つまらない理由で会社を休む
せっかく有給を取るんだったら有効に活用したいものだ。しかし、意図せずくだらない理由で仕事を休まなくちゃならないこともあるにはある。
僕は「あんまん」のせいで会社を休んだことがあった。そうそれは、ちょうど今日と同じように冷え込む日だった。雪もちらついていたかもしれない(ちらついていなかったかもしれない)。
夜中、小腹が空いた私は、冷蔵庫にチルドのあんまんがあることを思い出した。軽くラップを掛けチンするだけ。ホッカホカのあんまんの完成である。早速かぶりつく。熱い! エクストラホッカホッカだ。慌てて口を離す。
食べかけのあんまんから、中身のあんがてろりとこぼれ落ちる。私はとっさに空いていた手の平で、落ちてくるあんを受け止めた。
「ぐぅつぁい!」
溶岩だった。あんを拭おうと手を振ってしまったのもいけなかった。スライムのように溶岩(あん)が手の平に広がっていく。悶絶して、あんまんを掴んでいる方にも力が入る。そっちからも追いあんが溢れ出てくる。私はあんまんを叩きつけた。
洗面所にダッシュして水であんを洗い流す。両手の手の平がみるみる膨れ上がっていった。床には元あんまん。壁には殺人現場に残された血痕さながらに飛び散ったあん。地獄か。両手の痛み(とあんまんへの怒り)のせいで、その日はほとんど眠ることができなかった。
翌朝になっても痛みは続き、マウスもキーボードも触れない状態だった。なんとか電話を手に取り、会社にかけ「両手を火傷してしまったため休みます」とだけ告げた。
明くる日。両手に包帯を巻いて出社した。「大丈夫?」「何があったの?」と尋ねてくる周りに対し、私は「ちょっと」とだけ返した。もちろん相手の方を見ず、空を見上げながら「ちょっと世界を救ってきた」感を出してだ。
それ以来、また世界を救わなくてもいいよう(あるいはつまらない理由で会社を休まないよう)、あんまんを食べるときには細心の注意を払っている。それが大人ってもんだろ?
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