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バーチャルツアーでつながる街と思い出!【ICHIKAWA COMPANY 社会実証実験レポート】

こんにちは、ICHIKAWA COMPANYです。
今回のレポートは「空力車(バーチャルツアー)でつながって市川の健康寿命をのばそう!プロジェクト」です。

株式会社シアンの代表取締役CEOの岩井隆浩さんとサービスデザイン責任者CDOの大平百合子さんに、実証実験での狙いや得られた効果など伺いました。

障がいのある方々がバーチャル旅行を体験できる機会を提供する

――実証実験では、空力車というバーチャル旅行を体験していただいたそうですね。

大平百合子さん(以下、大平):はい。バーチャル旅行は、身体や心に障がいがあって外出できない方がVR(バーチャルリアリティ)のゴーグルを装着し、まるで旅行に行くようなリアリティのある映像を体験いただけます。2018年から当社のサービス「空力車」として展開しているものです。

VRに限らず大型モニターを前に大勢で鑑賞していただくこともありますが、VRによってより没入感を体験いただけると考えています。

The Japan Timesで紹介された動画

――なぜこのようなサービスを始められたのでしょうか?

大平:代表の岩井は元自衛官で、航空整備士を経て、ドローンによる映像の制作会社を立ち上げた異色の持ち主です。

起業時はインバウンド向けに観光地を空撮した映像をエンターテインメントとして楽しめるサービスを開始しました。現在のような医療向けサービスを提供するようになったのは、あるきっかけからでした。

それは終末期のおじいさんのお孫さんから、最期に思い出の場所の映像を見せてあげたいとのご依頼があったのです。亡くなる数日前におじいさんには中継で鎌倉の旅を楽しむ体験をしていただくことができ、声にならない声で「ありがとう」とおっしゃっていただけました。

それが私たちの原体験となり、事業も、体の不自由な方や終末期の方向けに大きく舵を切ることになりました。

車椅子目線で届けたドローンパイロットの矜持

――実証実験は、具体的にどのような検証方法だったのでしょうか?

大平:市川市の文化会館で行い、体験者は50〜80代の男女9家族。移動が困難な方や健常者の方も含め、お声がけして集まっていただいた方々です。

これまでの取り組みと今回とで異なる点は、かんたんな腕時計型のデバイスを体験者に装着していただき、体験前と体験直後にマークシート式のPOMSと呼ばれる、気分を評価する診断テストを行ったことです。デバイスでは数値を、診断テストでは感情や気持ちなど定性的なQOLの変化を測っています。

実証実験の様子

双方がどれだけ合うのか、差があるのかなどを今回初めて測定しました。

――実証実験はトータルで何回行われるのでしょうか?

大平:2019年11月に1回目の実験を終えていて、2月中に2回目を行います(2020年2月現在)。次のステップでは市川市内の施設を利用しているおばあちゃんを対象に、昔住んでいた近所のお散歩映像を観てもらい、より少人数で、私たちの対象になる疾患のある方(体の不自由な方)に体験していただきます。1回目の数値をもとに改善を行う予定です。

――2回に分けてブラッシュアップさせるのですね。1回目の実証実験はどんな感じでしたか?

大平:葛飾八幡宮の映像を約20分間、地上+ドローン撮影をオンラインでつないでリアルタイムに体験してもらう予定でした。つまり、ライブ映像にしたのです。

――大変そうですね。

大平:そうですね。録画とは違い、ライブでは通行量や天候が毎回異なりますから、何が起きるか分かりません。

撮影は1人、補助メンバー2人の都合3名が撮影現場に付きました。私たちには車椅子のメンバーがいて「車椅子ドローンパイロット」として活動しています。

――車椅子に乗りながらドローンを操縦する?

大平:そうです。彼がメインのカメラマンを務め、ハンディカメラとドローン撮影を担当しました。ドローンでの撮影に対する想いは人一倍強く持っています。

彼は生まれつき足が不自由で歩けません。そのため、普段の生活でも1メートル先の景色ですら観られずに悔しい思いをした体験があったそうです。「もっと景色が観たい方や自分と同じような苦しい思いをしている方にもっと届けたい、伝えたい」。

その強い想いと熱量でこのプロジェクトに関わってくれています。また、車椅子を日常で使っている方の視線の高さから見渡せる景色を撮影できるのも彼の強みです。

岩井隆浩さん(以下、岩井):彼曰く「実際に行ってみたいところは山ほどある、でもそこがバリアフリーかどうかは分からないから、行けない」。だからこそ、これまで行けなかった場所をもっと気軽に観られれば、との思いが彼にも私たちにもあります。

彼は関東に住んでいますが、ドローンの民間資格を取得するのに車椅子で通える場所がなく、わざわざ静岡まで通っていたほどです。

双方向性のある深いコミュニケーションへのこだわり

大平:今回はバリアフリーで撮影がしやすい環境でした。しかし、当日はかなりの大雨。そのため、結果的にドローンは飛ばせませんでした。

また、録画でVR体験してもらうこともできました。それでもリアルタイムにこだわったのは、映像を見る体験者のコミュニケーションを誘発したかったからです。

――会話をして欲しかったということでしょうか?

大平:はい。活きた会話を通じて体験者の深いコミュニケーションを促し、VR体験をより豊かでリアルなものにしたかったんです。

VRゴーグルを装着している方と家族間の会話、あるいは撮影場所に体験者が昔よく通っていた八百屋さんのご主人がいれば、会話していただくことも考えられます。その豊かな体験は録画ではできません。活きた会話でこそ、医療効果という価値を生み出せるのではないかとの仮説を立てて私たちは実証実験を行いました。

体験を始める導入部では「今日はドローンが飛べないけど、背中に乗った気分で行きましょう!」などと声をかけ、遊園地のアトラクション風に盛り上げました。

――エンタテインメントの要素も盛り込んでるんですね。

大平:現地と音声をつないでインタラクティブに会話ができることで、体験者は、境内を散歩するように流れるVR映像を観て思わず声を漏らします。

「ここは散歩でよく通っていた」「よく通った場所があるのでもっと右を観たい」など、思い出話やリクエストが飛び出します。「撮影しているのはどんな方なの?」などカメラマンとの会話も生まれました。

逆にカメラマンの視点から「車椅子だと段差が大変ですよね」と、レポーターのように語りかけることもありました。

――和やかな雰囲気が想像できますね。実証実験を通じて、さらに体験を豊かにできそうな気づきはありましたか?

大平:できるだけ参加者の皆さんに思い入れのある場所や知っている土地などで体験いただくことで、なるべく会話の量が増える仕掛けがいいと考えています。

今回の体験者の中にはその場所に馴染みのある方もいた一方で、あまり知らない方もいました。今後は、全員を馴染みのある場所に連れて行けるようにすることが課題です。

ドローン映像は体の不自由な方の雇用も生み出せる

――実証実験を終えて、QOL向上を支えるハード面での改善点は出てきましたか?

岩井:機材や通信の不安定さは課題に残りました。音や映像の遅延や乱れがどうしても発生してしまい体験者のストレスになるため、これから一つひとつ解決してきたいです。

市川市の実証実験は日程の都合上、雨の中での強行でした。撮影班側は寒くて土砂降りの中でこれまでにない悪条件だったため、機材がエラーを時たま起こしました。

逆に言えば、そういった悪条件下で起こりうる細かな部分のトラブルをシミュレーションできたいい機会にはなったと思います。

――ほかに参加者から聞かれた声はありましたか?

大平:先ほどの「思い出の場所はコミュニケーションを深める」とは矛盾しますが、この体験が旅行の下見になるとの意味で「一度も行ったことがなかったけれど、この神社が気になるから次の旅行で行ってみたい」との声が聞かれ、嬉しかったです。

また、「どこにでも行ける気がする」「私はかつてスキューバダイビングをしていたので、次は海も行ってみたい」などの感想が聞かれました。

神社など観光地の魅力や旅の楽しさは体験者に伝わったのではないでしょうか。観光への興味喚起を通じて市川市などの自治体に貢献できればと思います。

――もっと多くの方に活用していただくために考えている施策はありますか?

岩井:将来的には移動が不自由な方や認知症の予防など精神医学の分野で当社のサービスが使われることで、みなさんのQOL向上に寄与できるためにもっと実証実験のエビデンス(証拠)を重ねていきたいです。

今後は特に、医療とヘルスケアの領域でドローンを活かしたサービスを重点的に展開していきます。しかし今までにない世界観のため、導入・体験していただくまでのハードルがかなり高いのが課題です。

興味を持ってくださった医療機関と話をしても「VRを付けることは命に関わらないか?」と不安がられてしまうこともあります。

まだまだVRやドローンを含めたバーチャルな体験を社会が受け入れる体制が整っていません。また、私たちも持続可能な活動にするためには利益を出し続ける必要があります。

一方、映像の提供者側の視点からも、「ドローンパイロット」は遠隔地からの操縦が可能なため、障がい者の新しい職業になり得るんです。

ドローンを使って、離島や災害現場などへ薬や救援物資を運ぶこともできます。医療、ヘルスケアの分野なら、全て当社の空力車に任せていただけるようになりたいです。

――ありがとうございました。

――

心や体が不自由な方のQOLために、ドローンとVRを駆使するシアン。旅はただの娯楽、と思われがちですが、家族との思い出は旅行の記憶が多いのではないでしょうか。旅のいい思い出は、全ての人を笑顔にできる特別なものです。近い未来、バーチャルツアーは生活の質を向上させるために欠かせないものになるかもしれません。

ICHIKAWA COMPANYならびに市川市は、市民のみなさんと専門性の高い民間企業の協力のもと、先進的な取り組みや課題解決を通じて都市のよりよい未来を目指しています。

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