pixiv小説の傾向について(2015年4月執筆)

※当時「Febri」(一迅社)に寄稿したものですが「記録」として再掲します。数字や小説賞、傾向などはすべて当時のものです。


 pixivといえばイラストや漫画の印象が強いひとも多いかもしれない。しかし実は小説も根強い人気がある。PVだけでいえばpixiv全体のアクセス数の約3分の1を占めるという。「小説家になろう」や「E☆エブリスタ」、「アルファポリス」といった小説投稿サイトとはまた違った生態系がそこには存在しており、pixivらしい数々のコンテストも開催されていて、最近ではそこから書籍化された作品もうまれている。膨大な投稿数をほこるpixiv小説のすべてを語ることは到底できないけれど、ここではほんの「さわり」を紹介していきたい。

①二次創作(SS)

 イラストやマンガ同様に、やはり小説でも女性向けの二次創作がたぶんいちばん盛り上がっている。今なら『刀剣乱舞』が圧倒的。男に人気なのは『やはり俺の青春ラブコメは間違っている』や『ラブライブ』など。イラストやマンガ同様にタグを辿って読むのが一般的かと。ほかの小説投稿サイトでは二次が禁止されていたり、好みのカップリングでの検索がしにくかったりするなか、pixivは規約もそれほど厳しくなく、使いやすいのが特徴。

②公式二次創作(コンテスト)

 pixivはつねにいくつかのコンテストを行っているが、小説の募集もある。2014年夏にはKADOKAWA「カゲロウプロジェクト小説コンテスト」が行われ、優秀作品はKCG文庫から『カゲロウデイズ ノベルアンソロジー』として2015年4月現在までに2冊刊行されている。本年2015年にはLast Note.『ミカグラ学園組曲』アニメ化に合わせて「ミカグラにオリキャラを出そう!部門」が行われたりしている。

③オリジナル小説コンテスト

 二次だけではなく、オリジナル小説のコンテスト(新人賞)もある。もっとも大がかりなものはavex pictures、GREE、Sammy、pixiv、KADOKAWA5社協同開催による「ミライショウセツ大賞」。これは2014年に始まったコンテストで、大賞受賞作品はアニメーション化、映像化(!)、優秀賞作品は書籍化される。部門は2つ。ひとつは「テーマ部門」。これは募集期間ごとに設定された「一攫千金」や「ネコ」といったお題にに沿った小説を書き、参加タグをつけて投稿するというもの。もうひとつは「ミライショウセツ部門」。こちらはジャンル不問で、書籍化にふさわしい作品であるかどうかだけが問われるというもの。第1期は4600件以上、第2期は6000件以上の投稿を集め、2015年5月現在、優秀作を受賞した池部九郎『LOST ~風のうたがきこえる~』(ファミ通文庫)、ゆずりは『Be mine!』(KCG文庫)、ゆずりは『相沢美月は今日も一途に恋をする』(ビーズログ文庫アリス)が書籍化されているほか、続々と刊行予定。

④オリジナル小説

 コンテスト応募作を含め、主立ったオリジナル小説は「ピクシブ百科事典」内の「pixivユーザー原作オリジナル小説まとめ」にリスト化されている。また、ブックマークが多い作品は「オリジナル小説○○users入り」タグ(100、300、500、1000、1500がある)で確認できるので、pixivのオリジナル小説ってどんなもんかいな、という方はそのあたりから辿っていくのが入りやすいだろう。
 ちなみに今のところいちばんブクマが多いのは日本大学で駅伝選手として名を馳せた佐藤祐輔選手による「同居人は屍です。」である。ごぞんじない方はググっていただいたほうが早いが、簡単に言うと2014年の箱根駅伝で日本テレビの実況アナウンサーが「柏原なきあと……」と発言したのを受けて柏原竜二選手が「テレビ実況では死んだことになってるアカウントはこちらです」とTwitter上で反応、さらには「同居人は屍です。」というタイトルのラノベを発売しようかな、とつぶやいたことから同居人であった佐藤選手が冒頭部分を執筆して投稿、という経緯である。
 長篇小説ですらないこの完全なネタ企画がトップであり、500や1000usersを獲得する小説もまだそれほど多くないことからもわかるように(人気作品はどれも個性があっておもしろいけれど)、まだまだオリジナルは発展途上、よくいえば未知の可能性があると言える。「なろう」や「エブリスタ」では有名作品から派生してできた「勝ちパターン」があるていど決まっていて、そのフォーマットにのっとったうえでアレンジをくわえないとランキング上位作品になりづらいという傾向は、pixivのオリジナルではまだそこまで見られないように思う(コンテストから人気のオリジナル作品が生まれて映像化されたりすればおそらくフォロワーがたくさん現れてpixiv小説のカラーも対外的に定まってくるのだろうけれど)。

⑤商業小説の掲載媒体

 数多くのマンガをウェブ掲載している「pixivコミック」内には、マンガだけではなく集英社のBL小説レーベル「fleur(フルール)ブルーライン」およびTL小説「fleurルージュライン」が読めるほか、杉井光『六秒間の永遠』や岡田伸一『少年と老婆』、山田悠介『奥の奥の森の奥に、いる。』といった商業作品が試し読みできる(2015年4月現在)。

 二次にしてもオリジナルにしても、深掘りしていけば話題はたくさんあるけれど、ここでは通り一遍のご紹介ということでご容赦を。
 

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