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手土産

知り合いの家へ行くとき、頭を悩ませるのが「手土産」だ。大げさなものでなく、ちょっと気の利いたものを持っていきたいと思うのだが、それが案外と難しい。相手の生活スタイルや家族構成なども考慮し、「もらってうれしい」「ちょっと役に立つ」ものがいいと思っている。

例えば、4人の子を育てながら、パートで働いている友人に会いに行くとき、子どもたちのおやつになるお菓子を焼いていったり、夕食のおかずを多めにつくっておすそ分けしたりする。食べ盛りの子どもたちのため毎日忙しなく料理する彼女には、夕食の1品が増えることが多いに助けになるらしい。

一人暮らしの友人宅には、わたしが普段食べている気に入りの海苔や鰹節、紅茶などを持参する。どれも日持ちがするので、慌てて食べる必要がない。小さめのパックに入ったものであれば、賞味期限も気にせずに楽しめる。「急いで食べなきゃ」と、相手を急かすような食べものはなるべく避けたい。

持参した手土産をたいへん気に入り、その後ネット経由で取り寄せているという話も耳にする。自分の気に入りが誰かの気に入りになるのはうれしい。自宅にはいくつか乾物や保存食、お茶のストックがあるので、急に手土産が必要になったときにも助かっている。

一方、わたしがもらって一番記憶に残っている手土産が「食べかけのシュトレン」。あれはクリスマス前のある日、友人が我が家に来て一緒にお茶を飲んだ。彼女は仕事に育児に忙しく、しかも近所には手土産が買えるような店もない。畑で採れた野菜と一緒に渡されたのが、とある人気店から取り寄せたというシュトレンの「残り半分」だった。

小ぶりのシュトレンは、薄くスライスしても4切れほど。「食べかけで悪いけど…」と、恥ずかしそうに包みをそっと差し出す彼女。一瞬「え、食べかけ…」と思ったけれど、彼女は4人家族、残りの半分は家族で1切れずつ食べたのだろう。そんな貴重なシュトレンをもらってもいいのだろうか、と手を伸ばすのに躊躇する。

「とても美味しかったから、よかったら。ネットではすぐに売り切れてしまったみたい」と、彼女の手がさらに伸びてくる。小さな包みをありがたく受け取り、翌日から1日に1切れだけと決めて食べた。手土産を選ぶ時間も場所もなく、どうしようかと考えた末、目の前にあった食べかけのシュトレンをバッグに入れた彼女の姿が想像できる。それがちょっとうれしかった。洋酒が効いたそれは、一足早いクリスマスプレゼントになった。

つい体裁を気にしてしまいがちだけど、値段や見てくれではなく、「これを食べてもらいたい」という気持ちをそっと添えて、手土産を渡したい。