた文句を消して、私もそうした。

普段見知らぬ人に文句を言うようなタイプではなかったのに……疲れてる。

そのときたまたまTwitterに流れて来たツイート。まさにこれが自分の身に起きた。かしこく丁寧だったわけではないが、もっと温和だった。以前の自分の生活を思い返すと、そちらの方が異世界のように感じる。日常が、あまりにも遠い。

友人が感染した

さらに、大切な友人が新型コロナウイルスに感染し、陽性が出たと聞く。呼吸が苦しく、入院をするらしい。これから人工呼呼吸器をつけることになると報告があった。

はじめて泣いた。嫌だ、つらい。言いたくもない、書きたくもない未来を想像してしまった。

今わたしに出来ること

もうどうにもできない状況だ。私は医療従事者でもないし、政治家でもない。できることがあまりにも限られている。力がないことが悔しいが、そんな中で今わたしに出来るいくつかのことをあげる。

出歩かないこと。家族を大切にすること。一人暮らしの友人の体調を定期的に聞くこと。想像すること。家の中でも出来る娯楽を考えること。正しく声をあげること。

手の伸びる範囲で考えたらこのくらいしかない。……けれど、辛かったらシェアしましょう。悲しかったら教えてください。何もできないけど、しんどかったら一緒にZoomで話しましょう。たまにはお酒なんかも飲みましょう。

どうかこの事態がはやく収束することを祈って。

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