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『衝撃!!誰でもできるビジネス成功法』

この方法を知った時、わたしは驚愕のあまり運転席から落下しそうになった。あわや交通事故である。
現場が医療体制の整った場所だったという事が不幸中の幸い。
怪我してもお薬が置いてある薬局の前だったからだ。
先日、ショッピングモール内の薬局の前にあるぞうさんの乗り物に乗っていた時、それは起こった。

こんな簡単な方法でビジネスを成功させる方法があったとは。元手や労力はいらない。なぜこんな方法が今まで世に出回ってなかったのかは、おそらく成功者が伏せているからである。
財を成した者は少なからずその手段を伏せる癖がある。
わたしが横断歩道を渡る時、そっと白い所だけ歩くようなものだ。なぜならば、白い所は陸で黒い所は海であるからにして海にはサメがいるから噛まれるからである。これは小4の時に友人から習った。勿論、社会の常識としてマナーとして、とうりゃんせが流れる横断歩道では今でも大声で歌いながら渡っている。

ビジネススーツを着て、ぞうさんの乗り物に乗っていたわたしに話かけてきたのは小学校6年生の男だった。6年生の言う事は聞きなさいと小学校1年の時に担任の先生に言われた事がある。それ以来、わたしはその言葉を頑なに守り続け、中学3年になっても高校3年になっても社会人になっても、6年生の言い付けは何でも聞くようにしている。

「お金が儲かる方法があるよ」

いい人なのは間違いない。その証拠として、持っていたチョコレートを三千円で売り付けようとしていたのを直ぐ様千円に値引きしてくれたからだ。
それと、8月8日はゴロ合わせで母の日だからカーネーションとおいもを買っていくといいよ、と使える知識を教えてくれた。お花は食べられないからおいもだけたくさん買いなさいと進言もつけて。

「大人気だよ!みんなやってるよ!」

わたしはその言葉に弱い。
先日、街中に人の列ができていて、これは何か価値ある時間の浪費だと列に並んだらスクールバスの列だった。
バスの中でわたしは黄色い斜めかけバッグと黄色い帽子の子達に「なんで?なんで?」と30回程聞かれたものだ。

目の前のバーとチョコレートバーを握りながら、わたしは男の話を保留にした。
考えてもみてほしい。現在、運転中なのだ。
乗るなら飲むな、は道徳を基盤とした常識である。運転している間はビジネスの話であろうと飲めない。
触りの部分だけ聞いて驚き落下しそうになった。
前後にノッキングするその動きはマニュアルの軽自動車のギアを適当に入れた時の動きに似ている。
これはもう、大人がしか乗りこなせない。前に進むには相当の技術と訓練がいるのだろう。そうなのだ。
一向に、前進しないのである。

難易度の高い乗り物に挑戦しているわたしに憧れているのだろう。ショッピングモール内で買い物をしている客はわたしを取り巻き、いつしかわたしは注目の的となっていた。
中には子供に目を背けさせる親などもいたが、あれは、自分の親より凄い大人がいるんだと認識させてしまっては日頃の躾に支障をきたし都合が悪いという教育上の観点からだ。模範となるべき存在が目の前にいては都合が悪いのである。

以前、買い物かごを入れる“後方に乗る所がついたカート”に足がはまった事がある。大人なら一人乗りができるだろうと乗り込んだところ、はまってしまい入り口野菜コーナーの所から動けなくなってしまった。その時と状況は似ている。
わたしは今乗っているこのぞうさんでショッピングモール内を進みそれで買い物をしようと思っているからだ。
しかし、一向に前に進まない。
ギャラリーは増えていく一方だが、50円玉は減り続ける。
だが、わたしには確信に満ちた案があった。

「ブーン!」と言えば進むと思う。これはなにも熟練した技術者等から習ったわけでなく、四才ぐらいから思っている直感だ。
わたしは、未だにその直感を信じていて、何か前に進みたい時には、よく「ブーン!」と言っている。
大学の時に、早く専門知識と技術を身に付け社会貢献へ向けて前進したいという想いから、講義の最中に、よく「ブーン!」と言っていた。
周りの生徒は、尊敬と憧れの念でわたしを見ていたに違いない。「ブーン!」という度にわたしを中心にドーナツ化現象が起こったのは近づけない程レベルの高い存在という事を認識されている事を示唆するものであったのは想像に固くない。

講義回数も後半になると、一番前の真ん中の席で教授を目の前にして、「ブーン!」と言っていたものだ。
教授はわたしに“優”や“良”や“可”こそはくれなかったが、たまに、そっと飴などのお菓子をくれた。
やはり、崇高な有識者である者からしたら志の高い者はわかるのだろう。心で思っている事を発露する事は大切である。

「ブーン!」

わたしが叫ぶと、ショッピングモール内のわたしを取り巻くお客さんのギャラリーがざわついた。
もう少しでぞうさんは前進するんではないかと期待がそのざわつきには込められてると瞬時にわかった。

「ブーン!」

しかし、ぞうさんは一向に前に進まない。
思えばこんな掛け声で進むはずがないのだ。不覚だった。そんなに簡単に乗りこなせてはパイロットやF1ドライバーに申し訳ない。なぜならば、彼らもこのぞうさんには絶対に乗ろうとはしないと聞いた事がある。おそらく、運転できる自信がないのだ。
しかしだ、わたしを甘くみないでほしい。いい方法をすでに思い付いているのだ。これならば、前に進むだろうという秘策を。これならば、どうだ。わたしは、叫んだ!

「ブン、ブーン!!!!」

会場はどよめき、なにかしら熱気のようなものを感じた。
これは、いける!わたしはさらに大きな声で叫んだ!

「ブン、ブーン!!!!」

その時だ。警備員の数が増えた。
かつて、ビートルズが来日した時も、羽田空港の警備員の数はかなり増えたと聞いた事がある。
照れ臭かったが自分がスターであると自覚した瞬間だった。
わたしは、ポールマッカートニーのように大衆に手を振った。
大衆は散り散りに走り去っていく。わかっている。
わかっているのだ。時間はもうすでに夕方6時。天才テレビくんが始まる時間だ。走っておうちに帰らないと間に合わない。
この時間のEテレは、おじゃるまる、にんたま乱太郎、天才テレビくんと社会人なら見逃してはいけない時間帯。
わたしも、ぞうさんを降り走った。
6年生が追いかけてきた。「ビジネスを成功させる方法があるよー」。わたしは言い値の千円支払い方法を聞いた。
内容をまとめると、“そのままでいい”ただそれだけだった。その意志さえあれば、必ず辿り着くと。ここまで読んでくれたあなたはその意志があるという事だから成功する。いづれわかる。いづれ。わかる。6年生はその事実を4年生から聞いたというのだが、「♪4年生は酔っぱらって~」と歌でもあるように、酔いを好む程人生を深く考える事から真実である可能性は高い。1年生は石投げて2年生は逃げるのまではわかるが、5年生がゴリラなのは未だに思い出し怖くなる事がある。

帰れない。
ショッピングモール内を走ったのだが、駐車場のどこに車を駐めたのか忘れたのだ。かつての偉人たちは正直である事が幸せに繋がるという事を再三言っている。
わたしは正直に、インフォメーション受付の人に伝えた。
「迷子です」
お名前と来ていた服や特徴を教えて下さいと、受付の人は言った。わたしは名前と特徴を告げた。
しばらくして、館内アナウンスで全体に受付の人の声が響き渡る。
「迷子のお知らせをいたします…」続けてわたしの名前と特徴がアナウンスされた。
ここにいるのに。
とりあえず、受付の人の隣りに座り無言で二時間が経過。
正直な結果はこれなのか、思っていると突然飴をもらえた。
今日一番のガッツポーズだ。心で思っている事を声に出して言うと飴がもらえる。これは大学の時に学んだ事だ。あまりに嬉しかったので袋ごと舐めたら受付の人はどこか行ってしまった。おそらくお買い物だろう。
閉店間際は駐車場も車が少なくなって自分の車を探しやすい。わたしはボンネットにふりかけのおまけのシールがたくさん貼ってある自分の車を見つける事ができた。

帰ってからその話を母親にすると、親戚の叔母さんに電話をしながら涙を流していた。息子の立派な成長に感動しているのであろう。照れ臭いので、録画してあった“おかあさんといっしょ”を視ながら「一緒じゃないし!一緒じゃないし!」ふて腐れたように言い放ってはテレビの画面をベタベタ触ったりしていた。わたしにもついに反抗期が訪れたようだ。
しかし明日になればちゃんと親孝行するさ。
バイトをするのさ。


わたしは、バイトをする。
ウーバーイーツの。
自転車には乗れないので、
無理矢理に言ってでも補助輪を付けてもらう。

補助輪を付けて街中を走っているウーバーイーツを見かけたら、それは、わたしだ。

気軽に話かけてほしい。

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